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第9.5回 会社法の条文と付き合い方①(会社法の基礎)

0.会社法の条文と向き合えますか?

さて、会社法は条文が多すぎて、該当条文を探すのも一苦労するなどといったことが、初学者の内はありますね。

特に、初めて見る会社法の条文はジャングルの様で

わけがわからないよ。

というわけで、今回は、会社法の条文の読み方について検討していきたいと思います。なお、組織再編はこの点でもかなり特殊なので、「組織再編法の条文との付き合い方(予定)」として次回以降に回したいと思います。

1.(条文が見つからない)あたしって、ほんとバカ

というわけではなく、会社法の条文を読むには一定の慣れが必要です。まずはその特色を理解していきましょう。

①こんな条文数絶対おかしいよ
まず、言うまでもありませんが、会社法は979条まである浩瀚な法律です。
このことから、会社法は、非常にきめの細かい規律を行っていることがわかります。

もっとも、これだけ条文が多いといっても、これらの条文が無秩序に羅列されているのではありません。一定の体系に従い整理されています。そのため、この体系を理解すれば、条文探索の手間はかなり省けることになります。

②施行規則も、計算規則も、あるんだよ
また、会社法には、会社法施行規則と会社計算規則という2つの法務省令が存在します。このことによって、参照すべき条文がさらに増えることになります。

もっとも、これらの法務省令と会社法は、一定程度リンクしているため、慣れれば条文の探索は苦ではありません。

③そんなの、あたしが許さない
このように条文が多い原因の一つが、会社法が、株式会社をさらに細かく分類していることが一因です。

つまり、公開会社/非公開会社、大会社、取締役会設置会社etc.といった細かい分類があり、かつ、それぞれにつき異なった条文で規律していることが多くあります。

このような、各類型毎の規律を理解することも、条文攻略の近道です。

2.(条文通読)それはとっても嬉しいなって

法律には通常、目次があります。この目次を見つつ、条文の位置を把握することが可能です。

条文の位置を把握すれば、大体この辺りに書いてあるはず!と、を六法を引いて当てることができます。

以下では、独断と偏見に基づき、条文をブロックごとに区切って、大体どんなことが書いてあるのかを鳥瞰します。

①6~24条(総則)

この条文の特徴は、商法の規定とほぼ同様の規定が置いてあることです。会社も商人ですが、商法ではなく会社法が適用されることになります。

この中でも特に重要なのが第4章の事業譲渡の条文(21条~24条)です。商号の続用や競業避止義務の規定はここにあります。

②26~103条(設立)

この部分には,会社の設立に関する規定が置いてあります。
このパートは大きく2つに分けられます。

まず,25条~56条が発起設立の規定です。設立の基本的な条文はすべてここに置いてあります。相対的に重要度が高いのはこの部分です

これに対し,57条~103条が募集設立の規定です。ここでは,募集設立に固有の規定が置いてあります。

③104~145条(株式)

この部分には,株式に関する基本的なことが規定されています。

第1に,120条までは,大体,株主平等原則・種類株式の規定があります。なお,利益供与の規定(120条)もここにあります。

第2に,121~126条が,株主名簿関係のゾーンです。

第3に,127条以下が,大体「株式の譲渡」の箇所です。ここでは,「対抗要件」や「譲渡制限」の規定が置かれています。

④155~179条の10(自己株式)

ここには会社が自己株式を取得する「手続」が規定されています。

155~165条では,オーソドックスな自己株式の取得手続きが規定されています。なお,特則的なものは大体160条以降にあります。

166条以下は,会社が株式を取得する権利を有するような「種類株式」の取得について定めています。

⑤180~195条(株式の変更)

ここでは,株式の単位の変更が定められています。

前から順に,併合・分割・単元株式です。

⑥199~213条の3(株式発行),233・34条「雑則」

これは,既に成立した会社が,株式の発行を行う場面の規律です。

なお,「雑則」(234条,235条)には,「端数の処理」が載っています。これが「株式パート」の締めくくりとなっているのです。

⑦236~294条(新株予約権)

ここには,新株予約権に関する規律が置かれています。以下では,重要なところをピックアップします。

236~247条が,「新株予約権の発行」の手続です。

277~279条は「新株予約権の無償割当て」の手続です。

280~287条までは,「新株予約権の行使」の場面です。

このように,前二者が「発行」,後者が発行された新株予約権の「行使」の規律となっています。

⑧295~347条(株主総会・機関設計・役員選解任)

このパートには,機関に関する雑多な規定が入っています。

メーンとなるのが,295~325条の7の規定です。ここには,「株主総会の手続」の規定が置いてあります。

326~28条には,機関設計に関する規定が置いてあります。たとえば,公開会社の取締役会設置強制などです。

329~347条以下には,機関の「選任・解任」に関する規定が置かれています。ここには,選解任の手続や,任期・資格などの規定が置かれています。

⑨348~422条(機関各論)

ここには,「機関の権限」に関する規律が置かれています。

348~361条は、「取締役」に関する規定です。この部分は、「取締役会設置会社」の取締役の「総則」的な部分と、「非取締役会設置会社の規律」の部分を兼ねています
たとえば、後者でいうと、会社法348条と362条、又は、356条と365条はパラレルな規定となっています。つまり、取締役会設置会社か否かで適用条文が変わってきます。
その一方、パラレルでない総則(表見代表取締役等)は、取締役会設置会社の取締役に対しても適用されます。

362~373条は、既に述べた通り「取締役会」に関する規律です。

374~380条は「会計参与」の規定です。

381~389条は「監査役」、390~399条は「監査役会」の規律です。ここでも、「取締役」/「取締役会」の規律の構造との相似形が見られます。

399条の2以下の枝番号の条文は、「監査等委員会設置会社」の規律です。これは、平成26年会社法改正で「監査役会設置会社」と「指名委員会等設置会社」の間に無理やりねじ込んだので、この位置に枝番号が連続しています。

残りの、400条から422条は、指名委員会等設置会社の規律です。

⑩423~430条の3(役員の責任)

この部分は、試験だと一番よく使う部分の一つです。全体的に「取締役に対する責任追及」を扱います。つまり「任務懈怠」が中心です。

⑪431-465条(計算)

ここでは、会社の計算についての規定があります。

431~452条は、会計の「書類」に関する規定です。ここには、会計帳簿の閲覧・計算書類の作成・資本金等の計数の増減が取り扱われています。

453~465条は、「剰余金の配当等」に関する規律です。

特に、461条以下の「財源規制」が重要です。これには、自己株式の取得も含まれます。

⑫466~470条/471~675条(解散・清算・持分会社)

466条は、「定款変更」の規定です。

467~70条は、「事業譲渡」の規定が置いてあります。つまり、「事業譲渡」は組織再編には含まれてはいないのです。

471~574条は、解散や清算といった「会社の消滅」の手続が置いてありますが、これは破産法分野の問題なので、通常は説明が割愛されます。

575~675条が「持分会社」の規律です。

⑬676~742条(社債)

この部分には、「社債」に関する規定が置いてあります。
特に702~714条は、「社債管理者」の規律が置いてあります。

⑭743~816条の10(組織再編)

この点は組織再編の規律が置いてあります。これは、「組織再編法の条文との付き合い方(予定)」参照。

⑮828~856条(会社訴訟)

この部分も、比較的条文を引く機会が多い部分です。「請求権の根拠」である⑩役員の責任の部分(423~430条)とは異なり、この部分は、「訴訟の方法」に焦点が合わせられています。

民事訴訟法とも関連があります。そのため、原告適格や判決効の規定が多く置かれます。

⑯907~932条(登記)

最後に重要となるのはこの部分で、会社の登記に関する規律がここに置かれます。

3.もう何も怖くない

以上、かなり簡略ですが会社法の条文の全体像を見てみました。

会社法は、離れた個所の条文を引くことが多いですが、この「体系」を理解すれば、怖いものはありません

例えば、「株主総会決議を要する場合」は、新株発行の199条2項や定款変更の466条など、各事項につき定められている一方、その「株主総会決議の手続」は295条以下にまとめて規律されています。

また、自己株式の取得手続は155条以下に規律される一方、財源規制は461条以下に定められています。

これらのように、「手続」を構成する規定がまとめて分離されることが多いです

また、423条が「請求権の根拠」である一方、株主代表訴訟がその「請求権」を会社に株主が代位する「訴訟手続」であるから、この2つは別の箇所にあり、かつ、両者が一体的な根拠となります。

また、勉強が進んだ時に、全体像を見返しましょう。条文が引けなくなるということはほぼなくなります。

次々回の②では、さらに細かい点を見ていきます。



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