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祖父の憧れのスター

美空ひばりの名曲である「川の流れのように」が好きである。定期的に聴きたくなってしまう。美空ひばりに詳しいわけでも、演歌に造詣が深いわけでもないが、あれは素人から見ても名曲だと感じる。単純に好きというよりは、あの歌と美空ひばりの壮大な歌声に惹かれるという感覚だ。

秋本康が当時住んでいたニューヨークのイースト川を見ながら作詞したという歌詞には難しい単語や、J-POPにありがちな部分的なフェイク英語はまったく使われていなくて、わかりやすい単語で人生を「川」に例えて歌い上げる。

個人的に特に好きな部分は1番のサビの手前の以下の部分だ。

地図さえ無い  それもまた人生

個人的にはこの部分にこの歌の大事な部分が詰まっていると思う。「人生」は地図もガイドも、道標もなくて、何も先のことはわからない。過ぎ去った過去や時間を振り返ることはできるとしても、この先どうなるかはわからない。「人生」や「生き方」などという言葉を発することは可能だけれど、それを身を持って語れるのは人生を生き抜いて来た人だけなのだ。


この曲に関して個人的なエピソードがある。私が小学生か中学生くらいの時の冬に、鹿児島の祖父母の家に帰省していた時の話である。

年末になると紅白をはじめとして、多くの歌番組が放映される。その中でこの「川の流れのように」は昭和史に残る名曲的な感じで放映されていた。その時は「あぁ、有名なこの曲か」という程度でなんとなく観ていた。すると、隣で一緒に観ていた祖父が私に「美空ひばりや。じいちゃんたちの憧れのスターやったんやとそっと呟くように教えてくれた。

その瞬間、なぜか鳥肌がたった。普段はあまりそういうしみじみとしたようなことは言わない祖父が、わざわざ言うということはそれくらい憧れだったのだろう。その話を聞くと私も、人生も何も知らないながらも、良い曲だなと思うようになった。それと同時に、いつか自分も大きくなって、歳を取ったら、この歌のように人生を振り返ったり、人生に想いを馳せたりするのだろうかと思った。

歌の時間は短い時間であったが、そう感じた。祖父は何となくそう言ったのか、それとも何かを伝えたくてそのエピソードを言ったのか。今となってはわからないが、祖父から見ても、私から見ても大スターであることは間違いない。


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