第4回 会社とは?③法人とガバナンスの基礎(会社法の基礎)

今回は、会社が法人格を有することと、会社がどのように運営されるのかという問題についてみます。

1.法人としての株式会社

会社は法人です(会社法3条)。法人は、権利を有し、義務を負う主体です(民法34条)。

つまり、法人とは一つのフィクションです。フィクションでありながら、我々自然人と同じように、権利を持ち、義務を負う能力が認められています。

(なお、民法では「目的の範囲内」という条件があります。しかし、実際に目的外の行為が無効となる可能性は皆無に近いのが現状です。詳しくは、注1の文献を見てください。)

法人はフィクションですから、物理的実体を持ちません。具体的に契約を締結するなどの法律行為を行うためには、自然人の介在が必要となります。また、法人も意思決定を行う必要がありますが、これにも自然人の介在が必要となります。この、いわば「法人の手足」として行為する自然人や会議体を、法人の機関と言います。機関の行為は、法人の行為となります。

それでは、以上を踏まえて、法人としての株式会社についてみてみましょう。

まず、株主がいます。株主は会社の構成員であり、会社は株主により構成されるものです。

ただし株主と会社は別の主体です。ですので、会社の債務が株主の債務となったり、反対に、株主の債務が会社の債務となることはありません。この例外が法人格否認の法理ですが、これは別の回に扱います。

そして、株式会社の特色は、会社の構成員である株主が、会社の経営を行うのではないということです。これは、持分会社の場合は社員が経営を行うことと対照的です(cf. 会社法590条1項)。

会社の経営を行う機関は、取締役です。つまり、株主により構成される会社から、会社の経営を委任されるのが取締役です(会社法330条)。会社法では、経営は「業務執行」と呼ばれます(348条1項、362条2項参照)

会社が、第三者と取引を行う場合、取締役が会社を「代表」します。この場合、取締役の行為は、会社の行為となります。この対外的業務執行が会社の行為とされる権限のことを「代表権」といいます(注2)。取締役や代表取締役は代表権を有します(会社法349条1項)。

以上の通り、株式会社には、①株主、②会社、③取締役という3つの異なる主体が存在することを押さえておきましょう。

①株主は、自己の財産を、会社という別の主体に出資することにより株主となります。

②会社は、業務執行を取締役に委任します。

③取締役は、出資された財産を用いて会社の業務執行を行います。

①´そして、その業務執行の結果である利益・損失は、株主に帰属します。

以上が、株式会社の基本的な仕組みなのです。

2.会社のガバナンスの基礎

株式会社には、①株主、②会社、③取締役という3つの異なる主体が存在することを見てきました。しかし、これだけで会社の運営がうまくいくでしょうか。

株主は、取締役が仕事をしているのかをすべて監視することはできません。会社は、そもそも実体がないので監視できません。そうすると、取締役がきちんと任務を行わなかったり、会社の財産を自己の都合のいいように悪用する危険すらあります。

このように、株主(本人)が、取締役(エージェント)の業務執行に関する情報を得られないことに起因する利害対立が生じます。この情報の非対称性により生じる問題を、エージェンシー問題と呼びます。

エージェンシー問題の弊害を軽減するためには、まず、権限配分を工夫する必要があります。特に代表権を持つ代表取締役を監視する仕組みが必要となります。三権分立の発想とパラレルに考えれば、機関間の権限分配構造がガバナンスの基礎です。

ガバナンスの仕組みは、株主と経営者の距離がどのようになっているのかによって異なります。つまり、所有と経営の分離の程度がカギを握ります

(1)小規模な会社のガバナンス

オーナーである株主が取締役を務めるような、中小企業や閉鎖的な会社では、所有と経営の分離の程度が低いといえます。これは、後述の取締役会が設置されていない非取締役会設置会社です。これは、株主が比較的少数で互いによく知り合っており、日々の会社経営に直接関与することが予定されている企業に適しています(注3)。

このような非取締役会設置会社では、株主総会が、一切の事項につき決議をすることとされています(会社法295条1項)。つまり、株主総会の万能機関性が認められます。

そして、取締役を監視する仕組みは特に強制されていません。なぜならば、株主と経営者の距離が近く、株主自身による監視が可能であることからエージェンシー問題の弊害が大きくないと考えられるからです。

(2)公開会社のガバナンス

これに対し、比較的規模の大きい公開会社では、取締役会の設置が義務付けられます(会社法327条1項1号)

取締役会設置会社では、業務執行を行うのは、原則として代表取締役のみです(会社法362条2項と363条1項1号;2号によれば委任すれば他の取締役も業務執行可能)。それでは、他の取締役達の役割とは何でしょうか。

その謎を解くカギが取締役会です。取締役会の主な役割は、取締役の職務執行の監督です(会社法362条2項2号)。その役目を果たすべく、取締役会には代表取締役を選定・解職する権限(会社法362条2項)があります。また、「重要な業務執行の決定」は、代表取締役の独断と偏見に任せるのではなく、取締役会決議によらなければなりません(会社法362条4項)。

さらに、取締役会設置会社は、監査役を置く必要があります(会社法327条2項)。監査役とは取締役の業務執行を監査する機関です(会社法381条)。つまり、取締役の職務執行を調査し、必要があれば是正することが期待されています(注4)。

このように、取締役会設置会社では、機関間で権限を分配することにより、代表取締役の業務執行を監視する仕組みが準備されています。このことによりエージェンシー問題の緩和を図っているのです。

それでは、株主総会の権限はどうなっているのか。取締役会設置会社における株主総会の権限は、会社法と定款に定められた事項に限られます(会社法295条2項)

これはなぜか。公開会社は取締役会設置会社でなければならないとされています。公開会社とは、株式を自由に譲渡できる会社です(会社法2条5号)。つまり、一般人も含む様々な人が、しかも多くの人が株主となる可能性があります。また、それらの株主は比較的小規模です(オーナー株主と異なります)。このような状況を株主の分散と呼びます。

株主が分散すると、①株主には経営のノウハウが乏しい可能性が高いです。また、②利益には関心はあっても具体的な日々の経営には無関心である可能性が高いです。さらに、③小規模であることから、株主一人が経営改善のために努力しても、株主自身が得る利益は小さい一方、他の株主はその利益にタダ乗りすることができます(フリーライド)。そうすると、株主は経営を改善すべく努力するインセンティブに欠けます(これを合理的無関心といいます)。さらに、④株主は、経営が気に入らないのであれば株式を売却してしまえばいいのです(これをウォールストリート・ルールといいます)。

これらの理由から、株主総会に委ねられる権限は制限されているのです。その代わり、エージェンシー問題が生じることから、取締役会・監査役などのガバナンスの基本構造を備えていなければならないとされています。

以上からわかる通り、取締役会設置会社は、特に一般投資家から広く出資を募る大規模な会社に適しています(注5)。

(3)上場会社のガバナンス

公開会社をさらに進化させると、取引所で株式が売買される上場会社になります。

上場会社には特有の問題があります。このため、さらに特別なガバナンスの体制が準備されているのです。それが、社外取締役、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社、会計監査人などの仕組みです。

これらはいつか解説する予定ですが、さしあたり公開会社≒取締役会設置会社と、非公開会社≒非取締役会設置会社という2つの対照的な類型を念頭において学習を進めることがいいと思います

3.会社の債権者

以上では、会社・株主・取締役の関係を中心に、機関間の権限分配についてみてきました。取締役と株主は、会社の利害関係人、つまりステークホルダーの一部です。

最後に、残りのステークホルダーである会社と外部の第三者との関係を簡単に見てみましょう。

代表的な第三者は、会社の債権者です。会社法は債権者の保護のための仕組みを置いています(配当規制・損害賠償請求権etc.)。

債権者といっても、多くの種類がいます。

銀行などのプロの貸し手は、もちろん債権者です。これは任意債権者です。

会社の取引先は、会社と契約することにより債権者となります。会社に製品を売った仕入先などです。これは、任意債権者です。

会社が不法行為をすることにより損害賠償を請求することができる者も債権者です。不法行為債権者は、非任意債権者の代表格です。

さらに、従業員も債権者です。彼らは会社との間で雇用契約関係に立ち、会社に対する給料債権を有します。会社法で社員というときは、従業員ではなく株主ですので注意してください

基本的には、債権者は会社と契約を締結することにより債権者となります。もっとも、その中身は様々であることは法律問題を考える上では重要となることもあります。

債権者は保護されるべき場面があるのはもちろんです。しかし、債権者は、会社をコントロールする権限を有しません。あくまても、会社にとって債権者は、外部の第三者にすぎないのです。

注1)江頭憲治郎『株式会社法〔第8版〕』33頁
注2)高橋美加ほか『会社法(第3版)』165頁
注3)田中亘『会社法〔第3版〕』144頁
注4)田中・前掲注3)147頁
注5)田中・前掲注3)144頁


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