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第10.5回 会社法の条文との付き合い方②(会社法の基礎)

会社法の条文は多すぎだと文句を言う人が極まれにいらっしゃいます。

1.そんなの、あたしが許さない

というわけで、

前回では、会社法の条文の全体像を見ました。ここでは、さらに細かいテクニックを見ていきます。

2.公開なんて、あるわけない(?)

みなさん、株式会社といえば、例えば、資生堂やソフトバンクなどの大企業、それも上場企業を思い浮かべるのではないでしょうか。

訳がわからないよ。

会社法の発想は全く逆です。
会社法のコンセプトは、「Think small first」です。

つまり、会社法が基本としているのは、小さな会社です。そこでは、取締役会もなく、株式も公開していない閉鎖会社が想定されています。
これに対し、大企業は「例外」として規定されているのです。

例えば、新株発行について会社法は以下のように規律しています。

(募集事項の決定)
第199条第2項 
 前項各号に掲げる事項(以下この節において「募集事項」という。)の決定は、株主総会の決議によらなければならない。

(公開会社における募集事項の決定の特則)
第201条第1項 第199条第3項に規定する場合を除き、公開会社における同条第二項の規定の適用については、同項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。この場合においては、前条の規定は、適用しない。

この2つの条文を見ればわかるように、原則は非公開会社=株主総会決議、例外が、公開会社=取締役会決議となっていることがわかります。

このように、条文の構造として、まず小規模な会社(取締役会なし、株式譲渡制限あり)が来て、そのあとに、公開会社(取締役会あり)の規定が来るという構造になっています

同様に、株主総会の権限に関する会社法295条もこのような形になっています。

第295条第1項 株主総会は、この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる。
第2項 前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、株主総会は、この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができる。

ここでは、取締役会設置が例外とされていますね。

会社法298条も同様です。

(株主総会の招集の決定)
第298条第1項
 取締役…は、株主総会を招集する場合には、次に掲げる事項を定めなければならない。
(略)
第4項 取締役会設置会社においては、前条第4項の規定により株主が株主総会を招集するときを除き、第1項各号に掲げる事項の決定は、取締役会の決議によらなければならない。

利益相反取引で見た、会社法356条と365条の関係もこれと同様です。

このように、取締役会設置会社の規律は後回しにされることが多いのです。

3.(定義規定)夢の中で逢った、ような、、、

さて、会社法の条文の特徴としては、用語の定義を見ないといけない場面が多いこと、さらに、その定義の箇所が散在していることが挙げられます。そのため、特定の用語の定義を見つける能力がモノをいうことがあります。

例えば、株主総会決議取消の訴えの原告適格を例に見てみましょう。

会社法831条1項では、以下のように規定されています。

会社法第831条第1項
次の各号に掲げる場合には、株主等(当該各号の株主総会等が創立総会又は種類創立総会である場合にあっては、株主等、設立時株主、設立時取締役又は設立時監査役)は、株主総会等の決議の日から三箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。(略)

この条文からは、原告適格は「株主等」が有することがわかります。しかし、「株主等」が何を指すのかは、この条文からは明らかになりません。

一方、会社法828条2項1号は、以下のように規定しています。

会社法第828条第2項 
次の各号に掲げる行為の無効の訴えは、当該各号に定める者に限り、提起することができる。
1号 前項第1号に掲げる行為 設立する株式会社の株主等(株主、取締役又は清算人(監査役設置会社にあっては株主、取締役、監査役又は清算人、指名委員会等設置会社にあっては株主、取締役、執行役又は清算人)をいう。以下この節において同じ。)又は設立する持分会社の社員等(社員又は清算人をいう。以下この項において同じ。)

「株主等」の定義は、828条2項1号にあるのです。ここでは、「株主等」とは、「株主、取締役又は清算人(監査役設置会社にあっては株主、取締役、監査役又は清算人、指名委員会等設置会社にあっては株主、取締役、執行役又は清算人)」と定義されます。

つまり、株主総会取消の訴えは、株主のみならず、取締役や監査役も提起することができるのです。
そして、このことは831条のみならず、828条も見なければわかりません。

こういった点も会社法が読みづらい原因の一つです。

とはいうものの、この「定義」を見つける方法はいくつかあります。

①会社法の定義規定を見る

まず、行政法を履修していれば既に自明のことかと思いますが、たいていの法律は「第2条」が定義規定となっています。

会社法もこの例にもれず、「第2条」に定義規定があります

例えば、「公開会社」の定義は、以下のように規定されています。

(定義)
第2条
 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
1~4 (略)
5 公開会社 その発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社をいう。
(後略)

このように、出現頻度・重要度の高い用語の定義は、第2条においてあります。

②施行規則を見る

それでは、少しマイナーな用語の定義についてはどうでしょうか。

これについても「第2条」がモノをいうことが多いです。

つまり、第2条は第2条でも、「会社法施行規則第2条」を見るのです

みるべきなのは、2条2項です。

会社法第749条第1項第2号
吸収合併存続株式会社が吸収合併に際して株式会社である吸収合併消滅会社…の株主…対してその株式又は持分に代わる金銭等を交付するときは、当該金銭等についての次に掲げる事項
(略)

例えば、合併についての会社法749条1項2号に出てくる「金銭等」の定義は、なんと151条1項にあります。
このような場合に便利なのが会社法施行規則2条です。

会社法施行規則第2条第2項
この省令において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
1-36 (略)
37号 金銭等 法第151条第1項に規定する金銭等をいう。
(後略)

このように、金銭等の定義は会社法151条1項にあることがわかります。

(株式の質入れの効果)
第151条第1項
 株式会社が次に掲げる行為をした場合には、株式を目的とする質権は、当該行為によって当該株式の株主が受けることのできる金銭等(金銭その他の財産をいう。以下同じ。)について存在する。
(略)

③節の冒頭に戻る

とはいえ、会社法施行規則第2条は万能ではなく、あくまでも施行規則に出てくる用語しかカバーできません。

例えば、先に見た「株主等」は、会社法施行規則第2条には載っていません。

ここで、前回では、会社法はいくつかの部分に区分できることを見てきましたが、このことがここでも効いてきます。
つまり、その用語が出てきた「節」等の冒頭に、定義が置かれている場合が多いのです

例えば、先に見た831条の「株主等」の定義のある828条は、「第2章訴訟 第1節会社の組織に関する訴え」の冒頭にあります。
もう一度「株主等」の定義を見てみると

「株主等(株主、取締役又は清算人(監査役設置会社にあっては株主、取締役、監査役又は清算人、指名委員会等設置会社にあっては株主、取締役、執行役又は清算人)をいう。以下この節において同じ。

「以下この○○について同じ」という文言が出てくることがわかります。このような規定は、節などの最初の方に置かなければ意味がありません。そのため、一番最初の方の条文に置かれる傾向があるわけです。

④あきらめる

それでも見つからなければ、現場ではあきらめるしかありません。

あきらめて覚えましょう。そちらの方が早いです。

例えば、会社法371条4項の「役員」の定義は、会社法329条1項においてありますが、初見で見つけることは困難です。

第329条第1項 
役員(取締役、会計参与及び監査役をいう。以下この節、第371条第4項及び第394条第3項において同じ。)及び会計監査人は、株主総会の決議によって選任する。

この太字のように、ピンポイントに定義されていると見つけるのは困難ですね。

さらに意地悪なのが、組織再編で出てくる「特別支配会社」の定義です。
例えば、784条1項は以下のように規定しています。

第784条第1項 
前条第1項の規定は、吸収合併存続会社、吸収分割承継会社又は株式交換完全親会社(以下この目において「存続会社等」という。)が消滅株式会社等の特別支配会社である場合には、適用しない。(後略)。

そして、なんとこの定義規定があるのは468条1項です。

第468条第1項 
前条の規定は、同条第1項第1号から第4号までに掲げる行為(以下この章において「事業譲渡等」という。)に係る契約の相手方が当該事業譲渡等をする株式会社の特別支配会社(ある株式会社の総株主の議決権の十分の九(これを上回る割合を当該株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)以上を他の会社及び当該他の会社が発行済株式の全部を有する株式会社その他これに準ずるものとして法務省令で定める法人が有している場合における当該他の会社をいう。以下同じ。)である場合には、適用しない。

これはわかりにくいですね。

発想としては、③の応用となります。
つまり、一番最初に似たような制度が出てくる箇所にある可能性があるということです

ここでは、事業譲渡と合併における「略式」の場合のアナロジーが根底にあります。
つまり、「略式合併」(784条)の規律が、「略式事業譲渡」(468条)の規律とパラレルなので、このような変則的な規律となっているのです。

4.最後に残った法務省令

会社法は、本体だけでも条文数が多いにもかかわらず、会社法施行規則や会社法計算規則から成る「法務省令」を見なければわからないことも多くあります。

例えば、「株主総会で取締役が株主から質問を受けた場合、回答する必要があるか?」という問題が出てきたとします。
会社法314条は以下のように規定しています。

会社法第314条
取締役、会計参与、監査役及び執行役は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければならない。ただし、当該事項が株主総会の目的である事項に関しないものである場合、その説明をすることにより株主の共同の利益を著しく害する場合その他正当な理由がある場合として法務省令で定める場合は、この限りでない。

この条文から、①「株主総会の目的である事項に関しないものである場合」、②「その説明をすることにより株主の共同の利益を著しく害する場合」に加えて、③「正当な理由がある場合として法務省令で定める場合」も回答する必要がないことがわかります。

この「法務省令」に当たるのが、会社法施行規則71条です。

施行規則第71条 
法第314条に規定する法務省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
1号
 株主が説明を求めた事項について説明をするために調査をすることが必要である場合(次に掲げる場合を除く。)
  当該株主が株主総会の日より相当の期間前に当該事項を株式会社に対  
 して通知した場合
  当該事項について説明をするために必要な調査が著しく容易である場
 合
2号 株主が説明を求めた事項について説明をすることにより株式会社その他の者(当該株主を除く。)の権利を侵害することとなる場合
3号 株主が当該株主総会において実質的に同一の事項について繰り返して説明を求める場合
4号 前3号に掲げる場合のほか、株主が説明を求めた事項について説明をしないことにつき正当な理由がある場合

この条文からは、1号から4号のいずれかに当たる場合は、法314条但書の「正当な理由がある場合」に当たることがわかります。

このように、法務省令の存在に気付くと有利です。

それでは、法務省令の条文を引くためにはどのようにすべきか。

まず、会社法314条を見ればわかるように、法務省令を引きべき場合は、条文中に「法務省令」という単語が出てくる場合が多いです。
これは、国会制定法である会社法が、法務省に「委任」しているという趣旨なのです。

次に、会社法施行規則といえども200前後の条文がありますが、この中からどのようにして条文を見つけるのか。

ここでも、「会社法の条文との付き合い方①」で学んだ「会社法の体系」が生きてきます。
つまり、施行規則の条文も、会社法の体系とパラレルな順序で配置されているのです。
そのため、最悪迷ったら施行規則の冒頭の「目次」を見れば大丈夫です。

また、実は、六法をパラパラめくりながら見つけることも非常に簡単です。

314条を例にしましょう。

314条には「法務省令」とあるので、会社法施行規則に飛びます。
施行規則56条を試しにみると

規則56条
法第260条第2項に規定する法務省令で定める場合は、(後略)

とありますね。
このことから、「法314条」の条文は、「法260条」に対応する「規則56条」よりも後に配置されているんだな、と目星がつきます。

そして、同じ要領で規則69条は「法311条」、規則70条は「法312条」に対応していることがわかり、やがて、「法314条」に対応する規則71条にたどり着くことができるのです。

規則第71条 
法第314条
に規定する法務省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
(略)

以上は、会社法施行規則を例にしました。
基本的には、会社法計算規則も同じような感じです。

しかし、会社法計算規則を引くことは稀なので(主に計算分野にかかわるものです)、基本的には施行規則を引くことになります。

計算規則を引く場合は、個別の論点でまた見ていきましょう(かつ、それで足ります)。

5.(条文は)わたしの、最高の友達

さて、いかがでしたでしょうか。

そろそろ会社法の条文にも愛着が湧いてきた頃ではないでしょうか。

条文は友達です。
友達は、多ければ多いほどいいものです。

もう何も恐くない。私、もう一人ぼっちじゃないもの。


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