松井

ちょっと不思議でちょっと怖い。そんな詩や掌編を書くことが多いです。

松井

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記事一覧

●200字小説「恋」

 私を食べ尽くした彼は満足そうに眠る。彼の腹の中は温かで、恋する彼に抱かれる幸福の中、私は卵を産む。彼の腹の中でびっしりと。  子どもたちは元気が過ぎるようで、…

松井
5日前
4

●200字小説「ゴミ出し」

 お隣さんは幼稚園に通う女の子がいるご家族だ。女の子は毎朝ゴミ出しをする。  雨の日でも風が強い日でも、女の子は毎日大きなゴミ袋を二つ出す。こんな小さいのにお手…

松井
2週間前
6

●200字小説「天使」

 鳥の羽が落ちていると思い拾ってみると、それは天使の羽だった。白くてふわふわとしたそれはとても軽く、僕の手のひらの上で少し浮いている。  最近の僕は、仕事をクビ…

松井
3週間前
6

●200字小説「弁償」

 弟のブタの貯金箱を割った。漫画を買う金が足りなかったから。そして悪事はすぐにばれた。 「元に戻せ」  盗んだ六百円を差し出す。 「違う! ブタの方!」  しかし、…

松井
4週間前
4

●200字小説「ママは綺麗」

 私のママは綺麗。みんなもそう言ってくれる。  最近のママは鏡を見ることが増えた。そろそろ交換する時期だ。 「少しお留守番しててね」  きっちり一時間でママは帰っ…

松井
1か月前
5

●200字小説「鴨居の遺影」

 ばあちゃんちの居間の鴨居には、先祖の遺影がずらりと並ぶ。昨年そこにじいちゃんも仲間入りし、とうとうばあちゃんも。  読経と線香の中、ばあちゃんの遺影を見る。い…

松井
1か月前
3

【「ココア共和国」4月号掲載とちょっとした決意】

本日発売の「ココア共和国」4月号の、今月の一行と傑作集Ⅱに掲載されました。 「匿名希望」という詩です。 主催者である秋亜綺羅(あき・あきら)さんが、この詩について…

松井
1か月前
6

●200字小説「僕はいるよ」

 少しだけ開けたカーテンの隙間から外を見る。かれこれ八時間。電柱に身を隠すようにしてあの男はずっといる。  今日に限ったことではない。二年ほどあの男はこの家を見…

松井
1か月前
1

●一行詩(36)

相談に乗って欲しいと頼まれたので、耳を取り外し、貸した時の相手のポカン顔

松井
1か月前
13

●詩「ちぐはぐ」

腹は満タンなのに口は食う 頭は不在なのに足は走る 心は真っ当になりたいのに体は蓮池に落ちていく

松井
2か月前
16

●一行詩(35)

「I Love Meat」と書かれたTシャツで刺身を食うが、これもまた肉

松井
2か月前
8

●200字小説「祈り」

 発熱、頭痛、喉の痛み、鼻水、倦怠感。まぎれもなく俺は病人だ。  スマホを掴むが、両親は遠方だし、頼れる友人もいないし、恋人には俺の浮気が原因で振られたばかり。 …

松井
2か月前
7

●200字小説「いい人」

 みんな考えすぎよ。彼に裏なんてない。彼は私のことを深く愛してくれるとってもいい人なの。  彼は私のピンチには必ず駆けつけてくれる。毎回たまたま近くを通りかかっ…

松井
2か月前
7

●一行詩(34)

ビルとビルの間を垣間見し、吸い込まれて行くは修羅の街

松井
2か月前
4

●詩「逃亡者」

怖いものから逃げるために罪を犯し 罪から逃げるために嘘をつき 嘘をつく自分から逃げるために私を消そう

松井
2か月前
9

●詩「私は死に、」

私は死に、ただのゴミとなるだろう 悲しくもあり寂しくもあり嬉しくもあり 何も残せなかったことを悔やみながら 何も残さなかったことに安堵するだろう とにもかくにも ゴ…

松井
2か月前
5

●200字小説「恋」

 私を食べ尽くした彼は満足そうに眠る。彼の腹の中は温かで、恋する彼に抱かれる幸福の中、私は卵を産む。彼の腹の中でびっしりと。
 子どもたちは元気が過ぎるようで、つい彼の腹を食い破り外に出てしまう。毎回注意しても言うことを聞かない。親って大変。
 それにしても、また「彼」を失ってしまった。
 スマホの電源を入れ、画面をタップする。マッチングアプリ。これってすごく良い。
 この中にはたくさんの「彼」が

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●200字小説「ゴミ出し」

 お隣さんは幼稚園に通う女の子がいるご家族だ。女の子は毎朝ゴミ出しをする。
 雨の日でも風が強い日でも、女の子は毎日大きなゴミ袋を二つ出す。こんな小さいのにお手伝いをして、とても偉い。
「毎日ゴミ出し大変だね」
「大変だけどゴミはたくさんいるから」
「ゴミはいるんじゃなくて、ある、だよ」
「いる、だよ」
 女の子が指差したのは、通勤途中の大人たち。
「お前もだよ」
 女の子の小さく可愛い指が、私に

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●200字小説「天使」

 鳥の羽が落ちていると思い拾ってみると、それは天使の羽だった。白くてふわふわとしたそれはとても軽く、僕の手のひらの上で少し浮いている。
 最近の僕は、仕事をクビになり、恋人には振られ、友人には壺を買わされ、犬の糞も踏んだ。
 この羽の軽さが羨ましくなり、試しに背中に刺してみた。気持ちが軽くなる。羽を探し見つけては、背中に刺していく。
 気づけば僕は空の上。見下ろせば浮かない顔の人々。
 僕は背中の

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●200字小説「弁償」

 弟のブタの貯金箱を割った。漫画を買う金が足りなかったから。そして悪事はすぐにばれた。
「元に戻せ」
 盗んだ六百円を差し出す。
「違う! ブタの方!」
 しかし、ブタは粉々。
「ブタの弁償代五百円を払え!」
 手の中にあった五百円玉を渡す。弟は満足気に頷く。
「許す」
 弟はまだ四歳。金の価値をわかっていない。弟はブタの貯金箱の方を気に入っており、中身の金はおまけなのだ。
 とにかく僕の手の中に

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●200字小説「ママは綺麗」

 私のママは綺麗。みんなもそう言ってくれる。
 最近のママは鏡を見ることが増えた。そろそろ交換する時期だ。
「少しお留守番しててね」
 きっちり一時間でママは帰ってくる。新しい皮と一緒に。

 お風呂で皮をじゃぶじゃぶ洗い、ドライヤーで乾かす。
 ママは自分の胸に両手を突き立て、ビリビリと左右に引き裂き、古い皮を脱ぎ捨てる。真っ赤な筋肉がもそもそ動き、新しい皮を着る。
「どうかな?」
 ママがくる

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●200字小説「鴨居の遺影」

 ばあちゃんちの居間の鴨居には、先祖の遺影がずらりと並ぶ。昨年そこにじいちゃんも仲間入りし、とうとうばあちゃんも。
 読経と線香の中、ばあちゃんの遺影を見る。いつもと同じ優しい笑顔。込み上げる涙を誤魔化そうと顔を上げると、ふと思った。
「じいちゃんってあんな顔だっけ」
 そして気づく。先祖たちが全て同じ顔なのだ。
 ばあちゃんの遺影に目をやる。いつもと同じ優しい笑顔が歪み、次第に鴨居の遺影と同じ顔

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【「ココア共和国」4月号掲載とちょっとした決意】

本日発売の「ココア共和国」4月号の、今月の一行と傑作集Ⅱに掲載されました。
「匿名希望」という詩です。
主催者である秋亜綺羅(あき・あきら)さんが、この詩について触れてくれています。嬉しい。

以前「ココア共和国」に掲載された(2022年9月号)「鬼の肉じゃが」という詩について、ツイキャスで取り上げてもらったことがある。
普段感想などをほとんどもらえないので、とても嬉しかった。
そして、私と他者の

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●200字小説「僕はいるよ」

 少しだけ開けたカーテンの隙間から外を見る。かれこれ八時間。電柱に身を隠すようにしてあの男はずっといる。
 今日に限ったことではない。二年ほどあの男はこの家を見てるだけ。
「モテるのも考えものだな」
 家主である女に声をかけるが、返事はない。愛しの女はただの肉塊となり、床に転がるだけ。もちろん、そうしたのは僕。
 もう一度隙間からあの男を見る。お前がそこから見るしかできなかったこの場所に、僕はいる

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●一行詩(36)

相談に乗って欲しいと頼まれたので、耳を取り外し、貸した時の相手のポカン顔

●詩「ちぐはぐ」

腹は満タンなのに口は食う
頭は不在なのに足は走る
心は真っ当になりたいのに体は蓮池に落ちていく

●一行詩(35)

「I Love Meat」と書かれたTシャツで刺身を食うが、これもまた肉

●200字小説「祈り」

 発熱、頭痛、喉の痛み、鼻水、倦怠感。まぎれもなく俺は病人だ。
 スマホを掴むが、両親は遠方だし、頼れる友人もいないし、恋人には俺の浮気が原因で振られたばかり。
 その時インターホンが鳴る。画面に笑顔の男が映る。
「今、あなたは幸せですか?」
 宗教の勧誘か。正に神の救いだ。
「初対面の人に頼むのもなんですが、実は熱が出ていて全身もだるくて。それでーー」
「1日も早い快復をお祈りします」
 祈りよ

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●200字小説「いい人」

 みんな考えすぎよ。彼に裏なんてない。彼は私のことを深く愛してくれるとってもいい人なの。
 彼は私のピンチには必ず駆けつけてくれる。毎回たまたま近くを通りかかったなんて運命ね。
 それに私の健康まで気遣ってくれる。教えてもない毎日の食事がわかるなんて、愛の成せる技ね。
 あとLINEのやりとりや電話の内容も全て知ってる。先に目を通してるなんて、まるで売れっ子アイドルね。
 え? 「怖いぃー」ってど

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●一行詩(34)

ビルとビルの間を垣間見し、吸い込まれて行くは修羅の街

●詩「逃亡者」

怖いものから逃げるために罪を犯し
罪から逃げるために嘘をつき
嘘をつく自分から逃げるために私を消そう

●詩「私は死に、」

私は死に、ただのゴミとなるだろう
悲しくもあり寂しくもあり嬉しくもあり
何も残せなかったことを悔やみながら
何も残さなかったことに安堵するだろう
とにもかくにも
ゴミなのだから
もう何も感じなくていいし
もう何もしなくていいし
私は死に、ただのゴミとなるだろう
永遠に安らかなただのゴミとなるだろう