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Qualium:自然とテクノロジーの融合による「人新世」的認知

Qualiumについての概要

 Qualiumとは、「個に閉じない、系(システム)としての認知」であり、実現のためには、環境変化や自然災害などのように非人間の要素(アクター)が複雑に関与する現象や、人工知能などにより高速に生成される現象や、既存の言語や知識体系に適合しないような新しい現象に対して、時々刻々と新しい言葉や概念を生成しながら現象を表象する「現象言語」が重要な役割を担う。
 「現象言語」により表象された認知的情報の入力・出力の機構が縦横無尽に絡まり合うことで、時間の制約を超えて、地球上あるいは宇宙も範囲に入れた空間にあまねく存在する人間や非人間、生態系、物体の個・全体・関係性を内包した「個に閉じない、系(システム)としての認知」が可能となり、「人新世」における持続可能な社会や共生の在り方の模索や、状況判断や問題解決に貢献する。

目次

  1. 技術史としての記憶、創造、認知
     技術史を通して人間の記憶、創造、認知の在り方について、抜本的で不可逆的な変化の歴史を辿りながら、未来の創造や認知について、人間存在の実存的なアイデンティティについて語る。

  2. Qualiumと「現象言語」
     自然言語では表象することが困難である複雑で変化・生成の速度が高速な現象や、既存の言語や知識体系に適合しないような新しい現象をより包括的に表象するために必要な言語として、「現象言語」という概念を導入し、時々刻々と新しい言葉や概念が創造される生成的な言語とQualiumについて語る。

  3. Qualiumと思想哲学
    アクターネットワーク理論、マルチスピーシーズ人類学、オブジェクト指向存在論、ハイパーオブジェクトなどの、Qualium に関連する思想哲学について紹介するとともに、Qualiumが見据える未来像について語る。

  4. Qualiumと技術
    AI、BCI (脳-コンピュータ・インターフェイス)、IoT、GIS (地理情報システム)などの、Qualium に関連する技術について紹介するとともに、これらの技術が連携・補完することについて考察する。

1.技術史としての記憶、創造、認知

  1. 記憶(インターネット):インターネットは、情報空間で行われる人間の行為の集合として生成されるというシステムが「集積的な記憶」であるとすると、人間の脳の記憶容量をはるかに超える情報を外部化することにより人間の記憶の制約を広げ、世界の多様な情報が生成されると同時に、人間の脳は「記憶」から、「記憶」をもとにした「創造」へと価値の転換が起こる。

  2. 創造(人工知能):人工知能は、インターネットが生んだ「集積的な記憶」と高速の計算資源によって創造的探査 (可能な探索空間から適切なものを抽出する行為) を高速・高精度で行うことで実現される「集積的な創造」であり、人間の創造的探査空間をはるかに超える創造的探査空間を外部化することにより、人間が「創造」することの相対的な価値は低減するものの、人工知能を用いた多様な創造の可能性の探究や、人工知能により補完・拡張された創造の探究を行うことにより、人間による創造とは比較にならない多様な創造が生まれる。また、従来の「創造」は人間の脳によってシングルスレッドで処理を行っていたが、「創造」の外部化によって、計算処理の並列化が可能となり、実時間の処理限界は実質的になくなる。

  3. 認知(Qualium):Qualiumは、時間、空間、人間、非人間などの制約を超えた「集積的な認知」であり、「集積的な記憶」と「集積的な創造」を基礎としており、自然言語と人工言語が混在しながら時々刻々と生成される「現象言語」を通して、認知的情報の入力・出力の機構が縦横無尽に絡まり合い、時間の制約を超えて、地球上あるいは宇宙も範囲に入れた空間にあまねく存在する人間や非人間、生態系、物体の個・全体・関係性が認知可能となる。そこでは、個人的な「認知」は、システムとしての認知によって相対化されるものの、人間の認知領域が広がり、経験や人生の意味付け自体が転換するとともに、系に対する認知を持つことで「人新世」における持続可能な社会や共生の在り方を模索することに貢献する。

2.Qualiumと「現象言語」

「現象言語」は、「自然言語」のように一定の文法や単語に基づいて意味が構成されるのではなく、逐次的に変化する現象に追従して、時々刻々と新しい言葉や概念が創造される生成的な言語であり、複雑で変化・生成の速度が高速な現象や、既存の言語や知識体系に適合しないような新しい現象をより包括的に表象するために必要な言語である。

環境変化や自然災害などの非人間の要素が複雑に関与する状況や、人工知能やIoTなどの技術によって時々刻々と変化・生成する情報を人間が認知するためには、一定の文法や単語に基づいて意味が構成される「自然言語」では現象の変化速度に対応できない上に、それぞれの「自然言語」が内包する認知的枠組みのなかで現象を表象するという制約が生まれる。一方で、「現象言語」によりそれらの現象を表象することにより、より包括的な表象が可能となる。

複雑で変化・生成の速度が高速な現象や、既存の言語や知識体系に適合しないような新しい現象との関係性のなかで生成された「現象言語」は、現象に対する解像度の点で自然言語の限界を超えながら、人間や機械が認知した現象を「現象言語」として表現し、共有することによって、個の認知をシステムとしての認知により相対化し、「個に閉じない、系(システム)としての認知」が可能となる。Qualium(時間、空間、人間、非人間などの制約を超えた「集積的な認知」)の実現において「現象言語」は重要な概念である。

3.Qualiumと思想哲学

 Qualium は、人間と非人間の枠組みを超えた認知体験に関する概念であり、さまざまな思想や哲学とも関連がある。以下は、そのいくつかの例である。

  1. ANT (Actor-Network Theory):アクターネットワーク理論は、人間と非人間のアクター(行為者)が相互に関連し、ネットワークを形成することで社会的現象が生まれるという考え方です。Qualium は、この考え方に基づいて、人間と非人間の相互作用を通じて認知体験が拡張されると捉えることができます。

  2. マルチスピーシーズ人類学:マルチスピーシーズ人類学は、人間だけでなく他の生物や生態系との関係性を研究するアプローチです。Qualium は、このような多様な生命体との共生を通じて、認知の拡張が可能になるという観点から関連しています。

  3. OOO (Object-Oriented Ontology):オブジェクト指向存在論は、人間中心主義を超えて、すべての存在(人間、非人間、生物、無生物)が対等な存在として扱われるべきだと主張する哲学です。Qualium は、OOOの視点から、人間と非人間の枠組みを超えた認知体験を提案しています。

  4. ハイパーオブジェクト:ハイパーオブジェクトは、ティモシー・モートンが提唱する概念で、時間的・空間的に広がりを持ち、人間の認知を超えるような存在を指します。Qualium は、ハイパーオブジェクトとの関わりや、それらを理解・把握するための認知の拡張についても考察しています。

  5. アントロポセン:アントロポセンは、地質学的時代の一つで、人間活動が地球環境に大きな影響を与え始めた時代を指します。アントロポセンは、自然と人間の相互作用が強調される時代であり、Qualium は、この時代において人間と非人間の認知体験をどのように拡張し、理解し合うことができるのかという問いに関連しています。

  6. 生態学的知覚論:生態学的知覚論は、知識や認知は生態学的な環境と密接に関連しているとする哲学的立場です。この考え方では、知識や認識は個別の主体(人間や非人間)だけでなく、それらが相互作用する環境によっても形成されるとされています。生態学的知覚論は、J.J.ギブソンによる「生態学的視覚」理論や、ブルーノ・ラトゥールの「アクターネットワーク理論」など、様々な研究や理論に影響を与えています。

  7. エンベデッド・マインド理論:エンベデッド・マインド理論は、意識や認知は身体や環境と密接に関連し、それらの相互作用を通じて機能するとする立場です。この理論は、認知科学や哲学の分野で広く議論されており、「認知の外部主義」や「拡張心」(Extended Mind)といった概念と関連しています。

  8. ポストヒューマニズム:ポストヒューマニズムは、人間中心主義を超えた新しい哲学的アプローチで、人間と非人間の境界を再考し、非人間主体(動物、植物、無機物、テクノロジー)の価値や役割を重視します。ポストヒューマニズムは、生態学、倫理学、哲学、文学研究など幅広い分野に影響を与えています。Qualiumと関連して、ポストヒューマニズムは人間と非人間の認知体験がどのように相互作用し、影響し合うかを理解する視点を提供します。

 以上のように、Qualiumは、人間と非人間の枠組みを超えた、場にひらかれた認知を提案している。アクターネットワーク理論やマルチスピーシーズ人類学、オブジェクト指向存在論、ハイパーオブジェクト、アントロポセンなどの関連する思想や哲学に基づいて、人間と非人間の認知体験がどのように相互作用し、影響し合うかを理解する視点を提供する。生態学的知覚論とエンベデッド・マインド理論も、知識や認識が環境や身体と密接に関連していることを示しており、Qualiumの考え方と関連がある。

 これらの思想や哲学との関連性を踏まえると、Qualium は、人間と非人間の枠組みを超えた認知体験の拡張や、それらの相互作用を理解することが重要であることを示す。さまざまな技術やアプローチを用いて、人間と非人間の相互作用や認知体験の拡張を追求することで、アントロポセン時代における持続可能な社会や共生の在り方を模索することが可能になる。

4.Qualiumと技術

 以下は、Qualium で人間と非人間の相互作用や認知体験の拡張を実現する際に関連する技術の例である。これらの技術は互いに補完し合い、より広範な認知の可能性を提供し、人間の認知・思考限界を超えた状況判断を可能にする。

  1. AI(人工知能):AI技術は、機械学習や深層学習を用いて、人間の知能を模倣し、判断や推論を行います。これにより、人間の認知能力を補完し、複雑な問題解決や意思決定を助けることができます。

  2. 脳-コンピュータインタフェース(BCI):BCI技術は、脳波を読み取り、人間の意思や感情を機械で制御することができます。これにより、人間の認知能力を拡張し、例えば視覚障害者が視覚情報を得ることができるようになるなど、制約を超えた認知体験が可能になります。

  3. IoT(インターネット・オブ・シングス):IoT技術は、世界中のデバイスやセンサーがつながることで、リアルタイムの情報収集や分析が可能になります。これにより、時間や空間の制約を超えた認知が実現し、状況に応じて適切な対応を行うことができます。

  4. GIS(地理情報システム): GISは、地理的データを収集、管理、解析、視覚化するコンピュータシステムです。Qualiumにおいて、GISは地球上の人間と非人間の相互作用を理解し、それらを地理的な文脈で視覚化する手段を提供します。また、環境や生態系の変化をモニタリングし、持続可能な未来のための対策を立案する際に役立ちます。

  5. 衛星情報: 衛星情報は、地球を周回する人工衛星から収集されるデータで、地球表面の様々な情報や気象状況を高精度で提供します。衛星データは、リモートセンシング技術を用いて、地表の温度、植生、土地利用、海洋状況、大気組成などを観測します。この情報は、気候変動の研究、資源管理、環境監視、災害対策など多岐にわたる分野で活用されています。

  6. 拡張現実(AR)および仮想現実(VR):ARやVR技術は、デジタル情報を現実世界に重ね合わせたり、完全に仮想的な環境を構築したりすることで、時間や空間の制約から解放された新たな認知体験を提供します。これにより、遠く離れた場所や想像を超える環境を体験することが可能になります。

  7. 3Dプリンティング:3Dプリンティング技術は、デジタルデータをもとに立体物を造形することができます。これにより、デジタル空間で設計された物体を現実世界に持ち込み、アイデアや概念を具現化することができます。これは、認知体験を物質化し、より現実感のある形で共有することを可能にします。

  8. 量子コンピューティング:量子コンピュータは、量子ビットを用いて計算を行い、従来のコンピュータよりもはるかに高速で複雑な問題を解決できます。これにより、人間の認知能力を大幅に超えた計算能力を実現し、未知の領域への探求が可能になります。

  9. データビジュアライゼーション:大量のデータを視覚的に表現するデータビジュアライゼーションは、人間の認知能力を補完し、複雑な情報を理解しやすくする役割を果たします。これにより、データのパターンやトレンドを把握し、人間の思考限界を超えた認知が可能になります。

 Qualiumは、これらの分野が連携し合うことで、人間と非人間の枠組みを超えた認知体験が実現されることを指す。これらの技術は互いに補完し合い、より広範な認知の可能性を提供する。例えば、脳-コンピュータインタフェースとAR技術が組み合わされることで、直感的なインタラクションを通じて仮想世界と現実世界を融合させることができる。また、インターネットやIoT技術は、遠隔地の環境情報をリアルタイムで取得し、これをデータビジュアライゼーションによって視覚化することで、人間の思考限界を超えた状況判断が可能になる。

※Qualiumは、Qualia(認知)+-rium(〜の場所)を合わせた造語であり、時間、空間、人間、非人間などの制約を超えた「集積的な認知」というシステムの中にある認知拡張の場を表現している。


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