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#小説

花嫁衣装でどこへ行く

花嫁衣装でどこへ行く

昔昔、ある村の住人たちが夜の神様と契約を交わしました。20年に一度、村の娘を神様の妻として差し出す代わりに、村を守ってもらう、という約束です。

差し出される娘は、嫁入りの日にある花嫁衣裳を着させられました。それは月光を織り込んだ白無垢でした。満月の夜に糸を紡ぎ、満月の夜に布を織り、満月の夜に着物を仕立てた特別な衣裳です。

その衣装を身につけた時から、娘はだんだんと色々なことを忘れていくのでした

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大晦日の夜に

大晦日の夜に

年末年始は帰らないよ、と実家に宣言して、実際俺は帰らないで寮にいる。他の寮生はみんな帰省したから、静かなものである。

自分で掃除をするなら共同浴場にお湯を張っていいよ、と管理人さんが言ってくれたので、お言葉に甘えてお湯を張る。
10人はいっぺんに入れるお風呂が今日は俺1人の貸切、なんだか贅沢だ。

歌なんか口ずさみながら髪を洗っていると、浴場の引き戸を開ける音がした。訝しく思ってちらりと目をやる

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魔法の絨毯は無いので

魔法の絨毯は無いので

あるところに富豪がおりました。
富豪には子が1人、好奇心旺盛な本をよく読む娘でした。

ある時1人の吟遊詩人が富豪の屋敷へ立ち寄りました。
この土地では吟遊詩人は大切にされます。様々な物語や各地の情報を運んでくるからです。吟遊詩人はしばらく富豪の屋敷に滞在することになりました。

娘は物語が大好きでしたので、よく吟遊詩人にせがんで遠い国の物語を聞かせてもらいました。最初は物語に夢中だった娘は次第に

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大晦日にやってくるもの(南の町)

大晦日にやってくるもの(南の町)

ある南の町で変わった行事を見た。
大晦日の日没前に、住民は皆家を開け放ち、町が見下ろせる崖の上へ集まるのだ。
大晦日の前から1ヶ月ほど、住民は家中を掃除して塵を家の前へ積んでいく。そして大晦日の前日に不要品を道に出して、崖の上へと移動するのだ。

「何故こんなことを?」と、いつも町を案内してくれる若者に訊くと
「見てればわかるよ、ちょっとした見物だ。」と若者は答えた。

大晦日、日が落ちてあたりが

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大晦日にやってくるもの(北の町)

年の終わりの暗い夜
北からそれはやってくる

黒い体から百の手生やし
片付けにそれはやってくる

家に立てこもり人々はそれが過ぎていくのを待つ
弱った者は連れて行かれる
邪気ある者も連れて行かれる

弱った赤子病気の年寄り
誰もそれから逃げられない
彷徨う悪霊害なす妖精
みんな捕まえ連れて行く

連れて行かれてどうなるのかは誰も知らない知ろうとしない
夜が明けるまで運次第 顔を伏せて耐えるだけ

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雪に関する3つの話

雪に関する3つの話

ある地方でこんな話を聞いた。
「雪っていうのは、破られた恋文の欠片なんだって。昔、地上に夫婦の神が住んでいたんだけど、ある時夫が妻を怒らせて、妻は天へ昇っていってしまったの。夫は妻に帰ってきて欲しくて沢山手紙を書いて天へ送るんだけど、妻はまだ怒ってるからいちいちその手紙を破いて突き返すの。その破られた文が降ってくるのが雪なんですって。夫は、そんなものでも妻の触れたものだからって後生大事に回収してま

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温かな冠

温かな冠

昔、昔、あるところ、ふくろう毛糸屋やっていた

風が冷たい師走の月曜、大きな鬼がやってきた
頭にかぶった黒い帽子がお店の天井こすらんばかり

大きな鬼は「毛糸ください」小さな声でこういった
「どれにしますか」
「この白色のやつください」

毛糸は買ったが鬼はもじもじ
どうしましたかとふくろう問えば
帽子の編み方知らぬという。

帽子の編み方教えてもらい、礼を言い言い鬼帰る

火曜にまたその鬼が来て

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断ち切るつもりが紡ぐことになった

「お姉さん最近見ないけど、入院とか?大丈夫?」
「あーいや、元気だよ。今農家研修中」
「ええ?お姉さんもお姉さんの結婚相手も全然関係ない仕事だったよね?転職ってこと?」
「・・・みたいな感じというか、なりゆきというか。」
「何作る人になるの?」
「絹。」
「絹!?蚕飼うってこと?なんでまた」
「うーん、えーとね、まずさ、お姉ちゃんとお義兄さんはここ数年あんまり仲が良くなかったのね」
「?うん。」

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とっておきのおまじない

ああ、君もあいつを探しているのか。
僕にもわからないんだ、本当に急にいなくなっちゃったから。

2人で暮らしてたけどね、いつも一緒に出かける訳じゃもちろんない。
ただ、お互いに声はかけてから出かけるよ。あいつが鍵を持たずに散歩に出た時に、僕が知らずに鍵をかけてしまったことがあって。それから少しでも外に出るときは、お互い一応声はかけていこうということになったのさ。

うん、だからあの夜はあれっと思っ

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師走の夜の客

師走の夜の客

12月のある夜、家を訪ねる者があった。

その時私は父とりんごの荷造りをしていた。その日荷造りする分は終わりかけた頃、作業場の入り口から声がした。

「もし、ごめんください」
声のする方へ出てみれば、立っていたのはみみずくであった。羽根の位置に人の腕が生えている。脚も人間のものである。

驚いてとっさに物が言えずにいると
「どうしたい、また何か落としたのかい」
と後ろにいた父がみみずくに声をかけた

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月に関する覚え書き

月に関する覚え書き

ある満月の晩のことである。空には雲ひとつなく、月光は地上を冷え冷えと照らしていた。寝付けなかった私は、窓からぼんやりとその光景を眺めていた。

と、急にあたりが暗くなった。月が雲に隠れたのかと上を見ても月が見あたらない。いぶかしみながらも床に入ろうとしたとき、ベランダの方から草を分けるような音がした。

私のすむアパートは山中にあり、ベランダからすぐ木々が立ち並んでいるのが見える。その根本で、何か

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星を灯す人

その人は朝日の中、街灯を消してまわっていた。
この街の灯は、いまだにランプに火を灯す形式なのである。
専用の長い棹のような器具をもち、日が傾きかけたころから火を付けてまわり、日が上り始めたら火を消してまわる。

おはよう。仕事を見学させてほしいって人は貴方ね。私はルイーズというのよ。よろしくね。歩きながらでいい?
・・・もうこういうのはめずらしいのかしら。大抵電灯だものね。
寒くない?私は慣れっこ

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葡萄酒と櫛

葡萄酒と櫛

ある村に娘がいました。
娘の家は葡萄酒に使う葡萄を作っていました。元々荒れ地だったところを娘の先祖が開墾し、葡萄畑にしたのでした。
娘は毎日両親と一緒に畑に出てよく働いていました。

どこで見初められたものか、あるとき娘は王子に言い寄られました。王子は娘に様々な贈り物をしましたが、娘が一番気に入っていたのは凝った彫刻をした木の飾り櫛で、いつも髪にさしていました。

娘は王子にのぼせあがってしまい、

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重ならない針

重ならない針

月明かりの下で、父は置き時計を直していた。

「こんな遅くまでどうしたの?」
「急ぎでな。王女様が癇癪を起こして投げつけたんだそうだよ、中身はもう直したんだが、外の装飾が」

そういって父は、宝石の入った箱を引き寄せた。
「きれい」
思わず声を上げる。

厳格で、いつもなら仕事をしている時には私を寄せ付けない父が、珍しくひとつひとつ宝石を取り上げて見せてくれた。

「これは縞瑪瑙」
「これはアクア

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