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帰ってきたヒトラー
好奇心のハシゴ
『帰ってきたヒトラー』読みました
2011年8月にヒトラーが突然ベルリンで目覚める。彼は自殺したことを覚えていない。まわりの人間は彼のことをヒトラーそっくりの芸人だと思い込み、彼の発言すべてを強烈なブラックジョークだと解釈する。勘違いが勘違いを呼び、彼はテレビのコメディ番組に出演し、人気者になっていく…。
危ない危ない
1945年第二次世界大戦の終わりに自殺したヒトラーが、2011年のベルリンに帰ってくる(?)っていう話
空白の六十数年間は何の記憶もない
最初は何が何だかわからないし側近も見当たらないし自分の知ってるベルリンとなんとなく違うし、って困惑するけど冷静に状況を飲み込む努力をして、なぜかコメディアンのユーチューバーになっていく話
「ドイツを救え」っていう神様のお告げだと信じて奮起する話
「どうも」。私は上の空で答えた。「いや、ほんとうに」。男はつづけた。「俺、あの映画を見たんだ。〈ヒトラー 最期の十二日間〉。二回も。主役のブルーノ・ガンツははまり役だったな。でも、あんなの目じゃないね。おたくは全体のたたずまいが……言っちゃなんだが、まったく、あれの本人みたいなんだよね」私は顔を上げた。「あれの本人?」「あれ、だよ。〈総統〉!」そう言いながら男は両手を上げ、人差し指と中指をくっつけて数回小さく曲げ伸ばした。私は一瞬目を疑った。ドイツ式敬礼は六十六年の歳月を経てここまで変形してしまったのだ!だが、ともかくそれが受け継がれているのは、私の政治的影響力が今なお残っている証拠ではないか!私は答礼に肘を曲げ、「私は、総統本人だ!」と言った。男はまた笑った。「いやはや、堂にいったもんだね」
(今思えばこの指の動き、クオテーションのあれのことだね)
危ない危ない
読んでて、例えばわたしがドイツ国民だとしたら「わたしたちのリーダーがこんなにもわたしたちのことを考えてくれて、自信を持って引っ張っていこうとしてくれている」とか思っちゃいそうな
ヒトラーがうっかり魅力的に見えちゃいそうな
ドイツ刑法典130条の民衆扇動罪で、アドルフ・ヒトラーやナチスを賛美する発言や行動は罪になるの。ナチスを称賛することは罪になることも、やってきたことで夥しい数の人々が肉体的にも精神的にも傷つけられてきたことも重々承知で、理解しててもそう見えてきちゃいそうになる
「本として」はとっても面白かった。最近読んだ本の中で(自伝とか回顧録とか除く)一番入り込んだし読み耽った
ブラックなジョークとか、比喩の仕方や言い回しとか、キレッキレでそこは好きだった。わたし前もどこかで書いたけど筋が通った皮肉は好き、部分部分で好きだった
ヒトラーは本物のヒトラーで、「本物ですか?」の問いにも「もちろんそうだとも。」って主張する
けど周りはまさか本物だなんて思わないから、本人と周囲の噛み合ってそうで噛み合っていない会話がアンジャッシュみたい
始終こんな感じ
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「舞台に出ているんだね?プログラムはある?」「当然だ」。私は答えた。「一九二〇年に!わが同胞ならあなたも、二十五か条綱領というプログラムを知らないわけがなかろう!」男は熱心にうなずいた。「でも、どこで見たんだか、やっぱり思い出せないな。ねえ、チラシか名刺(カルテ)か何か持っていないの?」「残念だが」。私は悲痛な声で言った。「地図(カルテ)は本部にしかない」
「あなただって、結局だれかにやらせてるんでしょう?」「私が、やらせている?何を?」「だって、そっくりじゃない!業界じゃ、だれがやったのかって、みんな興味津々なのよ」。彼女はここでふたたび、ビールをぐいと一口飲んだ。「私に言わせれば、そいつは訴えられてしかるべきなくらいね」「ご婦人、いったい何の話なのか、私にはさっぱりわからない!」「手術(オペレーション)のことに決まってるじゃない!」彼女は声をとがらせて言った。「ねえ、自分は何もしてません、みたいなふりはしないでよ。空々しいから」「作戦(オペレーション)?もちろんあったに決まっている!」私は混乱しながら言った。この女は彼女なりに、私に好意を示そうとしているのだろうか。「アシカに、バルバロッサ、それからシタデル……」「聞いたことがない名前ね。出来には満足した?」
そもそも作者がすごい。あと訳者
本当にヒトラーが書いてそうな、考えてそうな、喋ってそうな書き方なの。悪いイメージが強いけど実際人種差別とかそういうのを除いて歴史的に大きなこともしてるもんね。ヒトラーとかについて勉強している人からしたら面白いと思う
タイムスリップとか、歴史上の偉人や有名人が現代にいたら、みたいな空想の話はよくあるじゃんね。けどこれは本当に「もしかして本人?」ってこっちまで思っちゃうような、ヒトラーが独白しているような感じ
別にヒトラーとかドイツの歴史、世界史の知識は深くなくても、興味なくてもそこまで身構えずに読めると思う。「○○年○月、△△が~~~した。それによって□□とした。」みたいな堅苦しい数字と横文字の羅列とか繋がりのない出来事たちとか、自分のものにできずに頭に入っていかないみたいなことあると思うんだけど、この本は自然に歴史的出来事とか背景とかが書いてあるからすらすら読める(と思う)
もしかしたら、一度医者に診てもらったほうがいいのかもしれない。けれども、最近の状況ではそれはなかなか難しそうだ。昔ならば、話は簡単だった。医者のテオ・モレルがいつも私のそばにいた。ただ、ゲーリングはテオを好いていなかった。
ヒトラーの主治医だったテオドール・モレルはヒトラーの絶対の信頼は得ていても周りには不審がられるというか好かれてはなかったらしいしね
ヒトラーが身を置くことになるキオスクの店主との会話で
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とか、歴史を知っていたらクスッと(きていいのかわからないこともあるけど)くるような会話も多い
ただ読んでいてヒヤヒヤした部分もあった。本当に「うわ~~~ヒトラーが言いそうだ~~~」みたいなことだけど、読んでいて傷つく人はいるんじゃないか…みたいなことをこの島国の端っこのOL目線で思ってた
戦争において前線で死ぬのは優秀な人物で、他は…っていうくだりの書き方とか
あとはもうヒトラーに関してつきものだけど人種に関する発言とか
(あと、いち日本人として、どんな意味であれツナミって単語が出るのはあんまり気分良くないね)
下巻の、秘書のクレマイヤー嬢のお祖母さんがユダヤ人で親族がガス室で殺されていたことを知った時の反応とか宥め方?とか、もういかにも本人が言いそうなことだった
歴史って知ることが大切じゃん。歴史は繰り返すって言うけど繰り返したらいけない歴史も数多くあるわけだしその結果何が残って何が生まれて何が消えたのかとかちゃんと見ないと、また同じことが起こるし
面白かった
それよりなにより表紙がじわる
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あとこれ。この本に惹かれて気に入ってるわたしも実質日本の頭脳名乗っていいってことで良い?
良くない
あと外国語ならではのジョーク大好き。「それは女性名詞ですよ」とか、ハリーポッターのブイヤベースのくしゃみもそうだし、あとこの本でヒトラーが電話先で名乗った女の人を「例の東欧風の風変わりな名前を口にした。まるで、軍事報告書を握りつぶすときのくしゃくしゃという音のような名前だ。」って言った後、「ミス・カシャクシャ」って呼ぶの。じわる
映画化してたんだね。観たい
追記
映画観た(2021/1/14)
原作は2011年で、映画は2014年設定なのね
特急クリーニングのシーンあたりからずっと思ってたけどカメラワークが海外映画感
ザヴィツキが思ったよりもナヨナヨしてた
政治に対しての街頭インタビューも、広場で絵を描く時も、後半ドキュメンタリーを観てる感覚だった
モザイクかかってたのもリアルな街頭インタビューだからだったらしい。殴られなかったのかな、中指立てる人とかはいても
最後怖かった
怖すぎた
コロナ禍で人間関係が希薄になりかけたり、信じるものがわからなくなったり自分に余裕がなくなったりで、現代版ヒトラーみたいなの出てきてもおかしくないよね。歴史は繰り返すっていうし
こわ
ていうかシンプルに顔が似すぎ
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