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葡萄酒と櫛

ある村に娘がいました。
娘の家は葡萄酒に使う葡萄を作っていました。元々荒れ地だったところを娘の先祖が開墾し、葡萄畑にしたのでした。
娘は毎日両親と一緒に畑に出てよく働いていました。

どこで見初められたものか、あるとき娘は王子に言い寄られました。王子は娘に様々な贈り物をしましたが、娘が一番気に入っていたのは凝った彫刻をした木の飾り櫛で、いつも髪にさしていました。

娘は王子にのぼせあがってしまい、仕事を怠けるようになりました。両親や友人達は呆れましたが、「王子だって本気じゃあるまい、そのうち娘に飽きてしまうだろうし、娘もそれで目が覚めるだろう」と放っておきました。

そしてその通り、王子は娘に飽きて会いに来なくなりました。
「お忙しいのよ」と言う娘に追い討ちをかけるように、王子が隣の国の王女と結婚したという知らせが届きました。

娘はすっかり元気を無くし、腑抜けたようになってしまいました。王子から贈られた髪飾りやらドレスやらを身につけて、一日中お城の方をぼんやり眺めて過ごすようになりました。

月が見事な晩のことです。
娘は突然立ち上がり、村はずれの荒れ地に向かって走り出しました。
草ひとつ生えていない地面を、月光が寒々と照らし出します。
娘はその光景をしばらく睨みつけていましたが、突然
「こんちくしょおおお!」
と叫ぶやいなや髪にさしていた櫛を地面に投げつけました。
それで勢いがついたのか、娘は身につけていた王子からの贈り物を次々と、叫びながら荒れ地に向かって投げ捨て始めました。
「えいやあああ」
「ばかやろおおお」
「うおおおお」
そしてどこに持っていたのかマッチを取り出すと、着ていたドレス(これも王子から贈られたものです)を脱ぎ捨てると火を付けました。贈られた恋文の束を握りしめていましたが、これも
「燃えっちまええええ」
と全て火へくべてしまいました。

火からは黒い煙が高く立ち上り、それはそのまま空へと登って黒い雲になり、空を覆いました。あんなに月が煌々と照っていた荒れ地は真っ暗です。そして空があちこち光ったかと思うと岩を転がすような不穏な音がし始めました。雷です。夕立のような激しい雨も降り始めました。

急なことに娘は動揺し、とにかくここにいては危ないと家へ引き返そうとしました。と、ひときわ大きな音が響き、目が潰れんばかりの光が辺りを包みました。娘のすぐ近くに雷が落ちたのです。娘は驚いて気絶してしまいました。

翌朝娘が目を覚ますと、荒れ地は見事な葡萄畑になっていました。
娘は急いで家に帰り、このことを両親に報告しました。
両親は娘が無事に戻ったことをまず喜び(なんたって一晩中探していましたからね)、後日娘と共に葡萄畑へと向かいました。

「これは・・・なんて質の良い葡萄だろう。きっと素晴らしい葡萄酒になるぞ」
はたして、元荒れ地だった葡萄畑の葡萄はとても美味しい葡萄酒になり、あまりの評判に王様が買い求めるまでになりました。
娘の家は栄え、娘はまた葡萄畑でせっせと働くようになりました。その内王子のことなんかすっかり忘れて、幸せに暮らしましたとさ。

王子がその後どうなったかって?
特にひどい目にあった訳ではないようですよ。
ただ、あの葡萄畑から出来た葡萄酒を王子が飲もうとすると、葡萄酒は蒸発したようにどこかへ行ってしまうのだそうです。


ーーーーー
・・・私はハイヌウェレ型神話(神の死体から作物が育つ神話)みたいな話を目指して物語を書いていたはずだが・・・。
全然違う話になっちゃった。あれー?
あとは個人的に「ちくしょおおお」と「燃えっちまえええ」という台詞が書きたくて書きました。なんかストレスたまってんのか私よ。

実はこれ昨日書いた話を大幅に改変したものです。昨日書いた話はあまりにも内容が暗かったので下書き保存して、今朝読み直したらやっぱり暗かったので書き直したのが今回の話です。
一応元の話も貼っておきます↓。

「鳩になった娘たち」
ある村に四人姉妹がいました。
姉妹はつつましく助け合って暮らしていました。

ある時末の娘が魔女だという疑いがかかりました。潔白を必死に訴えましたが聞き入れてもらえず、哀れ末娘はあっという間に村人達に連れて行かれて火あぶりにされてしまいました。

姉達は変わり果てた末娘の体をそっと持ち帰り、
一番上の姉は末娘の歯を小麦畑に
二番目の姉は末娘の心臓を葡萄畑に
三番目の姉は末娘の髪を林檎畑に
それぞれ埋めました。

翌年四姉妹はご馳走を作って村人達に振る舞いました。小麦畑も葡萄畑も林檎畑も、その年はとても出来がよく豊作でしたので、パン、葡萄酒、りんごのパイがふんだんに振る舞われました。

ところがそれらのご馳走をたべはじめてからしばらく、村人達が急に苦しみだしました。1人、また1人と苦しむ人は増えていき、とうとう村人全員が倒れてしまいました。

次の日旅人がその村を通りかかった時、村人達はすでに全員息絶えていました。末娘の姉達の姿はどこにもありませんでした。

ただ村はずれからやけに真っ黒な鳩が四羽飛んでいったのを、旅人は見たと言います。


・・・暗いな!
書いて思ったんですが、こういう悲惨だったり残酷だったりする内容を「お話」に昇華するのって難しいんですね・・・。
なんか生々しいというか、ただ嫌な気分になるだけの物語になっちゃう。神話やエドワード・ゴーリーみたいな「残酷だが美しい」感じの話が書けるようになりたいです。

では今日はこの辺で。

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