[1分小説] 絶望的で、滑稽な。
中年の男が持っている一種の落ち着き。
そんなものが好きになったのは、いつ頃だっただろうか。
年上の男の舐めるような愛情の中にぬくぬくと抱かれているとき、私は相手の男に同じものを感じてしまう。
十年単位で社会の荒波に揉まれ、
おおよその場合、家庭というものを持っている彼らは、決して社会の"オモテ面"で「寂しい」などとは口が裂けても言えない。
だからこそ、私のような何の価値もなさそうな小娘にお金を払って逢瀬を求めるてくるのだ。
そして、紡ぐ言葉で、重ねた肌の体温で、
彼らは「寂しい」と絶えず漏らし続けるのだ。
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彼らは富と安楽の雰囲気を身にまとい、何不自由ない暮らしぶりを垣間見せる。
それに加えて、
私の知る40代や50代、60代の男たちは、慣れた手つきで現金をちらつかせながら寄ってくる。お決まりのパターンだ。
こちらだって、すべて承知の上でその相手をしている。
もはや、安い給料で飼い殺しにされている同年代の男の子たちに興味はなくなってしまった。
「手間賃」を、ちょうだい。
そしてそれ以上に、
貴方のみっともないその「寂しさ」を私に見せて。
どうしようもない無様さ、
救いようのない欠落、それゆえの苦しみ、悲しみ、苛立ち、絶望―。
もはや覆い隠せぬ彼らの中にあるそんな物々を見るたびに、私は安心してしまう。
それらは、私が持つ「寂しさ」と同じである、と。
そして、
両者の「寂しさ」を足しても、掛け合わせても、決してお互いに満たされることはない、と。
そんな絶望を舐め合っている私たちは、なんて悲しくて滑稽なんだろう―。
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自分の倍以上の人生を生きてた男たちと、
都会の真ん中の高級ホテルの一室で抱擁をしながら、
行くあてのない絶望を共有している"一対の男と女" を、
私は、いつだって心底憐れんでしまう。
それでいて、どうしようもなく、愛おしくなってしまうのだった。
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