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網戸の中

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#随筆

所感

 はじめに予防線を張っておこう。おそらく今日は、あなたにとって癇に触るようなことも書く。申し訳ない。

 何の話かというと、BUMP OF CHICKENにかんする先週からのできごとについてだ。

 件の報道から1週間が経って、バンドの当面のあり方についてひとまずの結論が出たらしい。3人で活動していくと。
 率直な感想。たぶん妥協点として一番もっともな選択肢である気がする。それから、何よりもバンド

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素描あるいは日記 4、または愚痴 (ライブいきたい)

少し前にもこんな趣旨のnoteを書いた記憶があるが、相変わらずライブに行けるようになる日を首を長くして待っている。

配信ライブというものが広く行われるようになってきて、いまの世の中の動きというのは速いものだと思いながら、今夜もフジファブリックの配信をアーカイブで観ていた。

配信だからこその表現や楽しませ方を考えないといけない、というのももうスタンダードになってきているのかもしれない。フジファブ

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素描あるいは日記 3

いつも昼休みには社内の食堂で昼食をとっていたが、このところ陽光のさし方が変わった気がしたので、外へ出て何とはなしに歩いてみることにする。川沿いのベンチに腰かけて軽食で済ます。残った時間で本を読む。からりとした空にすじ雲が伸びるのを眺める。絵に描いたような秋の訪れ。

夏から秋に移るときのこの空気と、それが呼び起こす感情というのは何なのかと、毎年飽きもせずに考える。少し前までの熱気と喧騒とが

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ただ同じ趣味を持っただけ

 好きなバンドのライブを観に行くようになり、その趣味を通じて知り合って話すようになった人たちと、ライブの日やそうでない日にたまに会うようになって、気づいたら結構な月日が流れていた。

 そういう人たちと行くライブのあとの打上げは、すっかり趣味にまつわる大きな楽しみのひとつになってしまった。心底から好きなことについて存分に話せる場所があるうれしさを、大人になって改めて知ったようにおもう。みんな思い思

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随想・八月

8月が終わる。

今年はとくべつ夏らしいこともせずに終わった8月だったなと思ったけれど、このあいだスーパーでラムネを買って飲んだのを思い出した。上出来だと思う。

帰り道、天気雨のなかで鉛色の雲を背にして虹が出ているのを見た。
昼から夜に移る合間、雨と晴れの合間のようなところに立ち上がる虹は単にきれいというだけで済ませることのできないものがあり、どこか禍々しくも見える、と昔から思っている。禍々しい

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僭越ながらお祝い申し上げます

 人と人の本質的なわかりあえなさ、わかちあえなさ、わたしとあなたは絶対的に異なっていること、そういう根源的な孤独のようなもの、それでも他者を必要とすること、じぶんとは絶対的に異なる他者のおかげでじぶんが確固たるものになることだとか。

 言葉で伝えようとしても圧倒的に足りないこと、それでもなお届けようとすることだとか、どうしたって絶対にわかりあえないあなたと、それだからこそただ、できるだけ一緒にい

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素描あるいは日記 2

   朝、といっても早朝ではなく午前中という意味での朝だが、河川敷をジョギングしていたらむこうから飛行機が1機、まっすぐに飛行機雲の尾をひくようにして飛んでくる。ああいいな、そういえば昨日は東京の方でブルーインパルスが飛んでいたらしいけれど、こんな普通の飛行機雲も悪くないなと思いながら眺めていたら、それは東から西へとぐんぐん伸びていって、太陽の軌道のような弧を描いて、なんなら途中で太陽を貫いて、天

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素描あるいは日記



 日曜日、朝方まで雨が降っていたからか空気が湿っていてぬるい。朝の川沿いの草いきれが強くなってくると、ああ今年も夏が来るのか、と気づく。
 窓を開け放ってコーヒーを飲みながら本を読む。ちょうどお昼時になって空腹を感じたのでパスタを作って食べる。とりわけ予定のない休日の昼、午後は何をして過ごそうかと考えている時、時間が無限にあるかのような幸福な錯覚に陥る。じっさいはほとんどの場合、たいしたこと

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「そんなら死なずに生きていらっしゃい」

 今夜は満月だという。確かに月が明るい。月が明るいのを見ていると思い出す話がいくつかある。

 このnoteで最初に少し触れた夏目漱石の『硝子戸の中』にもそういう一篇が収められているので、それについて紹介しようかという気になった。漱石と月と言うと、「"I love you"を『あなたといると月が綺麗ですね』と訳した」という逸話が有名だろうかと思うが、まったく別の話である。

 漱石のところに、自分

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匂いの記憶

ホットケーキミックスが残っていて、使おうかと思ったもののホットケーキを焼く気分でもないなという時、ふと、蒸しパンをつくろうかという気になった。

ミックスに牛乳や水を加えて電子レンジで加熱するだけの素朴な蒸しパンは、子どもの頃、時折朝食に出てきたものだ。思い出したら食べたくなり、ちょうど牛乳も買ってある時だったので作ることにした。

耐熱ボウルにホットケーキミックスと牛乳を放り込んで混ぜる。
立ち

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