葡萄ねずみ

葡萄鼠色はわたしの誕生日の色。モルモットと美味しいものすべてに人生を捧げている。

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最近の記事

安堂奈津子は今日もお腹が空いている #01.豚骨ラーメンと綾子の顔

1 何度目かの目覚ましの音で奈津子は渋々目を開けた。 遮光カーテンの隙間からはうっすらと朝日が差し込み、すぐ脇の道路を車が通るたび窓やミラーに反射した光が、放射状に白い天井を流れていく。 低いエンジン音が壁通して耳鳴りのような音で聞こえた。 奈津子は眠りから感覚が戻るにつれ、布団から出た手足が不快なほど冷たいことに気がついた。 残暑も通り過ぎ、本格的な秋になろうとしているのだろう。 一度布団を被りなおし、全身を温めながら手探りでカーテンを開く。 1Kの部屋いっぱいに日が差し

    • 味覚がなくなったときのためのチャーハン

      わたしはごはんを食べるのが大好きだ。 とにかく食欲がなくなることがほとんどない。 大好きなペットが亡くなったその日も、身体中の水分がなくなるほど泣きながら、心の底から美味しいものが食べたいと思っていた。 高熱を出しても、酒を飲んでも、腹を下しても、吐き気がしてても、「調子悪いからとりあえずなんか食べよう」と思ってしまう。 身体だけでなく心の不調も、全ての悪いことは美味しいものを食べる幸せの前に吹き飛んでしまうと思い込んでいる。 こんなわたしにも「食欲のない日」というものが人

      • モルモットの介護レポートその①『3匹とも病気になりました』

        突然だが、うちには現在3匹のモルモットがいる。 7歳のしょうゆちゃん♀と7歳のみりんちゃん♂。 そして、このふたりの子、6歳半のしょうがちゃん♂。 モルモットの寿命は6〜8歳と言われており、皆それなりの老モルモットである。 晩年は確実に介護三昧になるであろうことは覚悟していたが、現実はなかなかにハードだった。 去年2022年の9月末にしょうゆちゃんの子宮癌が発覚。その後、11月中頃に癌が原因でソアホックという足の裏が腫れて膿ができてしまう病気になり、毎日最低2回ほど足を綺麗に

        • 青い魔女と鏡の向こうのあの子と砂糖が食べたいわたし

          上記は、わたしが上京したての頃、お金の使い方が分からずブライスというお人形(目が大きくて一見不気味にも見えるが、ハマるととんでもない大きな沼が広がっており、愛おしくてたまらなくなるし、数量限定の10万のものを買ってしまう恐ろしい魅力がある)にハマってしまい、食費を削ったら死にそうになり幻覚が見えるところまで行った、という話をなんかいい感じに書いてみた。 前回の記事で書いたように、今年のわたしは魔法が解ける年である。 バンドを辞めてから、それを少しずつ実感しているところだ。

        安堂奈津子は今日もお腹が空いている #01.豚骨ラーメンと綾子の顔

          少しも完璧ではない"魔法が解ける夜"

          去年末のバンド活動休止ライブの少し前に書いた文章が日記から発掘された。 ライブ当日に売っていたzine用の文にするか悩んで、実際使ったのはバンド年表だった。 一応人に見られることを意識して書いたため、ちょっと勿体無いのでここに全文載せようと思う。 2022年11月14日に書いた文なので、今年のことを来年と言っていたりするので混乱しないように…。 うう、なんて希望に満ちた文章なんだろうか。 実際当日は「とんでもなく素敵な夢」なんて言葉少しも出てこないようなボロボロの状態で帰宅

          少しも完璧ではない"魔法が解ける夜"

          お笑いとは…ギャグのセンスがなくて困っている

          前前回の文章はちょっと真面目になってしまった気がして反省している。 なぜなら、わたしは今とてもギャグのセンスを磨きたい…! 創作をしようと考えてからあれこれ方法を模索し、どんな内容にするか考えたのだが、わたしは文章を書くとき人にウケようとするとどうしても、「なんかちょっと良い話」に逃げてしまう。 ちょっとハッとする場面書いとこうとか、ちょっと感動しちゃうようなこと書いとこうみたいな、ライトなノリで良い話ぽいのを書いている気がする。 そして後で読み返して、うわああああなんだこの

          お笑いとは…ギャグのセンスがなくて困っている

          1月6日我輩の誕生日

          1月6日、正月疲れをした街が静まり返っている。 金曜だというのに店もガラガラ。 この時期は旅行に行ってもどこも閑古鳥が鳴いていて、のびのびできる穴場である。 わたしの誕生日は毎年こうだ。 幼少期からクリスマス、お年玉で財布がすっからかんの大人たち、学校が始まる前日で憂鬱な友人達、祝う人がこれなのだから、わたしの誕生日はおざなりになる。 だからだろうか、毎年でかい声で今日誕生日ですよーーーー!!!とsnsで宣伝してしまう。 そうしないと誰1人祝ってくれないからだ。 どう考えたっ

          1月6日我輩の誕生日

          ヴィヴィアンの訃報、バンドさよなら、お正月

          2022年12月年の瀬、ヴィヴィアンウエストウッドが亡くなった。 それはわたしには衝撃的なことで、どこか彼女はわたしの中では人間というか、生命を超えた存在だったので、亡くなったという事実に驚いてしまった。彼女も人間だったのだ。 真っ白な戦車に乗るヴィヴィアンの写真が好きだ。 彼女の作るファッションやニュースがパンクそのもので、ヴィヴィアンウエストウッドという名前に刻まれていた。 パンクは決して音楽に限られたものじゃないのだ。 それは生き方であり、表現である。 そしてもう一つ

          ヴィヴィアンの訃報、バンドさよなら、お正月

          see you tonight

          つい先日、April girlのすずこちゃん、あこたすと12月の共同イベントについて3人でリモート会議をした。 すずこちゃんにわたしたちTHE PATS PATSの活動休止をここで初めて報告し、イベント名どうしようか…って相談をしたら、すずこちゃんがずっと心の中であたためていたという「see you tonight」という素敵な企画名をいただけた。 イベントがお昼開催なので語感でうっかり夜と誤解されないかだけ少し心配だけど、今夜会いましょうならお昼で逆に間違いはないのでは?と

          see you tonight

          ※夢日記「眠れないときのラジオ」

          とある夜、午前四時。 何度目かの寝返りをうち、諦め顔で時計を見た。 特に予定があるわけでもないけど、できれば変な時間には寝たくない。 明日を台無しにしないために早く眠りたい。 電気を消し、もうほとんどだれも書き込まなくなったSNSを閉じて、やさしい布団の温もりに身をゆだねても頭が冴えて仕方がない。 おかしい、眠るってどうするんだっけ? 瞼を閉じていても、目の前の暗闇の向こうに何かが見える気がしてしまって余計に頭が冴える。 脳みそに考えたくもない言葉が次々に浮かび、それを止めよ

          ※夢日記「眠れないときのラジオ」

          それはまた別のお話。

          それはまた別のお話。 この一文で締めくくられる物語が私は好きだ。 子供の頃、本が好きだったわたしは永遠に終わらないお話があったらいいのにって思っていた。 できるだけ長く続くシリーズを選んでも、結局最後のページを読む日がやってくる。 それはお話が長ければ長いほど、大切な友達とお別れするように胸がギュッと苦しくなるので、残りのページが少なくなると読むスピードを落として、同じセリフをわざと読み返したりした。 そんなときに出会ったミヒャエル・エンデの「はてしない物語」。 この物語は

          それはまた別のお話。

          ルイヴィトンとギャルと自由について

          母からルイヴィトンの財布をもらった。 直前までマジックテープのついたキティちゃんの財布を使っていたから、ギャップが凄い。 カバンから取り出す度に少しギョッとしてしまう。 たけど不思議なことに、この財布は手に持ったときの感触が肌にぴったり馴染むし、整頓されてないカバンの中で「ここにいるよー!」って言ってくれてるみたいにすぐに見つかる。 使いはじめたばかりの財布とは思えないくらい、いきなりわたしの相棒になった。 この財布、実は新品じゃない。 はじめてこれをあげるって言われたのは

          ルイヴィトンとギャルと自由について

          東京パンクガール、失踪する

          星の見える春の夜道は、『普通』の人にとってはとても過ごしやすいはずだった。 駅から少しだけ離れた街は静かで、住宅街には街灯の明かりだけが輝いている。 その僅かな明るさからも身を隠しながら、わたしは小さな台車に大量のダンボールを積み、500mほどの距離を何往復もした。 バイト先の台車を借りたときは最高のアイデアだと思っていた。 必要な荷物をあきこの家に一時的に置かせてもらうことも。 実際に運んでみると台車は不安定だし、荷物はどれだけ選別しても意外と量がある。 『普通じゃない』若

          東京パンクガール、失踪する