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クレーム・シャンティイって、なんだ?[クリーム編vol.1]

ショートケーキのクリームにまつわる少し面白いお話です。
今回のテーマはクレーム・シャンティイ
見習いパティシエ、真白けいと共に楽しんでいきましょう。

Crème chantillyって、なんだ?

まずは、フランス語からわかりやすく変換します。

crème chantilly
(クレーム・シャンティイ)
||
砂糖を加えて泡立てた生クリーム

実は、ただ泡立てただけでなく、定義として砂糖も含まれているようです。

では、加糖しない、ただ泡立てただけのものはなんと呼ぶか、別の名前があります。

crème fouettée
(クレーム・フエッテ)
||
砂糖を加えずに泡立てた生クリーム

ふえって。ふえって。なんだかシャンティイよりもいかにもふわっとした名前ですね。

どっちも同じ生クリームじゃん!
と思いましたか?
なんと、この両者、似ているようで全然違う役割を持つみたいです。

クレーム・フエッテとクレーム・シャンティイ姉妹

まずは使われる状況を比べてみます。

[クレーム・シャンティイの場合]
・ショートケーキや、ムラング・シャンティイなど主役級の活躍をする時に使う
・絞ったり、塗ったり、仕上げに使う

[クレーム・フエッテの場合]
クレーム・パティシエールと合わせたり、ムースに使われる
脇役として空気を含ませて軽くする

雰囲気で伝わってくれるといいのですが、ざっくりとクレーム・シャンティイは主役、クレーム・フエッテは脇役のようです。

甘いか、甘くないかで使い分けられるのもありますが、これには砂糖の持つ別の役割が大きく関わってきています。
小難し〜い話になるので、詳しくは別記事の[親水性]をご覧ください。

※さらっと言うと、生クリームの中に砂糖が入ると水分を抱きしめて離さないでくれるので、離水せずにクレーム・シャンティイ単体で状態を保てるので主役になれるというわけです。
ああ、またムツカシイワードが出てきた…。

素材としての生クリームや、離水についてはこちらで詳しくお勉強しています!

ということで、

デコレーションに使われている
泡立った生クリームは、
全てクレーム・シャンティイ!

そう思っていただいても全然間違いではありません。
生クリームはあくまで材料の名前である所に差がありますね。
…でも、そんなことをいちいち指摘するのも野暮ですかね。

続いては、クレーム・シャンティイが生まれるまでのエピソードを調べて来たので、良かったら見ていってください。
3つほど説がありました。

クレーム・シャンティイの由来[説①]

時は1533年。
イタリアのカトリーヌ・ド・メディシスがフランス国王アンリ2世に嫁いだ際、
お供していたお菓子職人が泡立てた生クリームを作っていたといわれ、それはイタリア語で「ミルクの雪」と呼ばれていたそうです。

ミルクの雪!言い得て妙です。

そして、このお話には但し書きがあります。

※泡立てた際の道具は、エニシダの枝

エニシダの、枝…?

(↓こちらがエニシダです。)

「宮廷なのに泡立て器使わない?!もしやその方が美味しく泡立てられるのでは?!」
皆さんそう思ったことでしょう。
しかし当時泡立て器を使わなかったのには1つ確実な理由があります。

それは、その時代には泡立て器は存在しなかったからです。
実は、泡立て器が世の中に普及したのは18世紀後半と比較的最近みたいです。

なので、当時の菓子職人は相当な労力を費やして泡立てていたことが想像に難くありません。
それでも現代までこの食文化を伝えてくださった全ての先人菓子職人に敬意を表しましょう

泡立て器を開発してくれた偉大な先人に賞賛を送りながら、僕達は大人しく泡立て器でがんばりましょう。

クレーム・シャンティイの由来[説②]

時代は1世紀半ほど下りまして1671年。
パリから北へ約40km、舞台はシャンティイという町のシャンティイ城

「シャンティイ」という言葉が出てきました…!

シャンティイ城主の貴族、大コンデ公が招きましたのは、太陽王ルイ14世。宴会をメトル・ドテルとして任されたのは、フランソワ・ヴァテールという男。

※メトル・ドテルとは、宮廷の宴会プロデューサーのような役割。

ここで、さらに2説に分岐します。
(②-1)ルイ14世を驚かせようと、ムースのような食感まで泡立てたクリームを提供した。
(②-2)カスタードを炊こうとした際、卵が傷んでいるのを発見し、苦肉の策として甘みを加えた生クリームで代用した。

全然違う2つの説です。
よっぽど弟子が正確に外部に伝えようとしない限り、ドタバタの厨房の中で起きていた事を正確に知る事は難しく、ましてヴァテールの頭の中の事など、彼が伝えてくれない限り知る由もありません。残念なことに…。

さらに、ヴァテールはこの国王を迎えた大宴会でクレーム・シャンティイとは全く関係なく、しかもそれどころじゃない大事件を起こしています。
それはまた別の記事に書くとして。

太陽王ルイ14世を招き、1000人をもてなした3日間にわたる大宴会です。それはそれは世間の注目を集めたことでしょう。さらにそこで起こったヴァテールの悲劇シャンティイ城、これだけのワードが人々の口から口へ渡り歩き、逸話として想像を膨らませ、尾ひれがついただけなのかもしれません。
ただ、このクリームとシャンティイ城の繋がりは[説③]にも出てきます。

クレーム・シャンティイの由来[説③]

衝撃の宴会から約1世紀後の1784年のシャンティイ城。
敷地内にあるレストラン「HAMEAU」では、とある男爵夫人の昼食にクリームを提供し、それを褒め称えた記録があるそうです。
ただ、その時には「クレーム・シャンティイ」という名は触れられていません。

なるほど…。ようやく少し繋がってきました。 

そして現在でもHAMEAUを始めとしてシャンティイ城内のレストランでは元祖クレーム・シャンティイが食べられるそうです。
日本人の慣れ親しんだものよりも濃厚でマスカルポーネに近いんだとか。

すっごく食べてみたい!
今回の由来を思い出しながら味わってみたいなぁ…!
いつになるやら…。見習いに先は遠いです。

というわけでここまでの大きく分けて3つエピソードを整理してみます。

由来の結論と妄想

ほぼ確定と言って良い事をまとめます。
まずは

(Ⅰ)「クレーム・シャンティイ」という名前が定着したのは1784年以降

(Ⅱ)「クレーム・シャンティイ」という名前をつけたのはヴァテールではない

この2つは今までの説を見る限り確定です。
特に(Ⅱ)はヴァテールが名付けたとされている参考文献もありましたが[説③]から考えると、まだ名前がなかった、あるいは確定していなかったと考えるのが妥当です。

(Ⅲ)[説②]までの時代と[説③]では泡立ち方と状態が違う!

これは泡立て器の発明と普及を考慮してみました。泡立て器の発明以前は植物やフォークを使っていたと考えられています。それ専用器具である泡立て器とは性能が天と地ほどの差です。
完全に同じもの、と捉えるのはやはり難しいでしょう。

以上を踏まえ、ここからは、想像力で足りない部分を補って流れを作ってみたいと思います。

僕は、ここまで来て、「初めて」や、「発明」にこだわらなければ[説①〜③]は矛盾しないと思いました。 

[想像]イタリアにて、生クリームを撹拌すると濃度がつき、パンなどと共に食べられることがわかっていた

[史実]1533年、カトリーヌ・ド・メディシスによってフランスへと伝わる

[想像]1世紀半の間に、パリ周辺でそれとなく知られるようになる

[史実]パリ製菓職人のもとでヴァテールが修行を積む

[史実]1671年、大コンデ公とルイ14世の大宴会で砂糖を加えムース状に泡立てたクリームを提供

[想像]シャンティイ城内でその製法が伝わり、また泡立て器の普及によってより簡単に作れるようになる

[史実]1784年、HAMEAUで提供されたクリームが男爵夫人に褒められる

[想像]ヴァテールの悲劇のエピソードとともにシャンティイ名物として広まる

[想像]いつのまにか「クレーム・シャンティイ」と呼ばれ始め、定着する 
(区別するためにクレーム・シャンティイ以前からあったクレーム・フエッテも定義づけられた)

いかがでしょうか!あり得る流れなのかなと思います!!

「クレーム・シャンティイ」という名前は、色々な呼び方をされていたクリームを、印象的な出来事から当時の人々が呼び始めたんじゃないかなーという僕なりの結論です。

つまり時代ごとの職人たちの手を経て徐々に形作られていったものが、ある土地で親しまれ、後から名前を授かった、と。

現代でも、好き勝手な呼び方をされていたものがある時から一つの名前に統合されていくことって、スパンは短いかもしれませんが、あるような気がしませんか?

もちろん都合のいい解釈をしている部分もあります!!
ただこうして人々の気持ちを想像し、史実と史実の間に想いを馳せるのは、とってもロマンがあると思いませんか?!

あなたも自分なりの考察をしてみてください!

追記2021.3.9
こちらの記事で、生クリームの歴史から興味深い事実が少し判明しました!
ぜひご一読ください!

次回のテーマは…
「クレーム・パティシエール」

参考文献
猫井登,お菓子の由来物語,幻冬舎ルネッサンス,2011
Crème Chantilly シャンティイ – 悲劇のホイップクリーム,フランスおかし,閲覧日2021-2-24,  https://sweetsparis.com/mania/creme-chantilly/
ホイップクリーム,Wikipedia,閲覧日2021-2-24,https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ホイップクリーム
一度は食べてみて欲しい! 本物の生クリーム「クレーム・シャンティイ」がすごい。,Design Stories,閲覧日2021-2-24
https://www.designstoriesinc.com/panorama/design_stories_creme_chantilly/
クレーム・シャンティイ,一般社団法人 日本洋菓子協会連合会,閲覧日2021-2-24
https://gateaux.or.jp/ufaqs/クレーム・シャンティイ/

※この記事で紹介している内容は上記の参考文献をもとに作成したものです。諸説あるものは一部のみ紹介しています。

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