伊井野ミコの研究室

法学(会社法学中心)について徒然なるままに。テーマは随時、募集しております。

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最近の記事

第14回 株主(会社法の基礎)

株式会社の社員とはだれか。 その答えは「株主」ということでした。 会社とは株主を構成員とする法人であり、つまり、株主は会社=法人の基体であると考えられます。 これは、教会=信者集団=「キリストの身体」のアナロジーですね(注1)。 そうすると、株主が会社の本体であるといえるわけですが、株主がその本体を自由に動かすことができるのではない、というのが株式会社という法人の仕組みでした。 これが所有と経営の分離の理念でしたね(第7.5回)。 さて、この株主が基体(ミスリーディ

    • 第13回 監査役とガバナンス(会社法の基礎)

      今回は、取締役と愉快な仲間たちのお話です。 特に、取締役が不当な経営をしたり、違法行為をするなど暴走した場合、どのように歯止めをかけるのかという場面が問題となります。 まず、不利益を被ることとなる株主は、会社の外部にいる(所有と経営の分離)ことから、そもそも違法行為に気づけないかもしれず、気づいたときには既に手遅れかもしれません。 そのため、事前に歯止めをかけなければ意味がありません。 復習となりますが、そのための仕組みの一つが、取締役会制度でした。これは、業務執行者

      • 第12回 表見法理と商業登記(会社法の基礎)

        1.はじめに今回も、会社と第三者との間の「取引」を取り扱います。 もっとも、かなり特殊な場合を取り扱います。 すなわち、「第三者が虚偽の外観を信頼した場合」です。 例えば、「取締役だと思っていたのに取締役じゃなかった!」という場合に、第三者の信頼と会社の利益をどのように調整していくのかが問題となります。 今回は少し民法学的な要素も入ってきます。 2.表見法理まず、問題となるのは、「取引をしたのが代表取締役でと思ったらそうじゃなかった」場合です。 このような場合を、「

        • 第11.5回 受験生のための基本書・演習書の読み方(会社法の基礎)

          学者の書いた基本書・演習書vs予備校本の極めて不毛な論争がみなさんお好きなようです。 予備校本だってなんらかの文献をもとに書かれているわけですから、基本書が読めず予備校本が読めるなどという奇跡か魔法のような事態が起きるわけがありません。そんなことができれば誰も司法試験に落ちません。 そりゃあ、予備校本だって口から出まかせで書いてあるわけじゃないんですから。口から出まかせでわかりやすいことだけいう人間はただの詐欺師です。所詮、予備校本にできることは、基本書等に書いていること

        第14回 株主(会社法の基礎)

          第11回 取締役会決議の欠缺と取引の効力(会社法の基礎)

          1.前回のおさらい前回〔第10回〕は、取締役会決議が無効となる場合を最後に見ました。 原則として決議に違法の瑕疵がある場合は、特段の事情がない限り、取締役会決議は法の一般原則により無効となります。 今回は、「取締役会決議が必要とされるのに無かった場合」を取り扱います。 取締役会決議の無効とは、つまり、決議が最初からなかったことを意味しますから、「決議の無効⇒決議がなかった場合の取引の効力」の順番で検討されることが多いのです。 そのため、第10回と11回は姉妹編のような関係に

          第11回 取締役会決議の欠缺と取引の効力(会社法の基礎)

          第10.5回 会社法の条文との付き合い方②(会社法の基礎)

          会社法の条文は多すぎだと文句を言う人が極まれにいらっしゃいます。 1.そんなの、あたしが許さないというわけで、 前回では、会社法の条文の全体像を見ました。ここでは、さらに細かいテクニックを見ていきます。 2.公開なんて、あるわけない(?)みなさん、株式会社といえば、例えば、資生堂やソフトバンクなどの大企業、それも上場企業を思い浮かべるのではないでしょうか。 訳がわからないよ。 会社法の発想は全く逆です。 会社法のコンセプトは、「Think small first」で

          第10.5回 会社法の条文との付き合い方②(会社法の基礎)

          第10回 取締役会決議(会社法の基礎)

          前回3回は,主に,会社と取締役との間に利益相反がある場面における規律を見てきました。 今回は,少し角度を変えて,「利益相反を排除する仕組み」として用いられてきた「取締役会」について少し詳しく見ていきます。 たとえば,競業取引(第7回)や利益相反取引(第8回)について,取締役会設置会社の場合は,取締役会決議による「承認」が必要でした。また,報酬の場面(第9回)でも,決定方針は取締役会が決定します。 このように,利益相反を規律する場面では,取締役会が装置の一つとして用いられる

          第10回 取締役会決議(会社法の基礎)

          第9.5回 会社法の条文と付き合い方①(会社法の基礎)

          0.会社法の条文と向き合えますか?さて、会社法は条文が多すぎて、該当条文を探すのも一苦労するなどといったことが、初学者の内はありますね。 特に、初めて見る会社法の条文はジャングルの様で わけがわからないよ。 というわけで、今回は、会社法の条文の読み方について検討していきたいと思います。なお、組織再編はこの点でもかなり特殊なので、「組織再編法の条文との付き合い方(予定)」として次回以降に回したいと思います。 1.(条文が見つからない)あたしって、ほんとバカというわけでは

          第9.5回 会社法の条文と付き合い方①(会社法の基礎)

          第9回 取締役の報酬(会社法の基礎)

          さて,ここまでは取締役の責任や事前規制という重苦しい話ばかりでしたが,当然,そのような厳重な責任ばかり課されていれば,誰も取締役になんてなりません。 取締役になる一番の要因の一つは,お金です(注1)。 つまり,取締役には適切な報酬を与えなければなりません。もっとも,どんな額でも報酬を与えればいいというのではなく,ここでも「株主利益最大化」のために一定の規律が及ぶこととなります。 以下では,会社法の経営者の報酬規律を見ていきましょう。 1.報酬の2つの視点取締役の報酬規

          第9回 取締役の報酬(会社法の基礎)

          第8回 利益相反取引(会社法の基礎)

          今回は、会社が、取締役と利益の相反する取引を行う場合、すなわち、利益相反取引をテーマとします。 ここでも、前回の競業取引と同様に、取締役が、会社の損害の下に自らの利益を図ることを防止すべく、事前規制が置かれています。これが、利益相反取引規制の趣旨です。 1.直接取引まず,最も基本的な,直接取引から見ていきましょう。 直接取引を規定するのは,会社法356条1項2号です。 第356条 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承

          第8回 利益相反取引(会社法の基礎)

          第7.5回 所有と経営の分離(会社法の基礎)

          さて、今回は閑話休題です。 テーマは、会社法で良く出てくる「所有と経営の分離」です。 これほど、誤解を招きやすい表現はありません! この表現のどこに問題があるのかを見ていきましょう。 ①財産は誰が所有するか? 所有と経営の分離とは、「会社の経営機構が、構成員たる株主から分離して存在していること」とされます(注1) この定義自体は非常に正しいです。もっとも「所有」という言葉は出てこない点に注目してください。 それでは、「具体的な財産」、たとえば、お金・機械・工場・土

          第7.5回 所有と経営の分離(会社法の基礎)

          第7回 取締役の競業をめぐる諸問題(会社法の基礎)

          今回からは,少し特殊な場合における「取締役の義務」について検討します。すなわち,会社と取締役との間の利益が相反する場面の規律について検討します。 このような利益相反の場面では,取締役が会社,ひいては株主の損害と引き換えに自らの利益を図る類型的危険性が認められます。そのため,株主利益最大化原則〔第3回〕を実現するためには,前回の経営判断原則のように取締役の自由裁量に委ねることは適切ではありません。 そこで,株主と取締役の利益が相反する場面では,この弊害を緩和するための一定の

          第7回 取締役の競業をめぐる諸問題(会社法の基礎)

          第6回 経営判断原則(会社法の基礎)

          1.経営判断原則とは何か?今回は、経営判断原則を取り扱います。 経営判断原則とは、会社経営者の経営上の判断について、その裁量を広く認め、裁判所が後知恵的に判断の当否を判断することにより善管注意義務を肯定することに対し歯止めをかける法理をいいます。 とはいうものの、実のところ、経営判断原則の中身は、論者によって区々であるのが現状です。ここでは、一般的な見解と判断したものを紹介しますが、この点については文献を読む際に注意が必要です。 2.経営判断原則の根拠経営判断原則が適用

          第6回 経営判断原則(会社法の基礎)

          第5回 取締役の任務と責任(会社法の基礎)

          今回は、経営者のとしての取締役の任務と責任についてみていきます。 1.条文の構造まず、会社法が取締役に対しどのような義務を負わせているのかを、その根拠となる条文から確認していきましょう。 まずは、取締役は、会社に対し善管注意義務を負います。これは、以下の2つの条文により基礎づけられます。 会社法330条 株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。 民法644条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

          第5回 取締役の任務と責任(会社法の基礎)

          第4回 会社とは?③法人とガバナンスの基礎(会社法の基礎)

          今回は、会社が法人格を有することと、会社がどのように運営されるのかという問題についてみます。 1.法人としての株式会社会社は法人です(会社法3条)。法人は、権利を有し、義務を負う主体です(民法34条)。 つまり、法人とは一つのフィクションです。フィクションでありながら、我々自然人と同じように、権利を持ち、義務を負う能力が認められています。 (なお、民法では「目的の範囲内」という条件があります。しかし、実際に目的外の行為が無効となる可能性は皆無に近いのが現状です。詳しくは

          第4回 会社とは?③法人とガバナンスの基礎(会社法の基礎)

          第3回 会社とは?②株主価値最大化の原則(会社法の基礎)

          前回は、B/Sとしての会社、すなわち、会社の財産としての側面を見ました。その中でも、今回は、B/S上の純資産は株主の取り分を表すという点が重要となります。 今回と次回は、会社を「人の側面」から見ていきます。今回は「株主」と会社の関係を見ていきます。 1.株主とは株主とは、株式会社の構成員(社員といいます)です。つまり、株式会社は、株主により構成されます。株主の集団が株式会社なのです(これを社団法人と言います。) 人(自然人)が株式会社(法人)の株主となるためには、株式を

          第3回 会社とは?②株主価値最大化の原則(会社法の基礎)