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花嫁衣装でどこへ行く


昔昔、ある村の住人たちが夜の神様と契約を交わしました。20年に一度、村の娘を神様の妻として差し出す代わりに、村を守ってもらう、という約束です。

差し出される娘は、嫁入りの日にある花嫁衣裳を着させられました。それは月光を織り込んだ白無垢でした。満月の夜に糸を紡ぎ、満月の夜に布を織り、満月の夜に着物を仕立てた特別な衣裳です。

その衣装を身につけた時から、娘はだんだんと色々なことを忘れていくのでした。村のこと、家族のこと、自分のそれまでの人生のこと。そうして夜の神様のところへ着く頃には自分が地上の人間であったことも忘れているのでした。

やがて人間が夜を眩しく照らすようになると、段々と夜の神様を信仰する人は減っていきました。娘を差し出す儀式は行われなくなり、村自体もいつしか無くなってしまいました。

しかし、月の光を織り込んだ衣裳を着せるという話自体は残りました。どこでどう伝わったものか、それは「伴侶が厭わしくなったら月の光を織り込んだ着物を着せれば相手はどこかへ去っていく」という形のまじないに変わりました。

しかし、月の光を織り込んだ着物は20年に1度の嫁入りの日しか効果がありません。そのために多くの場合、まじないは失敗するのでした。

けれど時折、その20年に1度の夜にたまたま月光を織り込んだ物を身につけていた人は、自分のことを何もかも忘れて夜の神様の元へと行ってしまうのでした。

ですからね、あんまり月が見事な夜に仕立て物なんかするもんじゃあありませんよ。それを身につけた誰かが夜の神様のところへ行ってしまうかもしれませんから。




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「月の夜晒し」を元にしたお話3本目でございます。どんだけこの昔話好きなんだ私。
ちなみに元の「月の夜晒し」のお話に神様への嫁入り云々の話は全くありません。その部分は私が勝手に作った話です。念のため・・・。

あとこのおまじないだと男の人が夜の神様のところに行く場合もあるから、神様は女の人が来ると思ってる訳だからめっちゃ戸惑うんじゃないかとか書いてから思った。

他の「月の夜晒し」を元にしたお話はこちら↓



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