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短編小説28「無法少女」

この短編は、僕の11月企画の参加作品です。
皆さんも参加してみてくださいね!

《そりゃパニくるよ》

僕は朝、歯磨きをしていると足元に5センチ程度の小さい生物がいることに気が付いた。
それは、虫にしては大きくて気持ちが悪いが、どうやら二頭身くらいの人間のように見える。

果たして人間と言ってもいいのか疑問だが、それは『コキコキ』と音を鳴らして僕を見上げてきた。

「きちゃま、魔法ちょうじょになりぇ」

かちゅぜちゅが悪いでございますね。
活舌が悪いなこいつ。と後で思うことになるのだが、僕はそんなことより話しかけられたことに唖然としていた。
口から歯磨き粉はボトボトと零れ落ち、それが二頭身の顔面にバシャアと被る。

「ぷぎぇえ!」
「喋った!!」

僕は歯ブラシも落とした。それも二頭身の顔に向かって、しかも『ぷぎぇえ』と叫んで開いた口の中にシュートされた。

「ぷごぉぉ」

僕は動揺して、何故か歯ブラシごと二頭身を引き上げ、蛇口で洗っている。歯ブラシを抜き取り、ゴシゴシと。

「ひぎゃ、いちゃいっ、いちゃ、ちゅめたい! やめ、やめりょお!」

二頭身の叫びにハッとした。僕は何をしているんだ。謎の生物を鷲掴みにしてしまった。気持ち悪い。
それに僕は何て格好をしているんだ。
これから学校だってのに、制服を女物と間違えて着てしまったらしい。

いや、違うぞ。女物と間違えて着るなんてことはあり得ない!これは誰の制服だ!?羽月さんの制服を持ってきてしまったのか!?

いや、違うぞ。好きな子の制服を盗むほど僕は落ちぶれちゃいない。

「なんで僕はスカートを履いているんだーー!!??」

二頭身を歯ブラシでゴシゴシしながら叫んでいた。もう行動もパニックだ。

「きちゃまは、魔法ちょうじょになったのりゃ」
「んは?魔法長女?」
「違う、魔法少女だ」
「ちゃんと喋れんじゃねぇか!」
「キャラちゅけが大事なのりゃ、仲間がいっぴゃい居るから、こっちも大変なのりゃ」

洗われながら、説明をしてくれた。こいつの服は歯ブラシでボロボロになってしまった。
みすぼらしい奴だな。

「おい、みじゅを止めりょ。ちゅめたい」
「あ、ああ。……え、魔法少女って何!?」

危ない。現状一番大事な事を流すとこだった。このフリフリスカートの理由を知りたい。

「きちゃまと魔法少女の契約をしたのりゃ」
「魔法少女ってちゃんと言うようにしたんだ」
「大事なセリフはちゃんと言うことにしたのりゃ」
「……してないよ!?契約!!」

あぶねぇ。また流すとこだった。
契約なんてしてないよ!?魔法少女契約って、僕男だよ、魔法少年じゃないの!?

いや、魔法ってなんだよ!!

「おりぇが決めて変身させたかりゃ、きちゃまは今から魔法少女りゃ。しゃ戦えアークドイゾンと」
「服はこれなの?」
「少女だかりゃな。身体も少女にしてりゅから気にすりゅな」
「ぶっへっん!?身体も!?」
「そうりゃ。触ってみ」
「……いや、特に変わりないような」

まさか、嘘だろ?
自分の胸を触ってみたが、特に何も変わりない気がする。

「最初にしょこ触るのりゃね」
「……だってさ……」
「貧乳キャラなのりゃ。下触ってみるのりゃ」
「おまえキャラ付け好きだな!」

……え、下?
……あ……あ、あぁ!

「な、ない!!」
「何がりゃ?」
「うるせぇよ!」

僕は二頭身をピッチャー宛ら放り投げたが、空中で停止した。急停止したものだから、体がくの字に折れ曲がって一瞬白目を剥いていたが、服をポンと叩くと服はみるみる新品に戻っていく。

「きちゃま、魔法少女のパワーでおいりゃを投げるな。内臓が飛び出るかと思っちゃのりゃ」
「嘘だろ、こんなパワーが僕に……?」
「アークドイゾンと戦うのりゃ。当然弱いと使い物にならんのりゃ」

こんなにパワーあるのに魔法使うのか。戦う……アークドイゾンと。
アークドイゾン。
……なに?アークドイゾンって。

「アークドイゾンってなに?」
「アークドイゾンは、わりぇわりぇの敵。悪の怪人組織りゃ」
「怪人っ!?」

怪人なんて実在するのか、なんだよガチの戦いじゃないかよ。

「アークドイゾンと魔法少女は日夜戦ってるりゃ」
「見たことないけど」
「目撃者は記憶を消されるのりゃ。でもアークドイゾンが組織の強化をしたのれ、魔法少女が足りにゃくなったから増やしてるのりゃ」
「足りないって、どんだけ必要なんだよ……」

魔法少女って実在するんだ〜。あ、僕も魔法少女か。どれくらいいるんだろう、大戦争みたいだな。

「困ったことに数を把握してないのりゃ、管理できなくなったのりゃ」
「ばかだろ、お前ら」
「ちがうのりゃ、おりぇらは魔法ちゅかえるから偉いのりゃ」
「ちっちゃい癖に口はでかいな」

二頭身は、ふわふわと空中を流れて僕の肩に乗った。

「でも悪い魔法少女が増えて困ってるのりゃ」
「悪い魔法少女?」

まぁ、そんなに数がいるなら変わった奴もいるんだろうけど。男女関係なく魔法少女にするくらいなんだから。
見る目なさすぎだろ、こいつら。

「魔法少女を襲う魔法少女が出現してるのりゃ」
「おいおい、敵が増えてるじゃないか」
「そうなのりゃ、奴らは魔法少女とは認められないのりゃ。だからしょいちゅらを《無法少女》と名付けたのりゃ」

無法者の少女ってことか。無法者の少女って、なんて字面だ。関わりたくない。
もちろんこいつらにも関わりたくない。

そんな僕の気持ちを察する気もなく、二頭身は衝撃的な事を言ってきた。

「きちゃまには《無法少女》狩りをしてもらうのにょりゃ」
「んはっ!?」
「アークドイゾンと無法少女も敵なのりゃ。少女狩りをして欲しいのりゃ」
「少女狩りて、オヤジ狩りの方がまだいいよ」

なんか敵を増やされた。
オヤジ狩りの方がマシだと言ったが、少女の正体がオヤジだったらオヤジ狩りなのか?少女の正体がオヤジ!!
なんて嫌な言葉想像してしまったんだ。父さんが少女になってたら嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ、嫌すぎてうんこが漏れそうだ。
そんな僕は今少女だった!

「きちゃまは今から正義の無法少女りゃ!しゃっしょく無法少女発見りゃ。一狩りはじめりゅのりゃ」
「戦い方わかんないって!!」

まだ魔法少女になりたての僕は、無理矢理戦場へ連れ出された。こんな朝早くに。登校時間に。
知り合いに見つかったらどうしよう。

「あぁぁぁ」

登校するクラスメイトが見えた。
僕は顔を両手で覆いながら空を飛ばされている。側から見たら恥ずかしがっている可愛い少女だろう。

「アッハハハハ若い子がいっぱい、その若さ私にちょうだぁぁぁいキャッハハ」

僕がどよんとした気持ちで到着したのは、一軒家の屋根で明るくはしゃぐ少女の真上だ。
そこにもやはり、おかしな生物が頭に乗っている。

「もうやめてくれっぴょトヨばぁちゃん!魔法少女の敵はアークドイゾンだっぴょ!」
「うるさいねい!こんなすごい力、若返る為に使って何が悪いねい!」

細長い頭をした1.5頭身くらいの生物は、必死に止めていたが、少女はお構いなしに払い除けた。
たぶん、あの少女は婆さんだ。トヨばぁちゃん。

「トヨばぁちゃん!?」

羽月さんちの!?思わず口に出してしまった。

「マズぴょっ!無法少女だぴょ、逃げようよトヨばぁちゃん!」
「まずいねい、あたしゃ痛いのは嫌いだよ」
「よっしゃ逃げるぴょ」
「すたこらさーだねい」

トヨばぁちゃん達は去っていった。
羽月さんちのすぐ近くだったようで、羽月さんが玄関から出てきた。
ちょうど着地したトヨばぁちゃんの変身が解け、少女が老人になる。

「おばぁちゃん行ってきまーす」
「気をつけるんだよ、さく」

さっきまで、若さ若さと狂乱していたばぁちゃんが一般ばぁちゃんみたいなことを言っている。
そんなことを上から見下ろしながら思っていると……思っていたが、何故か僕は羽月さんちの玄関前で羽月さんの目の前で立ち尽くしていた。

「あの、どちら様?」
「え、っと、咲」

なんて可愛いんだ羽月咲ぅ、きゅんとして名前を呼んでしまった。
バレたらヤバいけど、目がハートになってしまう!

「追ってきたかいねい、あんた」
「いや待ってトヨばぁちゃんっ」
「……あんた知り合いかねい、トヨばぁちゃんって呼ぶのは、あんたまさかタク坊かいね」

バレた。僕の名前は玉寺拓郎、羽月咲さんの幼馴染ですぅ。もう終わる、嫌われる。

「え、たっくん」
「ん?違うよ、誰それ」

こうなりゃとぼけ通すしかない!

「無法少女いなくなったのりゃ、変身解除なのりゃ」

なに!!??今はやめろ!

「やめろ二頭身!やめっ」

と、聞き入れる事なく変身を解かれた。
僕はパステルな光に包まれ、いつもの玉寺拓郎に戻った。羽月さんの目の前で。

「羽月さん……」
「たっくん、あなた……」
「タク坊、おまえさん」

ああ、あああ、ああああああああああああもう嫌だああああああああ

「たっくんも魔法少女だったの?」
「え?」
「私もだよ」

羽月さんは、そう言って目の前で変身した。
可愛すぎるよ、もうずっと魔法少女でいて。

「私らは無法少女って言われてるけどねい」

トヨばぁちゃんの一言は僕には気にならなかったが、二頭身は険しい顔をしていた。
これから僕は羽月さんと敵対するのか?その時は、僕も無法少女に成り下がってやるさ。

共通の秘密を持った僕らは、いつものように登校する。いままでと違うのは、僕は少女になれるということ。
そして何より羽月さんと登校できるということだ。

僕は魔法少女。
その名前はまだない。


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