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ずっと心に残っている短編たち 〜前編〜

私の心の中に、ずっと残っている短編がある。

読んだときの感動や衝撃が忘れられなくて、今でも鮮やかに思い出すことのできる短編たち。


短編集の中から、ひとつの短編だけをピックアップして紹介する記事はあまり見かけないが、今回から前後編に分けて、私がこれまで読んできて、特に心に残っている短編を6つ取り上げたい。

それぞれどんな短編なのかわかりやすいように、「◯◯を読みたい人へ」というキャッチコピーをつけてみた。気になる短編があった方は、ぜひ収録されている短編集を手に取ってみていただきたい。



北山猛邦|妖精の学校

〜「世界が180度変わる作品」を読みたい人へ〜


まずは、ミステリ作家・北山猛邦さん『私たちが星座を盗んだ理由』から、「妖精の学校」という短編。

優しく、美しく、甘やかな世界が、ラストの数行で、残酷に崩壊する快感。景色が反転し、足元が揺らぎ、別な宇宙に放り出されたかのような、痛みを伴う衝撃。かつて、まだ私たちが世界に馴染んでいなかった頃の、無垢な感情を立ち上がらせてくれる、ファンタジックな短編集。ミステリの醍醐味、ここにあり!難病の女の子を喜ばせるため、星座を一つ消して見せる男の子を描く表題作ほか、5つの物語のすべてに驚愕のどんでん返しが待つ傑作短編集!

あらすじ

「妖精の学校」は、とある孤島の学校で暮らす子供たちの物語。記憶を無くした主人公が、島の秘密を探ろうとする。

本作はリドル・ストーリーと呼ばれる、作中では謎の真相が明らかにされない作品だ。読み終えたとき「どういうこと……?」となるが、最後に示されたとあるヒントをネットで検索すると、世界が180度変わる衝撃を受ける。

ぜひ事前情報なしで読んでいただきたい。

似たような感覚を味わえる短編として、同じく北山さんの『さかさま少女のためのピアノソナタ』から「千年図書館」という短編もおすすめだ。



サリンジャー|バナナフィッシュにうってつけの日

〜「鮮烈なラストが待つ作品」を読みたい人へ〜


続いて、サリンジャー『ナイン・ストーリーズ』から、「バナナフィッシュにうってつけの日」という短編。

はかない理想と暴虐な現実との間にはさまれて、抜き差しならなくなった人々の姿を描き、鋭い感覚と豊かなイメージで造る九つの物語。言いにくいことだけどね、彼らは死んじまうんだ――。新妻ミュリエルと海辺の町に来たグラース家の長兄シーモア。浜辺で謎の魚の話を少女に聞かせた後、彼がとった行動は……。代表的短編の「バナナフィッシュにうってつけの日」など九編を収録。若者が内包する苦悩を、胸に突き刺さるような繊細な物語に託して、世界中で熱狂的な読者を有するアメリカ現代文学の巨匠が、自ら編んだ作品集。

あらすじ

ビーチサイドのホテルに宿泊し、軽薄な暮らしを送る青年シーモア・グラースが、婚約者の前で拳銃自殺を遂げるまでの物語。

シビル・カーペンターという幼女と海に入って「バナナフィッシュ」について話した後に、唐突な拳銃自殺で幕を閉じるあの衝撃。私はあらすじを全く知らずに読んだため、「えっ……」と放心してしまった。

銃声ののちに訪れる静寂が、そのまま読後の余韻となる感覚が鮮烈だった。「バナナフィッシュにうってつけの日」という、洒落たタイトルも良い。



ケン・リュウ|良い狩りを

〜「幻想的な映像が浮かんでくる作品」を読みたい人へ〜


最後に、中国のSF作家ケン・リュウさん『もののあはれ』から、「良い狩りを」という短編。

巨大小惑星の地球への衝突が迫るなか、人類は世代宇宙船に選抜された人々を乗せてはるか宇宙へ送り出した。宇宙船が危機的状況に陥ったとき、日本人乗組員の清水大翔は「万物は流転する」という父の教えを回想し、ある決断をする。ヒューゴー賞受賞作「もののあはれ」、少年妖怪退治師と妖狐の少女の交流を描くスチームパンク妖怪譚「良い狩りを」など、第一短篇集である単行本版『紙の動物園』から8篇を収録した傑作集。

あらすじ

人間に化けることのできる狐「妖狐」が存在する世界で、妖狐退治を生業とする青年と妖狐の少女の、立場を超えた交流を描く物語。

「鬼滅の刃」のような妖ファンタジーの世界観から一転、近未来SFの世界観に切り替わる終盤で、美しい映像が頭に浮かんでくる、幻想的なラストシーンが印象的だ。

短編集『もののあはれ』は、この「良い狩りを」で幕を閉じる。美しい余韻がいつまでも残る、幸せな時間を体感してほしい。


後編に続きます!



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