ずっと心に残っている短編たち 〜第三弾〜
私の心の中に、ずっと残っている短編がある。
読んだときの感動や衝撃が忘れられなくて、今でも鮮やかに思い出すことのできる短編たち。
以前、前後編に分けてお届けした、「ずっと心に残っている短編たち」のnote。
全部で6つの短編を取り上げ、完結したかに思えた本シリーズだったが、その後も素晴らしい短編に出会ったり、思い出したりした。
そこで今回は”第三弾”として、珠玉の短編をさらに3編ご紹介する。多分このシリーズは、これからも続いていくことになるだろう。
それぞれどんな短編なのかわかりやすいように、「◯◯を読みたい人へ」というキャッチコピーをつけてみた。気になる短編があった方は、ぜひ収録されている短編集を手に取ってみていただきたい。
伊坂幸太郎|月曜日から逃げろ
〜「すっきり爽快に騙される作品」を読みたい人へ〜
まずは、伊坂幸太郎さんの『首折り男のための協奏曲』から、「月曜日から逃げろ」という短編。
独自の技巧で読者を楽しませてくれる伊坂幸太郎さんの短編集から、中でも「これはやられた!」と思わず天を仰ぐような、驚きに満ちた一編。
伊坂作品ではお馴染みの、スマートな泥棒・黒澤が登場する。彼が一風変わった盗みの依頼を受け、任務を遂行する中で、「ん??」という違和感が徐々に募っていって——という小説。
50ページほどの短編だが、まるで長編を読んだかのような満足感。そんな贅沢な驚きを味わいたい方におすすめだ。これぞ、小説の醍醐味。
ラッタウット・ラープチャルーンサップ|ガイジン
〜「異国の熱気を感じる恋愛作品」を読みたい人へ〜
続いて、ラッタウット・ラープチャルーンサップさんの『観光』から、「ガイジン」という短編。
短編集『観光』は、異国タイの熱気や息遣いが、色濃く感じられる作品。中でも「ガイジン」は、観光業を生業にする少年の、複雑な恋愛感情が描かれており印象的だ。
先進国からやって来る観光客に対して、苦々しい感情を抱きつつ、どこか憧れにも似た複雑な思いを抱えるタイの人々。やがて本国に帰る外国人に恋してしまう少年の、切なくて美しい、刹那的な恋愛。
本作の魅力は、なんと言ってもラストシーンの美しさである。文章も良いし、文章を通じて目の前に広がる情景も本当に美しくて、そして同時に本当に悲しい。いつまでも残る余韻に浸る。
一穂ミチ|花うた
〜「心温まる再生の物語」を読みたい人へ〜
最後に、一穂ミチさんの『スモールワールズ』より、「花うた」という短編。
直木賞の候補作になったことでも話題になった『スモールワールズ』は、収録されている短編全て、本当に素晴らしい。中でも私は、「花うた」という作品が強く印象に残っている。
「殺人犯の男と、その被害者の妹との間で交わされる手紙」という体裁を取った、文通形式の書簡体小説。水と油の両者の文通は、互いの生活に大きな影響をもたらしていく。
加害者・被害者という立場を超えた、ひとりの人間同士の、心と心の深い交流が描かれている。犯罪者の”再生”の物語はこれまでもいくつか読んだことがあったが、これほど揺さぶられた作品は初めてだった。
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