松井

ちょっと不思議でちょっと怖い。そんな詩や掌編を書くことが多いです。

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  • 200字小説

    約200字程度のショートショート。ホラー要素多め

  • 詩です。

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    エッセイです

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    詩、絵本

最近の記事

●200字小説「ゴミ出し」

 お隣さんは幼稚園に通う女の子がいるご家族だ。女の子は毎朝ゴミ出しをする。  雨の日でも風が強い日でも、女の子は毎日大きなゴミ袋を二つ出す。こんな小さいのにお手伝いをして、とても偉い。 「毎日ゴミ出し大変だね」 「大変だけどゴミはたくさんいるから」 「ゴミはいるんじゃなくて、ある、だよ」 「いる、だよ」  女の子が指差したのは、通勤途中の大人たち。 「お前もだよ」  女の子の小さく可愛い指が、私にもまっすぐ向けられていた。

    • ●200字小説「天使」

       鳥の羽が落ちていると思い拾ってみると、それは天使の羽だった。白くてふわふわとしたそれはとても軽く、僕の手のひらの上で少し浮いている。  最近の僕は、仕事をクビになり、恋人には振られ、友人には壺を買わされ、犬の糞も踏んだ。  この羽の軽さが羨ましくなり、試しに背中に刺してみた。気持ちが軽くなる。羽を探し見つけては、背中に刺していく。  気づけば僕は空の上。見下ろせば浮かない顔の人々。  僕は背中の羽を一枚、また一枚と落としていく。 

      • ●200字小説「弁償」

         弟のブタの貯金箱を割った。漫画を買う金が足りなかったから。そして悪事はすぐにばれた。 「元に戻せ」  盗んだ六百円を差し出す。 「違う! ブタの方!」  しかし、ブタは粉々。 「ブタの弁償代五百円を払え!」  手の中にあった五百円玉を渡す。弟は満足気に頷く。 「許す」  弟はまだ四歳。金の価値をわかっていない。弟はブタの貯金箱の方を気に入っており、中身の金はおまけなのだ。  とにかく僕の手の中には百円玉。これで漫画が買える。

        • ●200字小説「ママは綺麗」

           私のママは綺麗。みんなもそう言ってくれる。  最近のママは鏡を見ることが増えた。そろそろ交換する時期だ。 「少しお留守番しててね」  きっちり一時間でママは帰ってくる。新しい皮と一緒に。  お風呂で皮をじゃぶじゃぶ洗い、ドライヤーで乾かす。  ママは自分の胸に両手を突き立て、ビリビリと左右に引き裂き、古い皮を脱ぎ捨てる。真っ赤な筋肉がもそもそ動き、新しい皮を着る。 「どうかな?」  ママがくるりと回る。ママはやっぱり綺麗。

        ●200字小説「ゴミ出し」

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        記事

          ●200字小説「鴨居の遺影」

           ばあちゃんちの居間の鴨居には、先祖の遺影がずらりと並ぶ。昨年そこにじいちゃんも仲間入りし、とうとうばあちゃんも。  読経と線香の中、ばあちゃんの遺影を見る。いつもと同じ優しい笑顔。込み上げる涙を誤魔化そうと顔を上げると、ふと思った。 「じいちゃんってあんな顔だっけ」  そして気づく。先祖たちが全て同じ顔なのだ。  ばあちゃんの遺影に目をやる。いつもと同じ優しい笑顔が歪み、次第に鴨居の遺影と同じ顔になっていった。

          ●200字小説「鴨居の遺影」

          【「ココア共和国」4月号掲載とちょっとした決意】

          本日発売の「ココア共和国」4月号の、今月の一行と傑作集Ⅱに掲載されました。 「匿名希望」という詩です。 主催者である秋亜綺羅(あき・あきら)さんが、この詩について触れてくれています。嬉しい。 以前「ココア共和国」に掲載された(2022年9月号)「鬼の肉じゃが」という詩について、ツイキャスで取り上げてもらったことがある。 普段感想などをほとんどもらえないので、とても嬉しかった。 そして、私と他者の見えているものや感じたものが違うことが面白かった。 そんな体験のきっかけになっ

          【「ココア共和国」4月号掲載とちょっとした決意】

          ●200字小説「僕はいるよ」

           少しだけ開けたカーテンの隙間から外を見る。かれこれ八時間。電柱に身を隠すようにしてあの男はずっといる。  今日に限ったことではない。二年ほどあの男はこの家を見てるだけ。 「モテるのも考えものだな」  家主である女に声をかけるが、返事はない。愛しの女はただの肉塊となり、床に転がるだけ。もちろん、そうしたのは僕。  もう一度隙間からあの男を見る。お前がそこから見るしかできなかったこの場所に、僕はいるよ。

          ●200字小説「僕はいるよ」

          ●一行詩(36)

          相談に乗って欲しいと頼まれたので、耳を取り外し、貸した時の相手のポカン顔

          ●一行詩(36)

          ●詩「ちぐはぐ」

          腹は満タンなのに口は食う 頭は不在なのに足は走る 心は真っ当になりたいのに体は蓮池に落ちていく

          ●詩「ちぐはぐ」

          ●一行詩(35)

          「I Love Meat」と書かれたTシャツで刺身を食うが、これもまた肉

          ●一行詩(35)

          ●200字小説「祈り」

           発熱、頭痛、喉の痛み、鼻水、倦怠感。まぎれもなく俺は病人だ。  スマホを掴むが、両親は遠方だし、頼れる友人もいないし、恋人には俺の浮気が原因で振られたばかり。  その時インターホンが鳴る。画面に笑顔の男が映る。 「今、あなたは幸せですか?」  宗教の勧誘か。正に神の救いだ。 「初対面の人に頼むのもなんですが、実は熱が出ていて全身もだるくて。それでーー」 「1日も早い快復をお祈りします」  祈りよりもポカリをくれ。

          ●200字小説「祈り」

          ●200字小説「いい人」

           みんな考えすぎよ。彼に裏なんてない。彼は私のことを深く愛してくれるとってもいい人なの。  彼は私のピンチには必ず駆けつけてくれる。毎回たまたま近くを通りかかったなんて運命ね。  それに私の健康まで気遣ってくれる。教えてもない毎日の食事がわかるなんて、愛の成せる技ね。  あとLINEのやりとりや電話の内容も全て知ってる。先に目を通してるなんて、まるで売れっ子アイドルね。  え? 「怖いぃー」ってどうして?

          ●200字小説「いい人」

          ●一行詩(34)

          ビルとビルの間を垣間見し、吸い込まれて行くは修羅の街

          ●一行詩(34)

          ●詩「逃亡者」

          怖いものから逃げるために罪を犯し 罪から逃げるために嘘をつき 嘘をつく自分から逃げるために私を消そう

          ●詩「逃亡者」

          ●詩「私は死に、」

          私は死に、ただのゴミとなるだろう 悲しくもあり寂しくもあり嬉しくもあり 何も残せなかったことを悔やみながら 何も残さなかったことに安堵するだろう とにもかくにも ゴミなのだから もう何も感じなくていいし もう何もしなくていいし 私は死に、ただのゴミとなるだろう 永遠に安らかなただのゴミとなるだろう

          ●詩「私は死に、」

          ●詩「同じ時間、違う時間」

          朝は前に進む 昼は加速する 夜になるとようやく立ち止まり追いついた それでも少しずつ朝へと移動する 私をひとりぼっちにしたままで

          ●詩「同じ時間、違う時間」