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【mature世代のシネマ】Dior & I ディオールと私


老舗メゾンのお針子たちの矜恃を垣間見る

2012年にクリスチャン・ディオールのクリエイティブ・ディレクターに就任したラフ・シモンズ氏のデビューを飾るパリ・コレクションまでの8週間を描いたドキュメンタリー。

ジル・サンダーという男性ブランドのプレタポルテのデザイナーだったシモンズ氏が、未経験のオートクチュール(高級注文服)、しかもあのクリスチャン・ディオール!のクリエイティブ・ディレクターに抜擢されたことや、そのデビューコレクションは大きな注目を集めたという。

また、副題が「Dior新任デザイナーと誇り高きお針子たちのパリ・コレクションまでの8週間」とあるだけに、伝統ある老舗メゾンのお針子たちの仕事ぶりには、目を見張る。

プレタポルテ(高級既製服)の世界では、型紙制作も裁断もコンピュータがやると聞いていたが、こちらは全て手作業。勤続何十年というお針子たちの技術に支えられている。

アトリエでは、伝統的な釜で熱したコテを巧みに使い、経験に裏打ちされた確かなハサミ捌きで、一枚のデザイン画を布に起こしていく。

時には気の遠くなるような膨大な量のビーズを、数人がかりで一針一針徹夜で縫い付けていく。これだけの手作業がまだ人類に残されていたことに、感動すら覚える。

そして、シモンズ氏の斬新な注文や要請がどんなに厳しくても、出来ないとは決して口にはしない。必ずそれは実現される。

お針子たちは、コレクションの準備のほかに、世界各国に顧客を抱えている。仮縫いだ、サイズが合わないという大口顧客のために、コレクションの大詰めの準備を放り投げてでも、飛行機に乗ってかけつけなければならない。それがブランドの売り上げを支えているからだ。

昨今日本で話題の働き方改革とか効率化なんていうものとは無縁の世界。それでもコレクションが成功を収めれば、キス&クライでお互いが数々の困難と苦労を乗り越えてきたことを讃えあう。

それがクリスチャン・ディオールというメゾンのお針子たちの矜恃なのだ。

現代のビジネスにシステム化も効率化も必要だけど、それを超えた原始的な労働の喜びが、お針子たちには溢れていて、その手作業と技術が眩しく見えた。

プロジェクトの成功を支える主役以外の人々

実際のコレクションが様々な人の“手によって”作られていく様子もうかがえる。実在の登場人物たちも魅了的だ。コレクションの舞台と会場には、生花のバラがふんだんに使われるが、ディオールのオーナーが湯水のように使われている費用に頭を抱えている一場面も。

ラフ・シモンズ氏の右腕であるピーター氏が、新参者のデザイナーと古参のお針子たちの仲立ちとなり、シモンズ氏の無理難題を実現するために、その意図や考えを粘りよく説明していく。またその過程でのお針子たちへの心遣いがにくい。

組織で何かを成すには、このような人たちの存在と働きが欠かせないのは、世界共通なのだと思い知る。


コレクション開幕の直前、シモンズ氏が緊張のあまり感極まってしまうところに、グッときてしまったのだが、そんなシモンズ氏は、2015年10月にその職を辞したという。

ちょうど、私自身が職業人としてのスキルや、組織のプロジェクト進行に行き詰まっているタイミングで観た映画であり、次の日から、新たな気持ちで仕事に向き合うきっかけをくれた。


『ディオールと私』
監督:フレデリック・チェン
キャスト:ラフ・シモンズ Diorアトリエ・スタッフ
作品情報:2014年/フランス/90分



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