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『昨夜のカレー、明日のパン』 written by 木皿泉

愛する人がこの世をさって、本当は悲しいはずなのに。
一樹はもう2度と帰っては来ないのに。

それなのに、日常の中で感じるささやかな幸せ。
心にスッと入ってきて、そして ほんのりあたたかかい。
そんな「言葉」のおかげで、今日も、明日も生きていくことができる。

この本を読み終えた時、
心が温かくなる。
自分の"居場所"を大切にしたくなる。

そんな物語を、手に取ってみませんか。



19ページより

「やっぱり、言葉って効くもんなんですね」
「その人は、きっと何かにとらわれて、身動きできなかったんですよ。それが、その言葉で解放されたんじゃないですかねぇ」

辛い現実から逃げたっていい。悲しいことから逃げて、無理矢理にでも笑ったっていい。
逃げてはダメ、見えないフリをしてはダメ....とあなたを縛りつけてくるような「言葉」があるなどしたら、
そのがんじがらめの中からあなたを解き放ってくれる、誰かの「言葉」があったって良いと思うのだ。


私は「言葉」というのは、「言葉」そのものが意味を持っているというよりかは、「その人が自分に伝えてくれたからこそ、その『言葉』が 自分の心に響いた、自分の中で1つの意味を持った」、という風に思っている。
「その『言葉』を伝えてくれたのがその人だった」からこそ意味があったのだ。

誰かにとっては何の意味もなさないような言葉でも、誰かにとってはすごく意味のある言葉だったりするのだ。



52ページより

「大丈夫」と言ってあげたかったが、言えなかった。(略)
何の確信も持てない自分には、到底言えないコトバだった。

171ページより

「世の中、あなたが思っているほど怖くないよ。大丈夫」

「大丈夫」と誰かに言える人は、きっと強い。
「大丈夫」っていうのは時に無責任な言葉かもしれない。
それでも、「この人には『大丈夫』と言われたい」、「この人に『大丈夫」と言われると安心する」、そんな人が、これを読む誰かにとってもいるんじゃないだろうか。

「大丈夫」という言葉に支えられて、
大事な場面で「大丈夫」という言葉を思い出すことが、
自分を"強く"する1つの魔法だと思っている。

「大丈夫」という言葉の魔法にかけられて、きっと今日も誰かの心は温かい。



昨日(ゆうべ)のカレー、明日(あした)のパン

この言葉が出てくるのは、本の最後の最後である。

亡くなった一樹は、雨の日が好きだった。差した傘の中に、自分の居場所があるような気がして。
そんな時、突然傘に入ってきた1人の少女がいた。少女は抱えた子犬に、「パン」と名前をつけたのだ。

年月が経って、2人は再会する。


生きるって、誰かと出会って、心を動かされることなんだ。
生きるって、自分の居場所をつくることなんだ。
生きるって、いつの間にか自分の場所が、誰かにとっても大切な場所になるってことなんだ。
生きるって、誰かとその場所で寄り添うことなんだ。
生きるって、互いの心が触れ合っているってことなんだ。

2人の出会いが、そんな風に思わせてくれる。





最後に、この本の中に溢れている「言葉」の中で、わたしが1番印象に残ったものを添えておく。

225ページより

「人は変わってゆくんだよ。それは、とても過酷なことだと思う。でもね、でも同時に、そのことだけが人を救ってくれるのよ」


変わり続ける中で、変わらずに寄り添ってくれる あなただけの"コトバ"はありますか。