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あの感動を、もう一度。【異国が舞台の長編小説】

読書をしていると、「全く同じとは言わないまでも、この小説と似た作品が読みたい……!」と思うことがよくある。

自分好みの良作を読み終えた時、感動や満足感に浸るのと同時に、初読時の新鮮な感動はもう二度と味わえないのだという、一抹の寂しさを感じるのは、私だけだろうか。


記憶を消して、もう一度読みたい。

読書をしていて、何度そう願ったことだろう。しかし残念ながら、その願いは叶わない。記憶を消すことは、今の科学技術では実現できない。

それならせめて、「似ている作品」が読みたい。そう願ってしまうのが読書家の心理だ。


「全く同じ」などという贅沢は言わない。少しでも似た作品を読んで、あの感動をもう一度味わいたい。

こうして本好きは、深い読書の沼にハマっていく。あれでもないこれでもないと、広大な本の海を泳いでいく。すべては、あの時の感動と再会するために——。


やってみると分かるのだが、似たような作品を探し出すのは、至難の業である。なかなかピタッと来るような作品には出会えない。

「作品名 似ている」「作品名 類似」などのワードで検索をかけ、ヒットした作品を読んでみるも、残念ながらハズレ。大抵は、この繰り返しである。

むしろ、検索がヒットするだけでもありがたい。マイナなジャンルや作品だと、類似作品の"あたり"をつけるところで躓いてしまうこともある。


この記事は、佐藤究さん『テスカトリポカ』を読み、同じような感動をもう一度味わいたいと願ってやまない人たちへ、私なりに選書をさせていただくものだ。

めちゃくちゃ範囲が狭くて申し訳ないが、一個人でこの選書をするには、どうしても限界がある。今回は、少し前に読書界隈を賑わせた『テスカトリポカ』を軸に、話をさせていただく。

あくまで個人の感覚による選書のため、ピタッと来ない方もいらっしゃるかもしれない。

それでも本記事が、皆さんの本選びの細やかな一助となることができれば、幸いである。



佐藤究『テスカトリポカ』が好きな人へ


佐藤究さんの『テスカトリポカ』は、第165回直木賞受賞作。2021年に大きな話題をさらった小説だ。

メキシコで麻薬密売組織の抗争があり、組織を牛耳るカサソラ四兄弟のうち三人は殺された。生き残った三男のバルミロは、追手から逃れて海を渡りインドネシアのジャカルタに潜伏、その地の裏社会で麻薬により身を持ち崩した日本人医師・末永と出会う。バルミロと末永は日本に渡り、川崎でならず者たちを集めて「心臓密売」ビジネスを立ち上げる。一方、麻薬組織から逃れて日本にやってきたメキシコ人の母と日本人の父の間に生まれた少年コシモは公的な教育をほとんど受けないまま育ち、重大事件を起こして少年院へと送られる。やがて、アステカの神々に導かれるように、バルミロとコシモは邂逅する。

あらすじ


『テスカトリポカ』の感想は、過去の記事で書いるので、ここでは割愛させていただく。

『テスカトリポカ』は、メキシコやインドネシアといった海外が舞台になっており、麻薬ビジネスやアステカ神話が複雑に絡み合う、非常に読み応えのある小説である。

読書初心者の方には少し重過ぎるかもしれないが、重厚感のある小説が好きな方にはどハマりする作品だろう。


私が思う『テスカトリポカ』の特徴3要素は、以下のとおりだ。

  1. 重厚感のある読み応え

  2. 舞台が世界規模

  3. リアリティの追究

これらの要素を満たし、かつ『テスカトリポカ』を読み終えた時の感動と似たものを味わえる作品を、3つ選んだ。ぜひチェックしてみていただきたい。



小川哲|ゲームの王国

サロト・サル――後にポル・ポトと呼ばれたクメール・ルージュ首魁の隠し子とされるソリヤ。貧村ロベーブレソンに生を享けた、天賦の智性を持つ神童のムイタック。皮肉な運命と偶然に導かれたふたりは、軍靴と砲声に震える1974年のカンボジア、バタンバンで出会った。秘密警察、恐怖政治、テロ、強制労働、虐殺――百万人以上の生命を奪ったすべての不条理は、少女と少年を見つめながら進行する……あたかもゲームのように。

あらすじ

小川哲さんの『ゲームの王国』は、ポル=ポト政権時代のカンボジアが舞台。

専制政治、秘密警察、革命、脳科学、ゲーム、超能力……信じられないほど多様な要素が美しく調和し、完璧な愛の物語となっている。

読み終えた時、「とんでもない小説を読んでしまった……」と暫し放心した。まさに『テスカトリポカ』を読んだ時と同じ感覚だった。


高野和明|ジェノサイド

急死したはずの父親から送られてきた一通のメール。それがすべての発端だった。創薬化学を専攻する大学院生・古賀研人は、その不可解な遺書を手掛かりに、隠されていた私設実験室に辿り着く。ウイルス学者だった父は、そこで何を研究しようとしていたのか。同じ頃、特殊部隊出身の傭兵、ジョナサン・イエーガーは、難病に冒された息子の治療費を稼ぐため、ある極秘の依頼を引き受けた。暗殺任務と思しき詳細不明の作戦。事前に明かされたのは、「人類全体に奉仕する仕事」ということだけだった。イエーガーは暗殺チームの一員となり、戦争状態にあるコンゴのジャングル地帯に潜入するが…。

あらすじ

高野和明さんの『ジェノサイド』は、コンゴ民主共和国をはじめとするアフリカが主な舞台となる。

政治戦略、軍事作戦、科学技術、文化人類学など、これまた多くの分野にまたがる小説で、全人類の存亡をかけた大規模なミッションが描かれる。

これだけ現実離れした小説なのに、ごく普通の大学院生が任務に巻き込まれていくという設定のおかげか、どんどん作品世界に入り込んでいける。言うまでもなく読み応え抜群。


船戸与一|砂のクロニクル

日本文学史上類を見ない壮大なスケールで民族問題の裏側を描く。船戸与一最高傑作。舞台は、イラン。二人の日本人が激動のペルシアの地で民族紛争の渦に飲まれていく。イスラム革命が成功したイラン。革命防衛隊は権力を手にしたものの内部から腐敗が進み始める。対してイランの片隅で生きるクルド人が、独立国家樹立を目指し、武装蜂起を目論む。武器の調達を依頼された日本人武器密輸商人・ハジ。なぜ日本人である彼が、国際社会の裏舞台で暗躍することになったのか。クルド人のために、無事、武器を供給できるのか…。息もつかせぬ怒涛の物語。

あらすじ

船戸与一さんの『砂のクロニクル』は、民族紛争の絶えない中東・イランが舞台。

革命隊、クルド人部隊、そして武器商人。それぞれの思惑が交錯し、激しい武力衝突の最中で、手に汗握る駆け引きが描かれる。

とにかくスケールが壮大で、読み終えた時にはすっかり腑抜け状態になってしまった。今回の3作の中では、一番のおすすめだ。



こういう「似ている作品を選書する」文化が、もっともっと広まっていってくれると嬉しい。そうすれば、良い作品に出会える機会が、今よりも多くなるだろう。

私も草の根的に、自分のできる範囲で、好きな作品の選書を続けていきたい。



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