木幡真人|masato kohata

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木幡真人|masato kohata

Runtrip Magazine編集ディレクター(Runtrip, Inc.)/ 文章を書いたり走ったりしてます。本や映画の話、考えごとの話が多めです。

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強さとは、速さとは。小説「風が強く吹いている」を再読して気づかされたこと

週末、小説「風が強く吹いている」を再読した。 この本を初めて読んだのは2011年、中学卒業間際。駅伝という競技に出会った中学3年、好きになった物事には没頭する癖がある僕はあらゆる選手の情報、過去の映像を見入った。2010-2011シーズンは現在マラソン日本記録保持者の大迫傑が早稲田大学へと入学した年であり、早稲田大学が学生三大駅伝で史上3校目の三冠を達成したシーズンだった。 長距離選手たちが魅せる異次元の走りに魅了された僕はすっかり駅伝沼へと浸たり、行き着いた先がこの「風

    • 仙台にまつわる、10年くらい前の記憶

      最近、仙台で過ごした学生時代のことをよく思い出す。 長いもので2014年〜2021年まで7年間大学に在籍したのだけど、とくに思い出すのは2014年〜2016年くらいの3年間。でも、当時参画していたプロジェクトや自分たちで立ち上げた活動のことではない。もっと日常の一瞬を切り取った、瞬間的に現れるシーンを思い出す。ヒトコマの写真のように。 正確にいえば、大学1年〜3年の時期に重なるこの頃は学外での活動に没頭して、よくも悪くも意識が高かったころ。日常の瞬間的なシーンといっても、

      • 戦友とは"翼"を授けてくれる人たち

        29歳になった。自分が20代最後の1年を迎える、というかあと1年で30歳になることを未だ信じられずにいるけれど、数字だけは順調に積み重なっていく。 誕生日を迎えた今週、2つの朝ドラを見終えた。一つは今期の『虎に翼』。もう一つは3年前に放送された『おかえりモネ』。感想はSNSに洪水を起こすほど流したので割愛するが、どちらの作品も20代最後の1年を迎えた自分にとって今後の羅針盤となり得る物語だった。 人生はドラマではない。劇的な展開があるわけでも、岡田将生も坂口健太郎も目の前

        • 「まともにならなければ」という呪い

          ずっと何かに追い立てられている。清潔感のある服装をしなければ、年収はこれくらいでなければ、これくらいのものを持たなければ、20代後半ならこう振る舞わなければーー。他者からの要請でそうなっているのか、自分から湧き出る感情で願っているのかだんだんと境界は薄れ、強固な強迫観念へと変わってゆく。 25歳で東北の小さな大学を卒業した。学生時代は震災復興や教育関連の活動に入り込んでいたが、卒業を目前にした年に悩みの土壺にはまり結果的に卒業が3年遅れた。隔絶された長い空白時間を抜け出すと

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          旅と内省と世界のこと|広島旅行記

          8月の初旬、一人旅で広島に行った。幼い頃、夏休みになると年一回祖父と旅行に行ける機会があったのだが、いつも行き先は乗りたいのりものから考えていた。 東北新幹線に乗りたいから東京、乗ったことのない700系に乗りたいから名古屋……と旅行に行った。その選び方は20年経った今でも変わらず、新幹線だけでなく飛行機も選択肢に入った。 空港に行くと飛行機が並ぶ光景にいつも胸が躍る。朝早く羽田空港へ向かいぼーっと離陸していく飛行機を見つめる。なぜ好きなのだろう。非日常に行ける期待感なのか

          旅と内省と世界のこと|広島旅行記

          あの言葉たちは仕掛けられた爆弾だったのかも|映画『ラストマイル』を観て

          “時限爆弾”という一種の表現がある。 例えば、10代の頃にとある大人から貰った言葉。そのときは、それがどういう意味なのか深くは分からなくとも自分が大人になる過程で経験を通して、その言葉への解像度を深めていく。そして、あるとき突然腑に落ちたり、はっと何かに気づかせられたりする。 または、ネガティブな方向に受け取れば「呪い」という言葉にも変化する。周囲からかけられた些細な言葉が、大人になっても縛り付けていたり、積もりつもっていつか爆発したりする。 言葉には、その瞬間は何事が

          あの言葉たちは仕掛けられた爆弾だったのかも|映画『ラストマイル』を観て

          "繋がり"の暴力性、そして

          ある人に「明日の夜空いてるか?」と聞かれて、空いてると答える。とある懇親会のようなイベントに誘われた。 久方ぶりにその人から連絡があったので、話したいと思いそのイベントへ出向くことにした。 その日、お店に行ってみるとすでに会は賑やかな様相を呈していた。誘ってくれたその人と目が合い、そこへ行くとすでにそこには入る隙間もないほどテーブルを囲む人たちが座っており、結局早々にその人が僕のことを紹介だけして他のテーブルに行ってしまった。 その人と話せることを期待して来たのに、結局

          "繋がり"の暴力性、そして

          夏の絶不調日記

          舌にできた口内炎がなかなか治ってくれない。正しくは舌炎というらしい。 毎日チョコラBBのドリンクとビタミンを摂るサプリを飲んで、10日になるというのに手強いもので居座り続けている。口内炎というのは、一個は小さいのに口の中で当たるものだからずっと気になってしょうがない。 おかげで、喋るのも一苦労だし食べられるものも刺激が弱いものを選ばざるを得ない。ここ数日食べるものは戻ってきたけれど、ちょっと前は冷たい麺類しか食べられなかった。 時を同じくして夏バテになった。倦怠感と微熱

          “完璧”とは脆いはずなのに|映画「PERFECT DAYS」を観て

          遅ればせながら、というか超絶遅れて、映画「PERFECT DAYS」を観た。少し前に、PERFECT DAYSを観た友人が「まだやってる映画館もあると思うから観てほしい」と言うので、調べたところ確かに上映している映画館があったので土曜日に観てきた。 公開当初、SNSで見かける感想は賛否が真っ二つに割れているように見えた。特にその対象だったのは、主演の役所広司が演じる平山の姿で、その生き方を絶賛している人もいれば、批判的な人もいた。 PERFECT DAYSを観た友人が「自

          “完璧”とは脆いはずなのに|映画「PERFECT DAYS」を観て

          過去に存在する自分の“加害性”との対峙(小説「ブルーマリッジ」を読んで)

          あの人が今の自分の発言や投稿を読んだらどう思うのだろうか。過去の自分の行動は、批判する自分にそのままブーメランとして返ってくるのではないか。 フェミニズムやジェンダーについて学ぶようになって、この社会に存在するマチズモや男性優位主義的な価値観に対して嫌悪感を抱くようになった。その分、明確に受け付けたくない著名人や作品も増えた。せめて、自分はよくありたいと思いジェンダーに関する本を頻繁に読んだ。 しかし、学ぶことによって自分の知識や考え方を改めるほど、過去の自分の行いや見過

          過去に存在する自分の“加害性”との対峙(小説「ブルーマリッジ」を読んで)

          居心地が良い場所と悪い場所がある世界

          関東では梅雨が明け、体が暑さに順応していく間合いを無視するかのように気温が甚だしく上昇していく。外に出れば、都会のビル群という蒸し風呂に閉じ込められたような気分さえ漂う。 この空気をあと2ヶ月も味わう必要があるのかと思うと、夏が苦手な自分を絶望が襲ってくる。12分計があって苦しくなったら出られるサウナのように、一瞬ドアを開けて涼める世界があったらいいのにと思う。冷房が効きすぎた寒暖差のはげしい室内ではなく、爽快な自然を五感で触れられる草原のような場所がいい。 緩やかな妄想

          居心地が良い場所と悪い場所がある世界

          「わたしは怒っている」に思い出した自分が生きてきた過去のこと|ドラマ『虎に翼』を観て

          関東では梅雨入りして、雨がちだった週末。周囲からよいと勧められていたNHKの朝ドラ『虎に翼』を最新回まで観た。 このドラマを観て自分は何を思いだしたのか。何を感じたのだろうか。 “女性の怒り”をポップに消費してしまっていた10代小学生から中学生にかけての時代、怒れる女として叫ぶ姿が休日の昼下がりにテレビで放送されていた田嶋陽子さんのことを友達がモノマネして茶化していた。自分は何も知らず無邪気にそのモノマネを笑っていた。 中学2年のとき。S先生という50代の女性の教師がそ

          「わたしは怒っている」に思い出した自分が生きてきた過去のこと|ドラマ『虎に翼』を観て

          4月から毎月NPOに寄付している話

          もう3ヶ月目くらいになるだろうか。4月からとあるNPO団体に毎月1000円寄付している。月末が来るたびクレジットカードの明細に団体名と1000円の金額が表示されているのをみて、今月も自分は寄付したのだなと小さく嬉しくなる。 寄付先として選んだのは、教育関連のNPOとして活動している「カタリバ」のマイプロジェクト事業。 選んだといっても、もともとどこにしようか悩んでいたというよりはほぼカタリバ一択だった。キャリア教育などの事業を行っているカタリバに寄付したいと思ったのは、自

          4月から毎月NPOに寄付している話

          ものさしの外に触れた旅

          2週間前のこと。友人を訪ねて、山形県酒田市へ旅行にいってきた。 2日間の滞在でいろいろと感情が動かされるできごとがあったので旅行記を書いておきたい。 羽田から朝一の庄内空港行きの便に乗り、約50分。宮城出身の自分は東北へ飛行機で旅行にいくという感覚がなかったので、新幹線の行先山形でも秋田寄りの地域になると飛行機という選択もあるのかと新鮮だった。 ちなみに4月はどうにも仕事が慌ただしく、前日も仕事を終えたのが22時前。本当に山形へ行けるのかと不安を抱えながら平日を乗り切っ

          ¥300

          ものさしの外に触れた旅

          ¥300

          静寂に身を浸すことで感じられた「小さな声」

          ときどき自分の声が小さすぎて聞こえなくなるときがある。 綺麗だと感じていたものへの確かな思いも薄れ、本のページを開く余裕もなくなる。仕事に忙殺され、今日出す記事をあっぷあっぷと溺れそうになりながらギリギリのところで公開ボタンを押す。SNSに氾濫するまったくどこが真理なのかわからない真理が流れてきたり、キラキラとした画像に映し出される世界をぼんやりと眺めては酔いから逃げるように現実世界へ戻ってくる。疲れ果てた心と頭で何かを絞り出す元気もなく、また眠りに就いて、ぼんやりと朝を迎

          静寂に身を浸すことで感じられた「小さな声」

          2024.04.07

          昨日、吉祥寺を友人に案内してもらった。先日、関東での暮らしも4年が経ったと書いたがまだまだ行ったことのない街や足を踏み入れたことのない場所も多く、吉祥寺は2回目だった。 ひとりの時間が増えたものの、横須賀に住んでいることもあってひとりで都内の街に遊びにいくというのが最初は楽しかったが、だんだん疲れるようになって家にいることが多くなった。だからこそ、友人とどこか不慣れな街へ足を踏み入れてみることは大切なのだと身をもって実感する。 高校生の頃まで東京駅まで行けば〈東京〉なのだ