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ナポリの隣人 父に触れる

父が入院した10月2日。肺炎と腎盂炎で…ただいま酸素を10ℓ流している。病院はコロナ禍で面会は禁止。私は自宅で待機しているしかない。

あれは、先月9月の半ばを過ぎた頃。母の夢をみた。しきりに険しい視線を私に投げかけていた。その表情が何を伝えたいのか分からずにいた。絶対何かを伝えに来ているに違いないと、あらゆることを想像してみたが分からずにいた。気掛かりになり過ぎて、なんだか落ちつかなかった。夜勤明け、ぐったりした父を搬送するまでは…。

母は初七日、49日、一回忌と、律儀に夢枕にたち、亡くなって10年以上経つのに、未だにまだ私に何かを伝えにくる。前回は去年だった。

去年は行方不明だった父の居場所が判明した。既に認知症が進行し、一人暮らしが不可能な状態の父を関西に連れ戻す為に飛行機での往復を繰り返していた。

そんな時期に母の夢をみた。母が大切に何十年も愛用していた和裁用の長い物差しを使って、押し入れから溢れ出すゴキブリを退治する夢をみた。最後に物差しが折れてしまって、母に叱られると覚悟していたら、母はたんまりと自分が退治したゴキブリが入った袋を私に差し出しながら笑っていた。

ゴキブリの夢は普段触れたくない問題の象徴。それを解決するのは、問題が解決する”吉相”なのだと夢判断に記載されていた。

思えば母は父の問題を山程、解決してきていたつわものだ。問題を抱える私の背中を押して応援してくれているのだと感じた。

今回、母の険しい顔は、父の体調不良を知らせていたのだ。確かに父は傾眠が増え、尿量も少なくなっていた。出された食事は完食するのに、目に見えて痩せてきていた。だけど、私はお年寄りは体調の変化には波があるし、バイタルも熱も正常範囲だし、立位も普段通りだから大丈夫だと思っていた。

何より自分が働く施設に入所している父。コロナ禍でも、就業日には毎回、父の顔が見れるのだ。特に会話があるわけでもないが、顔さえ見れれば良かった。差し入れも出来るしお世話も出来る。油断していたのだ。

お年寄りは、肺炎に掛かっていても、高熱がでないことがある。水分摂取量に比例して日動変化がある。

搬送する前日の夜勤引き継ぎで、日中の傾眠が激しく食事もあまり進まなかったことが挙げられていた。そんな日は昼夜逆転して、夜中に歩き出さないかを心配していた。だから静かに寝ていることに安心していた。

コロナ禍で当然、施設は面会禁止処置を講じている。孫たちに会わせることも、外食を楽しむことも、自宅に連れ帰ることも、お正月以来していない。もっと孫たちと一緒に過ごさせてあげたかった。自宅に連れ帰りたかった。だか、ご利用者はみんな我慢されている。みんな家族にも会えないでおられる、私だけわがままは言えなかった。

このように何かをしてあげたかった後悔を思うのは2度目だ。1度目は最初の元旦那を看取った時。余命半年の彼を自宅に連れ帰って、子供たちと一緒に過ごさせてあげたかった。だけど、当時私は2度目の離婚闘争中だった。浮気が本気になって私と離婚したい2番目の旦那はとっくに家を出ていたが、元旦那のガン暖和治療は思わしくなく、3ヶ月待たずに病院であっけなく亡くなってしまった。

看護婦さんと一緒に元旦那の遺体の清拭をした。10年ぶりに触る彼の顔は、真っ黒に清拭タオルを汚した。余命診断が下ってから毎週のように病院に顔を出して、お互いにふざけて馬鹿なことばかり言いあっていたけれど、手一つ握ったことがなかった。せめて清拭くらいしてあげれば良かったと思った。

父にしてあげたいこと、まだしてあげていないことが沢山浮かんでくる。

誤嚥性肺炎で入院された方は早くて2週間、リハビリをして大概1ヶ月程度で退院されて施設に帰って来られる。一時期重篤になられても、点滴や抗生物質が効果をあらわし、復活される。酸素10ℓも、必要な処置。

待っていれば、その内元気になって帰ってくる。母にまさか連れて行かないよね?と質問している。母にまだ早いから待ってと、頼んでいる。

父は私が探し出した直後、脱水症状で入院した。私が関西に帰宅した後、たまたま訪問したケアマネージャーさんがフラフラして様子がおかしい父を発見し、病院受診して下さっていた。その時も肺炎を起こしかなり危ない状態だったそうだ。

人の命はかなり丈夫だと思っている。増悪と快調を繰り返しながら段々と弱っていく。

今回も大丈夫だと思おうと思っている。神経質な位健康オタクで、ちょっとしたことで受診し、よく歩いていた父。89歳。


今日ご紹介するのは、『ナポリの隣人』。

『ナポリの隣人』2017年公開イタリア映画。ジャンニ アメリオ監督。レナード カルペンティエリ主演。孤独な老人が隣に越してきた移民の家族と触れ合うことで、疎遠だった娘との関係をお互いに見つめ直すお話。

家族には、その家族なりの消さない痛みが潜んでいて、アッサリと許すことが出来ない。だから距離が出来る。だけど、愛おしいがられた記憶があるから気に掛かる。そんな映画の父と娘は私と父にも当てはまって、孤独な父を思う。














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