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それはまた別のお話。

それはまた別のお話。
この一文で締めくくられる物語が私は好きだ。
子供の頃、本が好きだったわたしは永遠に終わらないお話があったらいいのにって思っていた。
できるだけ長く続くシリーズを選んでも、結局最後のページを読む日がやってくる。
それはお話が長ければ長いほど、大切な友達とお別れするように胸がギュッと苦しくなるので、残りのページが少なくなると読むスピードを落として、同じセリフをわざと読み返したりした。

そんなときに出会ったミヒャエル・エンデの「はてしない物語」。
この物語は話が脱線するたび「けれどもこれは 別のおはなし、別の時に話すことにしよう」と締めくくり、本筋に戻るのが特徴なのだ。
最後には終わらないままのたくさんの物語が残される。
だからはてしない物語なんだ!と分かった時のワクワクした気持ちを今でも思い出せる(少なくともわたしはそう解釈した)。
終わらない物語はページの数じゃない、自分自身の想像力の可能性なのだ。

今思えばわたしはこの「はてしない物語」を人生に求めて生きていた。 
東京に来たのも、大学を辞めたのも、バンドを始めたのも、やたら引越ししてるのも。
分かりやすいのは恋愛対象の男性。
そこそこ素敵でいい人でちゃんと仕事しててデートには車で迎えに来てくれるような人だと、すっと冷めてしまう。
大学出て就職して結婚して子供を作る、くらい未来が見通せちゃうような人に恋ができなくて、何考えてるのか良く分からない人とばかり付き合ってきた。
ただそんな風に選んだ人なのに毎回「世界の果て」が見えてしまって別れるのだけど。

「世界の果て」。
それはわたしの中で「はてしない物語」と逆の概念だ。
この言葉はこれまた大好きなアニメ、少女革命ウテナに出てくる。
ウテナの憧れだった男性がまさにこの「世界の果て」という存在で登場する。
言い換えれば世界のどん詰まり、絶望だ。
本当の絶望は悲しいとか苦しいとかよりも、虚無に近い。
今以上の未来が見通せない、決まり切ったレールに乗るだけ、その小さな価値観の世界で安全に生きる。
可能性や想像力のない世界の終わり。
ウテナはこの世界の果てと戦って、世界の殻を破るのだ。
憧れの王子様を追うだけの女の子じゃなく、憧れの王子様みたいに自分がなることを選んだ彼女みたいに、わたしも終わらない物語を生きていたい。

世界って厳密に言えばひとつじゃないと思っている。
「それはまた別のお話」って語るように、小さな世界がたくさんあって、波紋のようにお互い影響を与えたり、分裂したり、合体したりしながら存在してる。
わたしは安全に生きるより、このたくさんの世界の1部しか知らないで生きる方が怖いのだ。

「はてしない物語」と「世界の果て」の区別は実は少し難しいのではないかと、最近は思う。
いくらめちゃくちゃ引越ししたり、仕事変えたり、学校辞めたりして過去を切り捨て変化を求めても、そこに人生の可能性の広がりがあるとは限らないのだ。
本当に必要なのは、ずっと一緒に居ても新しい世界を見せてくれる人や、ずっと続けてても次々面白い世界が広がっていく何かだ。
このままこの人とずっと一緒に居るんだろうなって思う時は「世界の果て」の場合があるけど、このままこの人とずっと一緒に居たいなって思う時は「はてしない物語」かもしれない。
どっちも終着地点みたいだけど、全然意味が違ってくる。
そういうものに出会ってはじめてその微妙な違いに気がつくのだ。

最近は後者のように感じる人やものにやっと出会えてる感じがする。
流れに乗るんじゃなくて、一緒に居たい、ずっと続けたいと自分の心で思える人やものに出会えるって本当に素敵だ。
大人になるごとに「多分このままこうなるんだろうなぁ〜」みたいな諦めのような、それでいて生ぬるい安心感から生まれる選択を自分で上手に切り捨てることができてきてる。

「それはまた別のお話」この決まり文句で締めくくる物語を苦手だと感じる人もいるだろう。
だけどわたしは誰かに与えられるだけの物語じゃなくて、この言葉の先の物語を自分で想像してわくわくするほうが好きなのだ。
また別のお話になってしまうくらい、簡単には書ききれない物語が待っているって本当に素敵なことではないだろうか。

本のページに必ず終わりがくるように、どんなことにもジ・エンドがある。
だけど読み終わった本を閉じたあと、今度は心の中でお話のつづきを想像することはできる。
わたしの人生はそうであって欲しい。
本当に欲しいものや必要なものの答えはいつだってわたしの心が答えを知ってるのだ。
誰かに与えられた世界の殻を破って、はてしない物語を自分で作る。
そうやっていつまでも「また別のお話」のその先にわくわくしていたい。
三十路を超えたわたしは今そんな風に生きてる。
そんなわたしでずーっといられますように!



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