マガジンのカバー画像

Naked Desire〜姫君たちの野望

43
舞台は西暦2800年代。 世界は政治、経済、そして文化のグローバル化並びにボーダーレス化が進み、従来の「国境「国家」という概念が意味をなさなくなっていた。 欧州大陸にある、…
運営しているクリエイター

#小説

Naked Desire〜姫君たちの野望

第一章 心の壁−34

「クラウス、ランペルツさんが来ていないんだけど、あなた事情を知ってる?」
アルマの愚痴を聞いた翌日の朝10時前、クラウスは挨拶もそこそこに、エルヴィラに呼びとめられた。
昨日のやりとりを彼女にいったら、面倒な事態になるのは明らかだ。クラウスは即座に、誰にも言わないことに決めた。
「あの人、まだ来ていないんですか?」クラウスは素っ気ない口調で返事する。
「今日は9時Inなのに

もっとみる

Naked Desire〜姫君たちの野望

第一章 心の壁−32

クラウスは、のそのそと立ち上がると、右手に汚れた布を掴んだ。
休憩室内のシンクスペースに移動すると、蛇口からぬるま湯を出し、ダスターを洗う。
手早く汚れを落とすと、サニタリー溶剤にダスターを浸し、再びぬるま湯ですすぐ。
ダスターを折りたたみ、テーブルについていた食べかすや水滴を丁寧に拭き取る。
「こんなもんだろ」
クラウスはダスターを丁寧にたたんでテーブルの隅に置くと、先

もっとみる

Naked Desire〜姫君たちの野望

第一章 心の壁−29

「ちくしょう……これじゃ、エルヴィラの方がまだマシだわ。私ってバカよねえ。本当に人を見る目がない。宮廷で生き残れるのか不安になってきたわよ! マルガレータ・ハンナ・オクタヴィア・マルゴット、あなたのために使った私の時間とエネルギー、今すぐ返して!」
エミリアは一気にまくし立てると、テーブルに突っ伏して号泣した。
「ごめん、ごめんよエミリア・パトリシア・クラリッサ・アリアンナ

もっとみる

Naked Desire〜姫君たちの野望

第一章 心の壁−28

「お気に召したなら、新品買ってきてあげようか? 使いかけを他人にあげるわけにはいかないしね。タオルも、色違いのものでよければ、それと同じタイプのものがいくつかあるから、あげようか?」
とアタシがいうと、彼女は手に持っているチューブとタオルを見た。
「いいんですか? お姉様」
「いいのいいの」
「ありがとうございます、お姉様。それでは、両方ともいただきますね」
というと、義妹

もっとみる

Naked Desire〜姫君たちの野望

第一章 心の壁−26

以前から、エミリアのことをよく思っていなかった皇帝付き侍従の一人が、皇帝にエミリアがそばに控えていない時に「エミリア皇女に乱心の気あり」と、あることないことを吹き込んだのである。
だが彼女がかわいい皇帝夫妻は、その意見に耳を傾けないどころか、その侍従をきつく叱責した。その侍従は左遷され、その話はそれで終わり……のハズだった。
だがエミリアを快く思っていない連中は、それでめ

もっとみる

Naked Desire〜姫君たちの野望

第25回 心の壁ー25

「構うものですか。本当のことだもん」アタシは、コーヒーをすすりながら言った。
「お姉様はよくても、ほかの人間はそうは思いません。ちょっとした一言で何もかも喪った事例は、枚挙に暇がないでしょう」
気がつくと、エミリアの口調はさっきまでの丁寧調から、ややきつい言い回しになっている。まずい、いささか調子に乗りすぎたか。
「ご忠告、痛み入るわ」
「反省のポーズだけならば、そこらの

もっとみる

Naked Desire〜姫君たちの野望

第一章 心の壁−24

「お姉様に、どうしても見てもらいたいものがあります」
義妹はそう言いながら、黒色のクラッチバッグから、一冊のファイルを取り出し、それを私の前に差し出した。
彼女のいわれるまま、アタシはそのファイルに視線を向ける。
「ま、立ち話も何だからさ、座って話そ」と言いながら、アタシは彼女に、執務室のソファに座るよう促す。「コーヒーでいいよね?」
「はい、お姉様と同じもので」エミリアは

もっとみる

Naked Desire〜姫君たちの野望

第一章 心の壁-23

〈お姉様、おはようございます〉
〈おはよう、エミリア〉
アタシがディスプレイ越しに挨拶したのは、エミリア・パトリシア・クラリッサ・アリアンナ・フォン・ゾンネンアウフガング=ホッフンヌング。私の妹である。
だが彼女は、実の妹ではない。旧スイスを地盤とする貴族・ローゼンミラー男爵家からやってきた養女である。
〈あの、お姉様……今晩の晩餐会について、なにかお耳に入っていますか?〉

もっとみる

Naked Desire〜姫君たちの野望

第一章 心の壁−19

「おいテメェ! さっきから黙って聞いていれば、いい気になりやがって」
キャサリンが今にも殴らんばかりに、キャサリンがつっかかってきたのを、私は彼女が羽織っている服の袖を引っ張って制止した。
「もうやめようキャサリン。こういう人間には、なにを言ってもムダだよ」
「クラウス、あなたにはがっかりだ。もう少し、分別のある言い方ができる人だと思っていたんだけどな」しょんぼりした表情を

もっとみる

Naked Desire〜姫君たちの野望

第一章 心の壁−16

「だったら、社員やアワマネに後を任せて、とりあえず現場に足を運ぶべきだったのではないですか?」フリーダは執拗に食い下がる。
今彼女が口にした「アワマネ」とは、アワリーマネジャー(以下HM)という、社員不在時に店舗運営を担うアルバイト社員のことで、全アルバイトの頂点に位置する。小規模店舗では2~3人いるが、グラーツ総本店だと、20人以上のHMがいる。この時間帯でも、最低4~5

もっとみる

Naked Desire〜姫君たちの野望

第一章 心の壁−14

「うっせえなこの野郎! なにを偉そうに!」
といいながら、男は歯を食いしばって、両方の拳を握りしめるる。
私はそばの店員に、警察を呼ぶように伝えると、改めて男に向き合う。
「この店は、全館禁煙だとわかってますわね?」
この店には、店内の目につく場所に「全館禁煙」という案内板が設置されている。誰にでもわかる場所にあるので、知らないと言うことはありえない。この男がなにか不埒な目

もっとみる

Naked Desire〜姫君たちの野望

第一章 心の壁−12

「だって、本当のことじゃないの」怒気を含んだ口調で、フリーダも言い返す。
「皇族としてのマリナは、ちゃんとお勤めを果たしている。それは私も認めるわ」
フリーダはグアテマラを一口飲むと、言葉を継いだ。
「私が言いたいのは、情報機関の幹部としてのマリナはどうなの? ってことよ。FGIKFは表向き政府の諜報機関だけど、その実態は、極右勢力とその支援者がターゲットだからね。マリナ付

もっとみる

Naked Desire〜姫君たちの野望

第一章 心の壁−11

「メールの内容は?」冷たい汗が、背中を流れるのがわかる。
「あなたのコップを、簡易鑑定キットで検査したらしいの」
「どんな結果だったの?」
「ごくわずかだけど、睡眠薬の成分が検出されたって。で、詳しい検査をするためにキャサリンは、そのワイングラスを別部署に持参するそうよ」
「……」ショックのあまり黙り込む私。
「これでわかったでしょ? あなたがバスルームで溺死しかけたのは、

もっとみる

Naked Desire〜姫君たちの野望

第一章 心の壁−10

フリーダ・ポボルスキー、年齢は私と同じ23歳。独身。
国立宮廷行政学院で地理学を専攻し、今年から枢密院秘書課に配属された女性だ。
「おはよう、フリーダ。とりあえずコーヒー飲もうか」
と声をかけ、レジカウンターに移動しようとする。
だが彼女は素早く私の前に動くと、丸い目を細くした……かなり怒っている証拠だ。
「ねえマリナ、今朝何があった?」フリーダは、上目遣いで私を見る。

もっとみる