見出し画像

ずっと心に残っている短編たち 〜第三弾〜

私の心の中に、ずっと残っている短編がある。

読んだときの感動や衝撃が忘れられなくて、今でも鮮やかに思い出すことのできる短編たち。


以前、前後編に分けてお届けした、「ずっと心に残っている短編たち」のnote。

全部で6つの短編を取り上げ、完結したかに思えた本シリーズだったが、その後も素晴らしい短編に出会ったり、思い出したりした。

そこで今回は”第三弾”として、珠玉の短編をさらに3編ご紹介する。多分このシリーズは、これからも続いていくことになるだろう。

それぞれどんな短編なのかわかりやすいように、「◯◯を読みたい人へ」というキャッチコピーをつけてみた。気になる短編があった方は、ぜひ収録されている短編集を手に取ってみていただきたい。



伊坂幸太郎|月曜日から逃げろ

〜「すっきり爽快に騙される作品」を読みたい人へ〜


まずは、伊坂幸太郎さん『首折り男のための協奏曲』から、「月曜日から逃げろ」という短編。

被害者は一瞬で首を捻られ、殺された。殺し屋の名は、首折り男。テレビ番組の報道を見て、隣人の”彼”が犯人なのではないか、と疑う老夫婦。いじめに遭う中学生は”彼”に助けられ、幹事が欠席した合コンの席では首折り殺人が話題に上る。一方で、泥棒・黒澤は恋路の調査に盗みの依頼と大忙し。二人の男を軸に物語は絡み、繋がり、やがて驚きへと至る!伊坂幸太郎の真髄、ここにあり。

あらすじ

独自の技巧で読者を楽しませてくれる伊坂幸太郎さんの短編集から、中でも「これはやられた!」と思わず天を仰ぐような、驚きに満ちた一編。

伊坂作品ではお馴染みの、スマートな泥棒・黒澤が登場する。彼が一風変わった盗みの依頼を受け、任務を遂行する中で、「ん??」という違和感が徐々に募っていって——という小説。

50ページほどの短編だが、まるで長編を読んだかのような満足感。そんな贅沢な驚きを味わいたい方におすすめだ。これぞ、小説の醍醐味。



ラッタウット・ラープチャルーンサップ|ガイジン

〜「異国の熱気を感じる恋愛作品」を読みたい人へ〜


続いて、ラッタウット・ラープチャルーンサップさん『観光』から、「ガイジン」という短編。

美しい海辺のリゾートへ旅行に出かけた失明間近の母とその息子。遠方の大学への入学を控えた息子の心には、さまざまな思いが去来する——なにげない心の交流が胸を打つ表題作をはじめ、11歳の少年がいかがわしい酒場で大人の酒場で大人の世界を垣間見る「カフェ・ラブリーで」、闘鶏に負けつづける父を見つめる娘を描く「闘鶏師」など全7編を収録。人生の切ない断片を温かいまなざしでつづる、タイ系アメリカ人作家による傑作短編集。

あらすじ

短編集『観光』は、異国タイの熱気や息遣いが、色濃く感じられる作品。中でも「ガイジン」は、観光業を生業にする少年の、複雑な恋愛感情が描かれており印象的だ。

先進国からやって来る観光客に対して、苦々しい感情を抱きつつ、どこか憧れにも似た複雑な思いを抱えるタイの人々。やがて本国に帰る外国人に恋してしまう少年の、切なくて美しい、刹那的な恋愛。

本作の魅力は、なんと言ってもラストシーンの美しさである。文章も良いし、文章を通じて目の前に広がる情景も本当に美しくて、そして同時に本当に悲しい。いつまでも残る余韻に浸る。



一穂ミチ|花うた

〜「心温まる再生の物語」を読みたい人へ〜


最後に、一穂ミチさん『スモールワールズ』より、「花うた」という短編。

夫婦円満を装う主婦と、家庭に恵まれない少年。「秘密」を抱えて出戻ってきた姉とふたたび暮らす高校生の弟。初孫の誕生に喜ぶ祖母と娘家族。人知れず手紙を交わしつづける男と女。向き合うことができなかった父と子。大切なことを言えないまま別れてしまった先輩と後輩。誰かの悲しみに寄り添いながら、愛おしい喜怒哀楽を描き尽くす連作集。

あらすじ

直木賞の候補作になったことでも話題になった『スモールワールズ』は、収録されている短編全て、本当に素晴らしい。中でも私は、「花うた」という作品が強く印象に残っている。

「殺人犯の男と、その被害者の妹との間で交わされる手紙」という体裁を取った、文通形式の書簡体小説。水と油の両者の文通は、互いの生活に大きな影響をもたらしていく。

加害者・被害者という立場を超えた、ひとりの人間同士の、心と心の深い交流が描かれている。犯罪者の”再生”の物語はこれまでもいくつか読んだことがあったが、これほど揺さぶられた作品は初めてだった。



↓読んで良かった本をご紹介しています。ぜひこちらもご覧ください!

↓本に関するおすすめ記事をまとめています。

↓読書会のPodcast「本の海を泳ぐ」を配信しています。

↓マシュマロでご意見、ご質問を募集しています。

この記事が参加している募集

読書感想文

わたしの本棚

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?