第13回 監査役とガバナンス(会社法の基礎)

今回は、取締役と愉快な仲間たちのお話です。

特に、取締役が不当な経営をしたり、違法行為をするなど暴走した場合、どのように歯止めをかけるのかという場面が問題となります。

まず、不利益を被ることとなる株主は、会社の外部にいる(所有と経営の分離)ことから、そもそも違法行為に気づけないかもしれず、気づいたときには既に手遅れかもしれません。

そのため、事前に歯止めをかけなければ意味がありません。

復習となりますが、そのための仕組みの一つが、取締役会制度でした。これは、業務執行者(代表取締役)と、その監視者(取締役)から成るガバナンス構造でした。

もっとも、公開会社でない限りは、取締役会は必須の機関ではありません。また、取締役会の内部では、人事権を握る代表取締役の権限が強く、また、仲間意識が生じることもあるでしょう。

そのため、より独立性の強い監視のシステムが必要となります。
会社法は、そのうちの一つとして、監査役という制度を用意しています。

1.監査役とは

今までは,主に株主・取締役間のエージェンシー関係が問題となってきました。その理解からすると,監査役とは,少し異質な存在です。

監査役は,取締役の職務の執行を監査する機関とされます(会社法381条1項)。
監査とは,職務執行が適正に行われているかを調査し,必要な場合は是正を行うことを言います(注1)。

また,取締役会設置会社には,原則,監査役を置く義務があります(会社法327条2項)。さらに,監査役には取締役会への出席義務があります(会社法383条1項)。

ただ,取締役と同じく,監査役も株主総会決議によって選任される点に変わりはありません(会社法329条1項)。

このように,監査役は,①取締役と同じく,株主により選任される機関であり,かつ,②取締役を監査する機関,という位置づけになります。
これは,いわば株主・取締役のエージェンシー関係の中間に存在するのに近い位置づけです。
そのため,監査役には株主の利益を図りつつ,取締役を監視するという役割が与えられるのです。

このような監査役の特殊な位置づけから,監査役には(取締役からの)「独立性」が強く求められることが特徴的です。

2.監査役の役割

①監査

監査役の行う監査は、①会計監査と②業務監査に大別できます(注2)(注3)。

ここでは、②業務監査について検討します。

まずは、取締役会によるガバナンスとの違いです。取締役会による監督は、経営判断の妥当性やパフォーマンス評価も含む妥当性監査です。その一方、監査役の監査は、法令・定款違反行為の抑止を主たる目的とするものであり、適法性の観点からの適法性監査が中心となります(注4)。

もっとも、実のところ明確な境界線があるわけではありません。

というのも、業務執行が「著しく不合理」となる場合は、善管注意義務違反として「違法」となることから、その限りにおいて監査役の監査権限が及び、かつ、経営判断を監査する義務を負うからです(注5)。

なので、監査役は業務全般に目を光らせておく必要があります。

②独任制とは

このように、取締役の業務執行を監査するという役割を持つ監査役は、強い独立性を持っている必要があります。

特に、監査役が複数いる場合、各監査役は独立して任務に当たるとされます。これを、独任制といいます。

独任制の帰結として、各監査役は、相互に拘束されることなく、各々が適法性に関する評価、意見表明を行うことになります。

③監査の手段

ひとえに、監査役が監査するといっても、そのための実効的な手段がなければ絵に描いた餅です。

そのため、会社法は、監査役が用いることのできるいくつかの手段ないし権限を定めています。

大まかにまとめると以下の通りです。

⑴取締役会への出席(会社法383項1項)
⑵取締役会の招集権限(会社法383条2項)
⑶取締役・使用人に対する事業報告の求め(会社法381条2項)
⑷業務及び財産の状況の調査(同項)
⑸子会社に対する⑶・⑷の権限(会社法381条3項、ただし4項に注意)
取締役の違法行為の差止め(会社法385条)

⑹の差止めについては後述します。

④監査役の情報発信

監査役は,ただ監査を行うのではなく,株主に対する情報提供を行う必要があります。
これにより,株主の権利行使と取締役に対する監督の実質化が図られます。まさに,株主と取締役の間に存在するといえます。

まず,監査の結果を,各事業年度ごとに監査報告として報告します(会社法381条1項)。
そして,取締役会設置会社においては,監査報告は,株主総会の招集通知に際して株主に対し提供されます(会社法437条)。

また,監査役は,取締役が株主総会に提出する議案・書類等を調査し,その結果,法令・定款違反等を発見した場合は,調査の結果を株主総会に報告しなければなりません(会社法384条)。

⑤監査役のその他の役割

監査役は,取締役から独立した立場にあることに伴い,独立性が要求される役割を担うことがあります。

一番大きなものは,訴訟に関するものです。
すなわち,会社が取締役に対し,又は,取締役が会社に対し訴えを提起する場合,監査役が会社を代表します(会社法386条1項1号)。
これは,通常は代表取締役が代表権を有することの例外に当たります。

このほかの代表に関する例外はについては,会社法386条参照のこと。これらは,今後も適宜参照されることになります(特に株主代表訴訟)。

また,取締役の責任免除などに関連し,監査役の「同意」が要求されることがあります(会社法425条3項1号など)。

さらに,株主総会取消の訴えや(会社法831条),各種の無効の訴え(会社法828条2項参照;「株主等」に注意)において,監査役は原告適格を有します。

このように,監査役は少し便利屋のような扱いを受けている側面もあります。
もっとも,近年の「社外取締役」との役割の違いをどのように理解していくのかが今後の課題となるでしょう。

3.監査役会について

複数の取締役から構成される取締役会があるように、複数の監査役により構成させる会議体を「監査役会」といいます。

監査役会を設置する会社を「監査役会設置会社」(会社法2条10号)といいますが、これは従来、日本の上場会社の基本形とされて来たものでした。今でも多くの上場会社がこの監査役会設置会社です。

そのため、大きな特色としては、監査役会(最低3名の監査役が必要)の半数以上は「社外監査役」でなければならないとされています(会社法335条3項)。つまり、最低2名は社外監査役がいる必要があります。

また、監査役会は、常勤監査役を選定する必要があります(会社法390条3項)。

監査役会の役割は,監査報告の作成のほかに,監査の方針などを決定するというものがあります(会社法390条2項3号)。

これに対し,監査役は,自ら「権限の行使」を行います。つまり,「監査」自体は,各監査役が自らの責任で行うことが前提とされています(会社法390条2項但書)。

このように,監査役会は,各監査役間の役割分担を進め,情報を共有してより効率的な監査を促進するものであるが,各監査役の監査権限が縮減するわけでも,責任が免じられるのでもないということです(注6)。

監査役会が存在しても,基本的に,各監査役の独立性は担保されているのです。

4.独立性の担保のための仕組み

①監査役の兼任禁止

まず、監査役は、取締役との関係で独立性が要求される存在であることは既に明らかにしました。

そのため、監査役の資格にも制限がかかります。

監査役に特徴的なのは、兼任禁止規定です。
すなわち、監査役は、株式会社(又はその子会社)の、「取締役」「支配人その他の使用人」等を兼ねるが禁止されます(会社法335条2項)。

これは、監査者と被監査者の地位の重複(自己監査)を避け、監査の公正を確保するための制度であるとされています(注7)。

②兼任禁止の効果

兼任禁止が問題となる場面については、取締役を監査役にする場面が挙げられます。

これは、以下の2つの場面でもんだとなります。

第1に、現在取締役である者を、株主総会決議により監査役に選任した場合です。
この場合は、「決議内容の法令違反」により株主総会決議自体が無効なのではないか、という問題があります。
この点について判例は、取締役が監査役への就任を「承諾」したときは、取締役を辞任したと解するべきであり、決議は有効であると判示しました(注8)。
なお、この場合に取締役の仕事を「承諾」後も継続して行えば、それは監査役としての「任務懈怠」になると理解されています。

第2に、取締役から監査役に就任すると、監査役としての監査対象の中に自分が取締役であった時期を含みます。
これが「自己監査」に当たりゆるされないのではないか、という問題を「横滑り監査」といいます。
これについても、法が明示的に禁止していない以上は許容されるとするのが通説です(注9)。

③選任・解任等の手続

まず、選任の場面です。

監査役は株主総会決議により選任されます(会社法329条1項)。

この点は取締役の場合と同じですが、監査役の場合はこれに加え、人事における独立性を担保する仕組みがあります。

すなわち、取締役が、「監査役の選任に関する議案を株主総会に提出する」場合は、監査役(2人以上ある場合はその過半数)・監査役会の同意を得なければなりません(会社法343条1項・3項)。

次に、解任の場面です。

解任も株主総会決議により行うことになっていますが、通常決議で解任が可能な取締役と異なり、監査役の場合は、株主総会特別決議を要します(会社法343条4項、309条2項7号)

最後に、意見陳述権について言及しておきます。

監査役は、株主総会において、監査役の「選任」「解任」「辞任」について意見を述べることができるとされています(会社法354条4項、1項)。

監査役にこのような意見陳述権が与えられるのは、株主に多様な情報を与えるとともに、経営陣による監査役への不当な取り扱いをけん制する効果を期待するためです(注10)。

この意見陳述権により、監査役は、自らの選任等のみならず、他の監査役の選任等についても、意見を述べることができます。

また、辞任することとなる監査役は、株主総会に出席し「辞任した旨及びその理由」を述べることができます(会社法345条4項、2項)。

これは、「自らの」辞任の場合を規律しています。

④監査費用

監査には費用が掛かります。

そのような費用については、⑴費用の前払い、⑵支出した費用の償還、⑶負担した債務の弁済の請求、といった対応をすることが考えられます。

しかし、会社が難癖をつけてこれらを拒絶する危険性があり、そうであると、監査の実効性を担保することができなくなります。

そこで、会社は、上記の⑴~⑶についての請求があったときは、「当該請求に係る費用又は債務が当該監査役の職務の執行に必要でないことを証明した場合を除き、これを拒むことができない」とされています(会社法388条)。

これは、本来なら「監査ための必要費であること」を監査役が証明しなければならないところ、その証明の責任を、監査役から会社に転換するための規定です。
これにより、監査役が費用の支出が損になることを恐れずに監査を行うことが可能となります。

5.取締役の違法行為への対応

最後に、取締役が違法行為を行おうとする場合の会社の対応を考えてみましょう。

ここでは、違法行為の差止めが問題となります。

まずは、所有と経営の分離していない比較的小規模な会社、つまり非取締役会設置会社の場合を見ていきます。

この場合、株主は、取締役の違法行為を差し止めることができます。

第360条第1項 
六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主は、取締役が株式会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該株式会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができる。

会社法360条は、①6か月という保有期間の要件と、②法令等の違反行為又はそのおそれ、③「著しい損害が生ずるおそれがある」ことを要件にして、株主に取締役に対する差止請求権を認めています。

次に、所有と経営が分離した取締役会設置会社を見ていきます。

まず、株主による差止が考えられますが、この場合の要件③は、「回復することができない損害」に加重されています(会社法360条3項)。

これは、「著しい損害」よりも、より高度な損害を要求します。

なぜ、このような構造になっているのかというという理由は、今回検討してきた「監査役」の存在です。

第385条第1項 
監査役は、取締役が監査役設置会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該監査役設置会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができる。

この条文は、ほぼ会社法360条1項と同様のものです。つまり、「著しい損害」を要件として、監査役に差止請求権が認められているのです。

このようにして、所有と経営が分離した取締役会設置会社では株主による監視が期待できない、という弊害が、会社・株主間に存在する監査役により緩和されることが期待されています。

また、監査役は情報提供という面でもその役割を持ちます。

監査役は、取締役が不正・違法な行為をすると認める場合は取締役・取締役会に報告する義務を負います(会社法382条)。

また、議案の調査などに際し、違法・不当な事項があると認めるときは、株主総会に対しても報告義務を負います(会社法384条)。

6.補論:会計参与について

ところで、会社法では、「会計参与」を置くことができるとされています(会社法326条2項)。

会計参与は、公認会計士・税理士の資格を有する者がつく会社の機関であって、取締役と共同して計算書類を作成する権限を有するものです(注11)。
「共同」というのは非常にあいまいであり、実のところ何をするための機関なのか、よくわかりません。

これは、主に、中小企業における導入が期待されていた制度です。つまり、中小企業の会計に専門家を介在させることにより、計算を適正化することが期待されていたのです。

もっとも、その設置が義務化されているわけではなく、どれだけ導入されるのかは、各中小企業に委ねられています。
なお、取締役会設置会社、かつ、監査役を置かない会社は、会計参与を置く必要が生じます(会社法327条2項)。
短答でお馴染みの知識ですね。

会計参与の存在意義は、当初から疑われてきたところですが、最近は「金融機関から融資を受けやすくなる」などのメリットを期待してこれを導入する動きもあるようです(注12)。

いずれにせよ、その存在意義は未だに確立しているとは言い難いため、詳細は他に譲ります。

7.まとめ

今回は、会社法の周縁部である監査役(ないし会計参与)について検討してみました。

非常に地味であるという印象を抱かれたことかと存じます。
実際、そこまで力を入れて解説されることは少ないと思います。

ただ、監査役が、日本の株式会社のガバナンスにおいて果たしてきた役割は無視しえないと思われます。そして、ここにこそ、日本の会社の特色があると思われます。

そもそも、監査役というのは日本に特異な制度です。
ドイツにも「監査役会(Aufsichtsrat)」と呼ばれるものがありますが、これは日本の監査役会とは全く異なるものです。例えば、取締役(Vorstand)を選解任する権限を有するのは、株主総会ではなく監査役会です(注13)。
アメリカにも、Auditorという概念がありますが、これは、外部から財務諸表を監査する会計事務所を指すものであり、会社内部の機関である「監査役」とは、全く異なるものです。
(そのため、日本法の監査役をAuditorと英訳すると誤訳になります。そのため、Supervisory Board Member等と訳す必要があります。)

このように、日本独自の監査役は、今後もガバナンスの構造においてカギを握ることとなるでしょう。

日本法の特異性を知る上でも重要な存在なので、あえて回を設けて検討した次第です。

注1)田中亘『会社法〔第3版〕』296頁。
注2)高橋美加ほか『会社法〔第3版〕』260頁〔高橋〕。
注3)なお、非公開会社は、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨を定款で定めることができます(会社法389条1項)。このような、いわゆる会計限定監査役については、本稿では詳述しません。
注4)高橋ほか・前掲注3)257頁。
注5)江頭憲治郎『株式会社法〔第8版〕』554頁、高橋ほか・前掲注3)260頁。
注6)高橋ほか・前掲注3)266頁。
注7)高橋ほか・前掲注3)258頁。
注8)最判平成元年9月19日判時1354号149頁。
注9)高橋ほか・前掲注3)258頁。
注10)高橋ほか・前掲注3)260頁。
注11)江頭・前掲注5)570頁。
注12)田中・前掲注1)294頁。
注13)詳細は、高橋英治『ドイツ会社法概説』163頁以下。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?