超常異能の改変作家 第3話

  *

 ――これからの話は、じっくり読めばいいと思う――。

  *

 ――朝日……のようだ。

 日光を浴びているような。

 その光は窓から放たれている。

 太陽の光である。

 そう……僕がいた世界と同じ光だ。

 窓がある……ということは、ここは部屋だ。

 だけど、確実に言えるのは自分の部屋じゃないってこと。

 それくらいのことは自分だって理解している――。

 ――えっ? ……「自分」ってなんだ?

 なんで僕は自分のことを「自分」と認識しているのだろう……。

 そもそも、ここはどこだ?

 目は、まだ開かれていない。

 開くのが怖い。

 開いたら、なにかを知ってしまう気がして。

 衝撃の事実が目の中に入ってくるような気がして。

 目を開く前に状況を確認しよう。

 まず、僕はどこにいたか。

 これは簡単だ。

 一人暮らししているアパートの自室だ。

 僕は薬と酒を一緒に飲むことを繰り返し、大量摂取による強制的な最期を迎えたはずだった。

 そうだ……確実に「最期」を迎えたのだ。

 僕の部屋には異臭が立ち込めていた。

 くさい臭いの……ね。

 それと打って変わって、ここはくさい臭いとは真逆の、いい匂いがする。

 なんだろう……女性の香水みたいな感じの、だけどそんなに刺激的じゃない優しい匂いだ。

 まるでゆっくりと包み込んでくれている……そんな気にさせてくれる。

 つまり、ここは「僕の部屋」じゃない。

 ここは、どこだ――。

 ――背中にやわらかい感覚がある。

 ベッドのような……いや、これベッドだ。

「僕の部屋」のベッドより高級なベッドだ。

 目を閉じたまま両手を広げる。

 その両手を目の前に出す。

「ん?」

 思わず声に出してしまった。

 ベッドよりやわらかい感覚が両手に伝わる。

 なんだろう……マシュマロみたいな。

 ずっと触っていても飽きないな……。

 ――ずっと触っていよう。そうしよう。

 ぐにっと何度も両手で「その物体」を触った。

 それは体験したことのない感覚だった。

 だけど、家庭を持つ父親なら妻の……を何度も触れたであろう感覚だ。

 そんなに珍しい感覚ではないのだが、僕は感動していた。

 だって僕にとっては「三低の童貞アラサーおっさん」である事実が理由で一生触れることのない感覚だったからだ。

「あれ、おかしいな」

 涙が出てきた。自然に。勝手に。

 こんなにも「救われた」と思う感覚は初めてだったから。

 ――この感覚を信じていいのだろうか。

 僕は生きている。

「最期」を迎えたはずなのに生きている。

 それがうれしくてたまらなかった。

「これが生の喜びなのですね……」

 ――目を開けよう。

 そう決意した瞬間だった。

「……えっ?」

 目の前には美少女の顔があった。

 だけど、そのまなざしは怒りに満ちている。

 なんで――。

「――そんなに怒っているのですか?」

 その問いに彼女は――。

「手をどかしてもらえるかな、タイコー」

「タイコー?」

「あなたの手をどかしてもらえるかな……ラエン・タイコーくん?」

 状況がよくわからない。

 なんで目の前に縁もゆかりもない美少女がいるんだ?

 僕は両手の感覚に身をゆだねる。

 ふにっ、ふにっ。

 マシュマロのようにやわらかい彼女の胸の感覚が伝わる。

「……えっ……と……」

「タイコー、その手を放しなさい。また、揉むのであれば……殺す」

 暗黒の想いが込められた微笑みだった。

 魔王のような……瞳を閉じて、にっこりと笑う……魔王の微笑みだった。

「ひぃっ!」

 僕は瞬間的に手を離した。

 一ミリたりとも揉まないように。

「それでいいのよ。よくないけどね……」

 天然キャラがとぼけるような笑みをする彼女。

 いや、よく見ると全然笑ってないんですけど。

 不安定な笑いするの、やめて――。

「――タイコー兄ちゃんっ! 起きた?」

 僕のことを「タイコー兄ちゃん」と呼ぶ彼女がドアから現れる。

 これもまた美少女。

 妹キャラという感じか。

 彼女たちは僕のことを「タイコー」と言っているから返事するべきなのかな……よし、返事しよう――。

「――起きた、よ? えっと、これはどういうことなのかな?」

「……どういうことって、どういうこと?」と、目の前の「魔王」は答える。

「どうして僕は、こんなところにいるのかなあ……って」

「はあっ?」「ふえっ?」と、二人の彼女は言った。

「タイコー兄ちゃん、どうかしたの? 頭おかしくなった?」と、「妹キャラ」が言う。

 妹キャラが「頭おかしくなった?」とか言うなよ。

「様子がおかしいわ。ちょっとアサネさん呼んでくる」

 目の前の魔王は部屋を出ていく。

「……ふぅ」

 そっと胸をなでおろす。

「どうしたの、タイコー兄ちゃん? ハツメ姉ちゃんを前に緊張しちゃって……幼馴染でしょ?」

「ハツメ? さっきの子はハツメという名前なのか?」

「そうだよ。ワカナ・ハツメ。漢字で書くと若い菜に初めての芽で『若菜初芽《ワカナ・ハツメ》』。よく知っている名前でしょ?」

 いや、よく知らないんだけど……というか、なんで漢字の説明?

「ちなみにあたしはタイコー兄ちゃんの妹であるラエン・イクモ。鳥を捕まえる網の意味を持つ羅に、まるい円、いきる生、萌え~の萌で『羅円生萌《ラエン・イクモ》』だよっ!」

 名前の由来を説明するときに「萌え~」なんて今どき使わない表現するなよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?