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小説「15歳の傷痕」79~恋する気持ち

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- 青空のカケラ -

何となく熟睡できないまま、俺は翌日を迎えた。

「今日、高校休んじゃダメ?」

と母に聞いたが、

「何言ってんの?バカなこと言ってないで、早く準備して行って来なさい」

と一蹴された。
その通りだ、母は昨日俺が体育の授業中、目眩でダウンしたのを知らないからだ。
学校側から電話をする程でも無かったし。

仕方ない、何とかなるだろうと思って、俺はいつもの通り登校した。

幸か不幸か、登校する途中で知り合いには誰も会わなかった。
仮に誰かに会ったとして、今抱えている悩みを相談できる訳もないので、会わない方が良かった。

意を決して自分のクラスに入る。

「あっ、ミエハル!無事か?大丈夫か?」

まず男子が次々と声を掛けてくれた。次に女子が何人か声を掛けてくれた。

「ミエハルくん、大丈夫?無理しないでね」

「うん、みんなありがとう~。昼飯食べずに午後の体育に出ちゃダメやね~」

「なに、昨日お前、昼飯食わんかったんか?どっか行ってたみたいじゃけど」

そう話してくれたのは、クラスのリーダー格、元サッカー部の長尾だった。

「えっ、あの、うーん…」

「そう言えば朝礼の後、先生に呼び出し受けてたよね。だからでしょ?」

救いの声を掛けてくれたのは、文化祭で俺の額の火傷を氷でサッと冷やしてくれた正本さんだった。
又も返答に困る場面で助けてくれ、その気持ちに内心で感謝した。

「そうなんよ。すぐに話が終わると思ったら長引いて…」

「そっか。昼飯食うてから行きゃあええのに。まあ無事でよかったよ」

「今後気を付けるよ、ハハッ」

とりあえず男子からの洗礼は終わったが、佐々木さんは何か言われたりしてないだろうか?
そう思って佐々木さんの席を見たら、まだ登校してないようだった。

(どしたんかな、大丈夫かな…)

大谷さんの方を見たら、大谷さんは登校済だった。
丁度目が合ったので、俺はジェスチャーで手紙ありがとう…と伝えたつもりだったが、大谷さんはピンときていないようで、耳に手を当てて
「何?」
というポーズをしてくれた。

(天然だなぁ…。っていうより、俺のジェスチャーが下手なのか?)

どう伝えようか迷っていたら、そこへ佐々木さんが登校してきた。

「おっはよー」

女子が一斉に佐々木さんの方を向いた。

「何々、どしたん、みんな」

「キョウちゃん、昨日は一体どうなったの?」

そう先陣を切って聞いたのは、大谷さんだった。

「えっ?昨日って、体育でミエハルくんを保健室に連れてったこと?」

「そうそう。その体育の後に教室に戻ったら、キョウちゃんのカバンはあったけど、ミエハルくんのカバンとか制服はなくなってたからさ。ミエハルくんは早退したのかなと思ったんだけど、キョウちゃんは何処へ消えたの?って、女子でプチ騒動になったのよ」

俺は佐々木さんのことを、祈るような目で見ていた。佐々木さんは俺の視線に気付いてるのかどうか分からなかったが、平然とこう言った。

「うん。ミエハルくんは保健の先生に薬をもらって、そのまま早退したんだけど、ミエハルくんを運んだアタシが疲れちゃってさ。ね、ミエハルくん!重たいんだよ、男子はやっぱり」

佐々木さんはここで俺の方を向き、軽くウインクで合図してきた。

「そ、そうだったね。逆に佐々木さんが疲れた~って先生に言って、ちょっと横になりたいって言って…。どうなったのかなって、思ってたんだ」

「そう。アタシがちょっとだけ…5時間目が終わるまでベッドに横にならせて下さいって言って、先生も同意してくれたんだけど、気付いたらえらい暗くなっててさ。寝ちゃってたのよ、アタシ!」

「えーっ?保健の先生は?」

「メモが置いてあったんだけど、6時間目の途中で、どうしても出席しなきゃいけない会合があるから、先に帰りますって書いてあってね。あとは鍵の締め方とか書いてあったんだけど、笑っちゃったのが、何度起こしてもアタシは起きなかったんだって。アハハッ!」

見事だ…。俺はそう思った。きっと今のセリフは、昨夜から佐々木さんがずっと考えていたものなのだろう。

「本当?そんなに寝てたの?体操服のままで?」

「うん。偶々その前の晩、寝不足だったから、余計に全力で昼寝しちゃったのかもしれない。でもその昼寝のせいで、昨日の夜もまた寝付けなかったんだけどさ。何してんだかね」

佐々木さんはここで、心配そうに見ている俺に、親指をグッと立て、大丈夫だよとサインを送ってくれた。
俺も同じポーズで返事をしたつもりだ。

そこへ末永先生が朝礼で入って来た。

「はい、みんなおはよ〜。ミエくん、大丈夫?」

「はい、大丈夫です」

「保健の先生に聞いたら、佐々木さんがミエくんを助けてくれたんだってね。佐々木さんもありがとうね」

「いえいえ」

「みんな、季節の変わり目だから、体調には気を付けてね。無理しないで」

と、先生は半分共犯みたいな部分もあるからか、サラッと昨日の件を流した。
あっという間に昨日のことは済んだことになってしまい、先生は淡々と他の事を話している。
今後の予定表や提出書類も配布された。

(とりあえず昨日の事は大丈夫なのかな?)

その中には進路調査表もあり、内容はかなり詳しく書かねばならないものだった。

(ここまで決めて書かなきゃだめなのか…)

「進路調査表は、〆切が早いけど、今週中には出してね。10月1日付で、正式に進学希望生徒と就職希望生徒に分けて、上へ報告しなきゃいけないのよ。大変だけど協力してね」

ふと大村と神戸の顔が頭に浮かんだ。
あの2人はこんなレベルじゃなく、もう一段、二段高い所にもう進んでいるんだな…。

俺も本格的に進路を考えねば…。


4時限目の日本史が終わるや、俺は弁当を持って屋上へと駆け付けた。今日は晴れているからか、屋上は開放されていた。

入口でしばらく裕子を待つ。どう話を切り出そうか…。いや、どんな感じで裕子は現れるだろうか。

しばらくしたら、階下から上がってくる足音が聞こえた。

(裕子かな…?)

その足音の正体は直ぐに分かった。

「…ミエハル先輩…。遅くなってごめんなさい…」

森川裕子だった。

「まあ、ベンチに座ろうよ。お弁当は持って来た?」

「…はい」

裕子は今にも消え入りそうな声で答えた。

「まだ昨日の雨で汚れてるね」

俺はハンカチを、裕子が座る辺りに敷いた。

「うぅ…先輩…。やっぱりお優しいです…」

裕子は泣きそうになりながら、ベンチのハンカチの上に座った。

「裕子、昨日の帰りに待っててくれたんだね。手紙ありがとう」

「いえ…。先輩、怒ってらっしゃいますよね。アタシ、アタシ…」

「正直に言うね。これからの俺達にも大切なことだし」

「はい…」

「昨日の昼から下校する時までは、苛々してた」

「……」

「でも下校する時、苛々が消えた」

「……」

「なんでか、分かる?」

「…アタシの、手紙、ですか?」

「そうだよ。よく考えたら、雨が降った時に、屋上でのお昼をどうするかって、俺達、決めてなかったなって思って。逆に1時間も裕子を雨の下駄箱で待たせて、なんて俺は小さい男なんだ…ってね」

「……」

「だから、俺も裕子も悪くないし、逆に俺も裕子も悪い…ってね」

「うぅ…。先輩…。ありがとうございます…」

「だから、裕子のことを嫌いになんてならないし、なれないし。これからも俺の彼女でいてくれる?」

「ミエハル先輩…。いいんですか?」

「勿論!」

「先輩…」

裕子は安堵したのか、泣きながら俺に抱きついてきた。

「ミエハル先輩、好きです!大好きです!これからもアタシの彼氏でいて下さい!」

俺も裕子を抱き止めると、ギュッと抱き締めた。

「俺も昨日の帰り、ごめんね」

「うぅ…。そんなの、もう気にしてないです…」

俺は本当は目眩で保健室で寝ていた、と言おうかと思ったが、裕子は深く問い詰めようとして来なかったので、敢えて今言うのは止めておいた。

「泣かないで、裕子…」

「グスン、だって先輩……えっ、あっ…」

俺は周囲に誰もいないのを確認してから、裕子の唇に俺の唇を合わせた。

俺と裕子の初めてのキス。

裕子は嫌がるかと思ったが、ずっと俺の唇を受け入れてくれている。

しばらく唇を合わせた後、唇を離し、顔を見つめ合った。

「俺の気持ち。受け取ってくれた?」

「はっ、はい!エヘッ、先輩とまさかお昼にキスまで進んじゃうなんて…思ってなかったです。先輩の唇の感触、一生忘れません!」

「アハハッ、一生だなんて…。でも俺も、裕子の唇の感触、忘れないからね、絶対に…」

「はい!先輩、お弁当食べましょ?時間がなくなっちゃいます」

「おぉ、そうだね。食べよう」

2人して、弁当を食べ始めた。すっかり裕子も元通りになってくれ、安心して色々なことを話しながら、弁当を食べた。

「はい、先輩。アーンして」

裕子はタコさんウインナーを俺に食べさせようとしてくれた。

「うん。アーン…」

パクッ。美味い!
日曜日の昼に平和公園で食べてから、まだ2日しか経っていないのだが、物凄い久しぶりのように感じた。

「じゃ、俺もお返し。アーンして、裕子」

「えっ?はい、アーン…」

俺は卵焼きを裕子に上げた。

「卵焼きですね。ありがとうございます!」

「うん…。俺が作った訳じゃないんだけどね」

ちょっと俺は恥ずかしがりながら、そう告げた。

「先輩のお母様が作られたんですね。美味しいです!是非先輩のお母様に、お料理を教えてもらえたら…なんて思います!」

裕子はそう言ってから、結構大胆な事を言ったことに気が付いたようで、真っ赤になって照れていた。
俺の母親に料理を習うということは…将来を見据えて、ということに繋がる…。
2日前にボーリング場でデートした時も、何故か結婚の話になり、裕子が顔から湯気が出るのではないかと思うほど、真っ赤になったことを思い出していた。

「あ、あのさ、いつか、本当にいつの日か、裕子のご両親に挨拶出来るような日が来たらさ、俺の親にも紹介するからさ、その、あの、そんな時に俺の母親に料理のコツとか聞いてみてよ…って、な、何言ってんだろうね、ハハッ、アハハ…」

「……」

裕子は真っ赤な顔のまま、固まっている。

(しまった、何言ってんだ俺は…)

しばらく2人を沈黙が襲った。その間に、昼ご飯を終えた主にカップル達が、どんどんと屋上にやって来ていた。

「ゆ、裕子は、5時間目は何?」

「あっ、えっとー、何だったっけ…。今日は火曜日でしたよね?

「うん、火曜日だよ」

「じゃあ体育です。体育祭の練習かなぁ」

「たっ、体育?」

昨日の5時間目が、俺は体育で、その場で目眩を起こしたのを思い出した。
丸1日経ったんだな~。

「あのー、あのっ!まさか、まさかですけど!」

「えっ、何?」

「みっ、ミエハル先輩、アタシのブルマ姿を想像されてはないですよね?」

突然何を言い出すんだと俺はビックリしたが、そんなことを言われるとそれまで思っても無かったのに、逆に意識してしまう。

「なっ、なんで?俺、全然そんなこと思っても無かったのに。そんなこと言われると、逆に気になっちゃうじゃんか」

「ああ、アタシは何を言ってるんでしょう…。先輩をかえってモヤモヤさせてしまったかもしれません…。今の、忘れて下さい!」

「忘れられないってば!」

最後は変な展開になったが、裕子と無事仲直り出来て、俺はホッとした。

「じゃあ、体育頑張るんだよ。また下駄箱で、ね。それまでバイバイ」

「はい!体育頑張りますっ!先輩は5時間目、アタシのことは思い出さずに、シッカリと授業受けて下さいね」

と言い、裕子は手を振って先に屋上からクラスへと戻っていった。

(…思い出さない訳、無いだろってば!)

俺は苦笑いしながら、他のカップル達を横目に、クラスに戻った。


6時間目の英語の授業が終わった。
帰りの準備をしていたら、同じ吹奏楽部だった末田さんが話し掛けてきた。
周りに聞こえないようなボリュームであったが…

「ねぇミエハル、もしかしたら彼女が出来たん?」

とストレートに聞いてきた。
不意を付かれ驚いたが、誤魔化すのも良くないと思い、その通りだと答えた。

「もしかしたらその女の子、若本さんと仲良くない?2年生でしょ?」

ドキッとした。時に女子は、驚くような情報網を持っているからだ。

「ごめん、なんでそんなに詳しいの?」

「実はさ、昨日の放課後、用があって音楽室に福崎先生を尋ねたのよ。で、用が終わって音楽室を出ようとしたら、若本さんが練習に来たんだけど、アタシの顔を見るなり、先輩、話を聞いて下さいって言われてね」

若本は俺と裕子が付き合い始めたのを、やっぱり知っていたんだろう。

「しばらく捕まって話を聞いたら、若本さんはミエハルのことが好きだったんだってね。でも自分でコンクールで金賞取れなきゃ告白はしないってルールを自分に課してたって。それで例年のごとくウチラは銀賞だったから告白は諦めたけど、まだ好きな気持ちは残ってるって。でもミエハルが若本さんの親友と付き合い始めたからどうにも気持ちの持って行き場がないと。どうしたらいいですか?って、アタシなんかに答えられないことを相談してきたのよ」

「そういうことかぁ…」

俺は会ってないからあまり気持ちを推測して上げられなかったが、若本は俺なんかに未練があるんだ…。公園でキスして、これで吹っ切りますって言ってたのに、吹っ切れてないんだな…。

「ミエハル、モテないとか言って、モテモテじゃん」

「い、いや…。偶然が重なっただけだよ」

「本当に?まあ、アタシなりにミエハルに未練があっても、もう部活に出て来る訳じゃないし、新しい男子を探したら?とは言ってみたんだけど、こんな答えじゃ納得しないよね、あの子も」

「いや、それでも多分若本は嬉しかったと思うけどね」

「あんまり長く話してもアレじゃけぇ、これで止めるけど、とりあえずせっかく出来た年下の彼女さんを大事にしんさいね。アタシも黙っとくけぇ。ほいじゃ、またね」

「うん、ありがとう」

俺は帰ろうとしていたが、末田さんより少し間を置いてから、教室を出た。

下駄箱に着くと、裕子が待っていて、安心した表情で小さく手を振ってくれた。

「良かった、ミエハル先輩が来てくれて」

「ん?どうして?」

「昨日は先輩を怒らせちゃったから、先輩は学校内にいるはずなのに、全然来てくれなかったでしょ?だから…」

「あ、昨日の事件か…」

「でも今日はお昼に会えたし、あの、あの…先輩がキスしてくれたし、ルンルンなんですよ」

「そう言われると照れるじゃん」

「ねえ先輩?今日も仲直り記念で、先輩の宮島口へ一緒に行ってもいい?」

「えっ、大丈夫?体育で疲れとるんじゃない?」

「先輩あのね、先輩を見送ったら、広電で田尻まで一駅乗って、田尻からバスに乗ればいいって方法を見つけたの」

「えー、お金が掛かっちゃうよ?大丈夫?」

「うん!流石に毎日とは言わないから…。時々でいいから。ミエハル先輩と少しでも長く一緒にいたいんだもん」

物凄い甘えモードの裕子がそう言うなら、断る理由はない。というか、既に俺達は宮島口駅へ向かうルートを歩いていた。

「先輩!」

「ん?今度はなに?」

「あのね、あのー、あのね、腕、組みたいな、なんて…ダメ?」

「腕?そうだね〜」

俺は周りを見回したが、今の所知り合いはいなさそうだ。

「組んでみようか」

「わっ、嬉しい!じゃ、アタシがこっち側で…はい、先輩」

裕子は俺の右側に並び、左腕を俺の右腕に絡めてきた。
俺もクールに装っているが、内心はドキドキしていた。

裕子の守ってあげたくなるような細目の左腕が、俺の右腕に絡みつく。

「やったー!先輩と付き合えたらやりたかった項目、また一つ達成したよ!」

「な、何それ?色んな項目があるの?」

「うん!まだ未達成の項目もあるけど、少しずつ、先輩にねだっていくんだ…アタシ」

完全に恋する乙女モードだ。
俺自身、こんなに女の子から好意を持たれた事がないから、照れるしか術がない。

「先輩、5時間目はアタシのブルマ姿は忘れて、ちゃんと授業受けました?」

「うっ、何を突然…」

「なんかね、先輩に5時間目の話をしたら、アタシのブルマ姿は忘れてとか言いながら、実際5時間目の体育の授業中、アタシの頭の中が先輩のことで一杯になっちゃって…」

俺は実際のところ、5時間目は化学だったので、裕子のことは一度だけ思い出していたが、後は睡魔と闘っていた。だが今のテンションだと、忘れずに思い出していたと答えた方が良さそうだ。

「直前にあんなこと言われたから、つい思い出してたよ」

「本当に?良かった〜。アタシのことを思い出してくれるだけで、嬉しいな」

「それがブルマ姿でも?」

「…うん…。ブルマでも水着でも制服でも、なんでもいいの。でも普段の体育は、あんまりしっかりブルマは穿いてないから、先輩と体育祭で一緒になる時は、ちゃんと穿くからね」

「あっ、ありがとう…って言っても良いのかな?」

「うん。いいの先輩、ありがとう」

そんな事を言いながら歩いていると、本当に宮島口までの30分が早い。

「先輩と、もうお別れ…。寂しいよ〜」

「まあ、また明日ね。明日は生徒会の会議があるから、長く一緒におれるよ」

「…うん。じゃあ、また明日ね、先輩」

俺は帰り際恒例の、頭ポンポンをしたが、裕子はそれだけじゃ嫌だと言った。

「頭だけじゃダメ?」

「…うん。先輩、今日のお昼に、初めてしたこと、覚えてる?」

「…キス?」

「…エヘッ。お別れの時にも、キスしてほしいの」

「えっ、こんな難しい場所で?」

「うん、だから一瞬でいいから」

「どうしようか…。いい場所、あるかな…。あ、地下通路はどう?あんまり人通りが多くないから」

「アタシはどこでもいいよ。先輩とキス出来るなら…」

「じゃあ地下通路に行ってみよう」

俺は裕子を地下通路に連れて行った。案の定、誰もいない。

「じゃ、いくよ」

「う、うん…」

俺は裕子の肩に手を置き、裕子の唇に自分の唇を重ねた。

誰も来ないのをいいことに、何度かキスを繰り返した。

「あぁっ…」

キスを繰り返す内に、裕子が官能的な声を少し洩らした。

(これ以上はご法度だ)

俺は何度目かのキスの後、そっと体を離した。

裕子が潤んだ瞳で、俺のことを見つめている。

「ミエハル先輩、大好き!」

そう言うと、俺に抱きついてきた。俺は裕子の頭を撫でながら、ありがとう、と囁くのが精一杯だった。

(誰にも今までの行動が見付かってませんように)

俺はそう願ったが…。

<次回へ続く>


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