【連載小説】移民が主権を握った近未来:イエローリバーエロージョン27話 完結
(27)青い海
夕日が傾き、所々ペンキのはげ落ちたバルコニーの手すりの一片を強い光で照らしていた。春の香りが鼻先を擽った。まだ大和の治安がそこまで悪化していなかった新婚の頃、ジープに乗って妻と菜の花畑を見に行った。花粉が入り交じる生暖かい風が車窓から吹き抜けて小夜の髪先を揺らした。藤本は鼻歌を歌う妻の浮かれた様子を何とはなしに眺めていた。黄色い河の破片がどこからともなく飛んできて、ひび割れだらけのアスファルトの国道を濡らしていた。時折タイヤがクリーピングを起こすので運転手