第10.5回 会社法の条文との付き合い方②(会社法の基礎)
会社法の条文は多すぎだと文句を言う人が極まれにいらっしゃいます。
1.そんなの、あたしが許さない
というわけで、
前回では、会社法の条文の全体像を見ました。ここでは、さらに細かいテクニックを見ていきます。
2.公開なんて、あるわけない(?)
みなさん、株式会社といえば、例えば、資生堂やソフトバンクなどの大企業、それも上場企業を思い浮かべるのではないでしょうか。
訳がわからないよ。
会社法の発想は全く逆です。
会社法のコンセプトは、「Think small first」です。
つまり、会社法が基本としているのは、小さな会社です。そこでは、取締役会もなく、株式も公開していない閉鎖会社が想定されています。
これに対し、大企業は「例外」として規定されているのです。
例えば、新株発行について会社法は以下のように規律しています。
この2つの条文を見ればわかるように、原則は非公開会社=株主総会決議、例外が、公開会社=取締役会決議となっていることがわかります。
このように、条文の構造として、まず小規模な会社(取締役会なし、株式譲渡制限あり)が来て、そのあとに、公開会社(取締役会あり)の規定が来るという構造になっています。
同様に、株主総会の権限に関する会社法295条もこのような形になっています。
ここでは、取締役会設置が例外とされていますね。
会社法298条も同様です。
利益相反取引で見た、会社法356条と365条の関係もこれと同様です。
このように、取締役会設置会社の規律は後回しにされることが多いのです。
3.(定義規定)夢の中で逢った、ような、、、
さて、会社法の条文の特徴としては、用語の定義を見ないといけない場面が多いこと、さらに、その定義の箇所が散在していることが挙げられます。そのため、特定の用語の定義を見つける能力がモノをいうことがあります。
例えば、株主総会決議取消の訴えの原告適格を例に見てみましょう。
会社法831条1項では、以下のように規定されています。
この条文からは、原告適格は「株主等」が有することがわかります。しかし、「株主等」が何を指すのかは、この条文からは明らかになりません。
一方、会社法828条2項1号は、以下のように規定しています。
「株主等」の定義は、828条2項1号にあるのです。ここでは、「株主等」とは、「株主、取締役又は清算人(監査役設置会社にあっては株主、取締役、監査役又は清算人、指名委員会等設置会社にあっては株主、取締役、執行役又は清算人)」と定義されます。
つまり、株主総会取消の訴えは、株主のみならず、取締役や監査役も提起することができるのです。
そして、このことは831条のみならず、828条も見なければわかりません。
こういった点も会社法が読みづらい原因の一つです。
とはいうものの、この「定義」を見つける方法はいくつかあります。
①会社法の定義規定を見る
まず、行政法を履修していれば既に自明のことかと思いますが、たいていの法律は「第2条」が定義規定となっています。
会社法もこの例にもれず、「第2条」に定義規定があります。
例えば、「公開会社」の定義は、以下のように規定されています。
このように、出現頻度・重要度の高い用語の定義は、第2条においてあります。
②施行規則を見る
それでは、少しマイナーな用語の定義についてはどうでしょうか。
これについても「第2条」がモノをいうことが多いです。
つまり、第2条は第2条でも、「会社法施行規則第2条」を見るのです。
みるべきなのは、2条2項です。
例えば、合併についての会社法749条1項2号に出てくる「金銭等」の定義は、なんと151条1項にあります。
このような場合に便利なのが会社法施行規則2条です。
このように、金銭等の定義は会社法151条1項にあることがわかります。
③節の冒頭に戻る
とはいえ、会社法施行規則第2条は万能ではなく、あくまでも施行規則に出てくる用語しかカバーできません。
例えば、先に見た「株主等」は、会社法施行規則第2条には載っていません。
ここで、前回では、会社法はいくつかの部分に区分できることを見てきましたが、このことがここでも効いてきます。
つまり、その用語が出てきた「節」等の冒頭に、定義が置かれている場合が多いのです。
例えば、先に見た831条の「株主等」の定義のある828条は、「第2章訴訟 第1節会社の組織に関する訴え」の冒頭にあります。
もう一度「株主等」の定義を見てみると
「以下この○○について同じ」という文言が出てくることがわかります。このような規定は、節などの最初の方に置かなければ意味がありません。そのため、一番最初の方の条文に置かれる傾向があるわけです。
④あきらめる
それでも見つからなければ、現場ではあきらめるしかありません。
あきらめて覚えましょう。そちらの方が早いです。
例えば、会社法371条4項の「役員」の定義は、会社法329条1項においてありますが、初見で見つけることは困難です。
この太字のように、ピンポイントに定義されていると見つけるのは困難ですね。
さらに意地悪なのが、組織再編で出てくる「特別支配会社」の定義です。
例えば、784条1項は以下のように規定しています。
そして、なんとこの定義規定があるのは468条1項です。
これはわかりにくいですね。
発想としては、③の応用となります。
つまり、一番最初に似たような制度が出てくる箇所にある可能性があるということです。
ここでは、事業譲渡と合併における「略式」の場合のアナロジーが根底にあります。
つまり、「略式合併」(784条)の規律が、「略式事業譲渡」(468条)の規律とパラレルなので、このような変則的な規律となっているのです。
4.最後に残った法務省令
会社法は、本体だけでも条文数が多いにもかかわらず、会社法施行規則や会社法計算規則から成る「法務省令」を見なければわからないことも多くあります。
例えば、「株主総会で取締役が株主から質問を受けた場合、回答する必要があるか?」という問題が出てきたとします。
会社法314条は以下のように規定しています。
この条文から、①「株主総会の目的である事項に関しないものである場合」、②「その説明をすることにより株主の共同の利益を著しく害する場合」に加えて、③「正当な理由がある場合として法務省令で定める場合」も回答する必要がないことがわかります。
この「法務省令」に当たるのが、会社法施行規則71条です。
この条文からは、1号から4号のいずれかに当たる場合は、法314条但書の「正当な理由がある場合」に当たることがわかります。
このように、法務省令の存在に気付くと有利です。
それでは、法務省令の条文を引くためにはどのようにすべきか。
まず、会社法314条を見ればわかるように、法務省令を引きべき場合は、条文中に「法務省令」という単語が出てくる場合が多いです。
これは、国会制定法である会社法が、法務省に「委任」しているという趣旨なのです。
次に、会社法施行規則といえども200前後の条文がありますが、この中からどのようにして条文を見つけるのか。
ここでも、「会社法の条文との付き合い方①」で学んだ「会社法の体系」が生きてきます。
つまり、施行規則の条文も、会社法の体系とパラレルな順序で配置されているのです。
そのため、最悪迷ったら施行規則の冒頭の「目次」を見れば大丈夫です。
また、実は、六法をパラパラめくりながら見つけることも非常に簡単です。
314条を例にしましょう。
314条には「法務省令」とあるので、会社法施行規則に飛びます。
施行規則56条を試しにみると
とありますね。
このことから、「法314条」の条文は、「法260条」に対応する「規則56条」よりも後に配置されているんだな、と目星がつきます。
そして、同じ要領で規則69条は「法311条」、規則70条は「法312条」に対応していることがわかり、やがて、「法314条」に対応する規則71条にたどり着くことができるのです。
以上は、会社法施行規則を例にしました。
基本的には、会社法計算規則も同じような感じです。
しかし、会社法計算規則を引くことは稀なので(主に計算分野にかかわるものです)、基本的には施行規則を引くことになります。
計算規則を引く場合は、個別の論点でまた見ていきましょう(かつ、それで足ります)。
5.(条文は)わたしの、最高の友達
さて、いかがでしたでしょうか。
そろそろ会社法の条文にも愛着が湧いてきた頃ではないでしょうか。
条文は友達です。
友達は、多ければ多いほどいいものです。
もう何も恐くない。私、もう一人ぼっちじゃないもの。
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