とっておきのおまじない

ああ、君もあいつを探しているのか。
僕にもわからないんだ、本当に急にいなくなっちゃったから。

2人で暮らしてたけどね、いつも一緒に出かける訳じゃもちろんない。
ただ、お互いに声はかけてから出かけるよ。あいつが鍵を持たずに散歩に出た時に、僕が知らずに鍵をかけてしまったことがあって。それから少しでも外に出るときは、お互い一応声はかけていこうということになったのさ。

うん、だからあの夜はあれっと思ったんだ。ドアが閉まる音で出ていったんだなと気づいたから。ドアを開けて通路を見たら後ろ姿が見えたから、鍵は持ってるのかと声をかけたんだが振り向きもしなくてね。慌てて追いかけて・・・階段を下りたところで見失ってしまった。
そうしてそれっきりさ。

何か変わったこと?
うーん・・・。

え?何かもらってなかったか?
ええと・・・ああ、彼女から手編みのマフラーをもらったんだって言ってたな。室内なのに首にまいて「いいだろ」って僕に見せびらかしてきたんだ。
そういえば、あいつが使っていた部屋になかったな。よく覚えてないけど、最後に見た時巻いていたような・・・。

その彼女?なんか、民話を研究しているって言ってたよ、何度かあいつと一緒に部屋に来たことがあって。いやお邪魔しちゃいけないからさ、そういう時は挨拶だけして外に出るようにしてたよ。

字が綺麗だったな。マフラーについてた手紙を見せられたんだよ、「毎晩毎晩心をこめて編みました、大事に使ってね」って書いてあった。
なんでも「月を見るための部屋」ってのが彼女の家にあって、そこで月明かりを頼りに編んでたんだって。目を悪くしそうだけど、月光ってそんなに明るいもんかな。



「行方不明のAに十字路で会った」という情報が入ったのはひと月後である。Aは「新しい仕事についたんだ」と譫言のように繰り返し、またどこかへ歩いていってしまったという。首には白いマフラーを巻いていたそうだ。



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昔話の「月の夜ざらし」を知らないと今回のお話は分かりにくいかも・・・!力不足だなー。

月の夜ざらしはこういうお話です。↓
http://www.rg-youkai.com/tales/ja/07_fukusima/02_tsukinoyozarasi.html



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