ChatGPT、創発、エントロピー、ゆらぎと非平衡、そして脳の自由エネルギー原理
この関連がなさそうで、ありそうな、ワードですが、丸山不二夫先生の今月テーマで取り上げられています。
今後、数回にわたって、
Part 1:「非平衡熱力学と散逸構造」-- Prigogine(プリゴジン)
Part 2:「最大エントロピー原理とベイズ推論」--Jaynes
Part 3:「最小自由エネルギー原理と脳のモデル」-- Friston(フリストン)
で進められるようです。
先生は論文で調べられる方なので、関連する書籍(和書)をご存知ないらしいです。ピックアップしてみました。
Part 1:「非平衡熱力学と散逸構造」-- Prigogine(プリゴジン)
イリア・プリゴジン(男性です)は非平衡熱力学研究で知られる化学者・物理学者です。プリゴジンは、対象に化学平衡を扱うことが多く、どちらかというと化学熱力学に相当するため、物理の方には馴染みがないかもしれません。1977年にノーベル化学賞(散逸構造の理論)を受賞されています。プリゴジンの物理学的業績では、物理学上の未解決問題である「時間の矢」についての考察の方が、物理の人には知られているかもしれません。
プリゴジン、その人と思想・理論について
著者である北原和夫先生はプリゴジン(ベルギー・ブリュッセル自由大学)に師事しました(1971-1974年)。北原和夫先生は非平衡物理を専門とされており、単著で『非平衡系の統計力学』を書かれています。
散逸構造、複雑系について
大学で専門的に熱力学・統計力学を学ばれた方には、
また、
が、アドバンスドな熱力学、量子統計力学、非平衡物理の本として参考になります。ただし、これらの書籍で述べられる非平衡系の研究は、プリゴジン以降、近年まで進展が芳しくありませんでした。
しかしながら、ここ数年、精力的な研究が進められて、成果が出つつあるようです。この分野(量子熱力学、情報熱力学)での現代的な教科書として、
があります。この2冊は、2022年時点での最新の研究が含まれています。ただし、そこで使われる数学(確率過程・確率微分方程式)は非常に高度です。問題提起を把握するには、
が教科書としては使いやすいかもしれません。
統計物理学ハンドブック―熱平衡から非平衡まで,翻訳:鈴木増雄ほか,朝倉書店,2007
原著はMichel Le Bellac"Equilibrium and Non-Equilibrium Statistical Thermodynamics 1e",Cambridge University Press,2010とあって、熱力学から統計力学の基礎に加えて、アドバンスな不可逆過程や非平衡系が取り扱われています。「岩波書店 現代物理学の基礎 5 統計物理学」の現代版と捉えていいです。
「最大エントロピー原理とベイズ推論」--Jaynes
この分野を詳しくなく、もしかして、
に関連しているのかな、と予想しています。
Part 3:「最小自由エネルギー原理と脳のモデル」-- Friston(フリストン)
自由エネルギー(ヘルムホルツとギブス)とは怪しい「フリーエネルギー」とは違って、れっきとした物理学での重要概念です。熱力学的に制限された環境下で「自由に」取り出せるエネルギーとして導入されます。なんでも・どれだけもエネルギーを取り出せるわけではなく、エネルギー保存則(熱力学第一法則)とエントロピー最大則(熱力学第二法則)によってしっかり制限されています。
このことは、ヨビノリさんの動画で紹介もされています。
数理的には自由エネルギーはエントロピーと対をなす概念(ルジャンドル変換)です。フリストン氏は、脳は推論システムであるという仮定のもとで、脳は自由エネルギーを計算しているというモデル「最小自由エネルギー原理」を提唱しました。
この「最小自由エネルギー原理」を紹介している書籍は、いま現在では少なく、日本では乾敏郎先生と阪口豊先生が精力的に出版しています。勉強会で乾敏郎先生が「心理学や脳科学の世界ではエントロピーやヘルムホルツの自由エネルギーを知らない人が多く、肩身が狭い」と仰っていたのを覚えています。
非平衡と脳科学
ChatGPTにより、部分の作用が単純な総和を越えて新たな性質を生み出す、創発現象が起こってしまった現代に、これら2語は改めて考証される時期に入ったのかもしれません。
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