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私の家の鏡の中には いつも知らない誰かがいる 昨日は老婆 一昨日は少年 先週は誰だっけ 今朝…
腹は満タンなのに口は食う 頭は不在なのに足は走る 心は真っ当になりたいのに体は蓮池に落ちて…
怖いものから逃げるために罪を犯し 罪から逃げるために嘘をつき 嘘をつく自分から逃げるために…
私は死に、ただのゴミとなるだろう 悲しくもあり寂しくもあり嬉しくもあり 何も残せなかったこ…
朝は前に進む 昼は加速する 夜になるとようやく立ち止まり追いついた それでも少しずつ朝へと…
この家の鶏は 火曜日、卵を産んだ 水曜日、卵を産んだ 木曜日、卵を産んだ 金曜日、卵を産んだ…
あちらこちらに散らばった君を集めよう 瓶に詰めて上下左右に振ろう 君をひと塊にしよう そうして瓶を増やしていこう 壁一面瓶詰めにされた君 瓶がカタカタ揺れる 窮屈になったのだろう 君はまたあちらこちらに散らばるだろう それでもやっぱり君を集めよう
鬼が私を追いかける 牙を覗かせ愉快そうに 喰っちまうぞ ほら逃げろ 鬼が私を追いかける 重そ…
霊柩車の通る横で 主婦は夕飯の献立を考え 子どもは落ち葉を追いかけ 青年は恋人に思いを馳せ …
街の中 傘を盗られたボクがいる ずぶ濡れになったボクがいる 森の中 傘を盗られたキノコがい…
振り返ると未熟だった自分がずらり 前を見てもやはり未熟であろう自分がずらり それではだめ…
悪い言葉の代わりに 黒い水を吐き出すことに 決めた人間たちの 世界は黒い水で満たされ人間た…
降りることのできない馬車を 感情のない馬が引き 鳴り響く金切り声のような音楽と 頭上でやけ…
いつもの帰り道 いつもと違う視界の先 なにやら蠢く物体たち 蝉だ 大きな蝉だ 私の背丈を超えるほどの蝉たち 腕や足を掴まれ するすると引きずりこまれる 土の中 冷たく暗いその中で もそもそ動くは 蝉の赤ちゃん ストローのような管が 私を貫く 管の先には蝉の赤ちゃん 美味そうに ゆっくりと 私を吸い上げる 私を吸い 大きくなると 土の外 私は母になった