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私たちはどんな歴史を築くのか?──柄谷行人『世界史の構造』読書感想 #2

読みびとのまさきです。

前回より、柄谷行人さんの『世界史の構造』をご紹介しております。今回は#2です。(#1はこちら

この本を読んで得た感動をお伝えすることで、この本を手にとってみようと思っていただけたら嬉しいです。


■歴史はすべてつながっている

今回、この『世界史の構造』を読んで、なぜ紹介したいと思ったのか。

一言で言うと、この本を読んで、世界史がすべてつながったのです。

私は元々学校の授業でも世界史が好きでした。いや正しくは得意でした。なぜかというと、私は暗記が得意で、世界史は覚えるだけで点が取りやすかったからです。もちろん少なからず歴史に興味があったというのもありますが、暗記の力を存分に発揮できたというのが大きいです。
得意科目ではあったものの、いかんせん、学生を卒業し、社会人になってからふと振り返ると、これがまったく覚えておりません。これがただ暗記して終わりという、今の日本の教育だと感じます。

今改めて思うと、世界史を闇雲に覚えていても、●●時代とか●●文明とか●●帝国とか、歴史をぶつ切りに覚えていて、全く繋がってないのです。例えば、原始時代から四大文明がどう繋がっているのか、はっきり説明できない。それが私たちが生きる時代まで繋がってくるわけですが、いつのまにか戦後になってしまう。もちろん教科書の単元が進んでいけば、時代は現在に近づいて行くのですが、それを部分で勉強してても全く意味がないのではないかと思います。

その点、この『世界史の構造』は、歴史を部分で見ていくのではなく、歴史がどう繋がっているかを「交換様式」という概念を使ってすべて説明しきっているのです。それによってつながりに納得感を持って世界史を俯瞰することができます

原始社会を歴史に入れ込む必要があるから交換様式という概念が必要だという話は前回もしましたが、そこからなぜ支配と従属の関係が生まれて帝国が形成されていったのか、神聖ローマ帝国やモンゴル帝国の領土拡大がなぜ起こったのか、なぜ大航海時代が始まりヨーロッパの国々が船を出して新しい大陸を発見しようとしたのか、そしてヨーロッパ大陸や中国、インドなどでなぜ宗教が必要だったのか、特に三大宗教がなぜ広がっていったのか、なぜ国家が国民に教育と訓練(軍隊)を施すのか、など社会の仕組みや構造を時代を経るごとにつなげて理解することで、私たちがどこへ向かおうとしているのかを考えることができるようになります。

地政学、歴史、人類学、哲学などの人文学系の基礎がこの本で十分身につくと言えるほど、素晴らしい一冊だと思います。正直、高校の社会科の授業はこの本を読み込むだけで十分なのではないかと思うほどです。(国家の都合が絡んでくるので、これをそのまま教科書にはできないと思いますが・・・)

■私たちは抑圧されている?

最後に、柄谷さんの本を読んでいるとたびたび遭遇する、興味深い考え方に触れていきたいと思います。

それは「抑圧された遊動性への回帰」という考え方です。「遊動性」は「自由」と言い換えてもいいかもしれません。歴史を動かす原動力として、「抑圧された自由への回帰」がたびたび起こっていると柄谷さんは述べています。

この「抑圧された遊動性への回帰」の元は、心理学者のフロイトが提唱した「抑圧されたものの回帰」という精神分析上の考え方です。心理学や精神分析の分野では、「抑圧」とは、「ある記憶がないものとされている状態において、人間はその記憶を完全に消し去ることはできず、無意識の中でずっと持っている状態」のことで、その抑圧されたものが、ある時ふと別の形で蘇ってしまうことを「抑圧されたものの回帰」と表現します。

柄谷さんは「抑圧されたものの回帰」が、歴史上においてたびたび起きているのではないかと述べています。つまり、私たちが本来持っている、人間としてのあり方や価値観といったものが、長い間抑圧されていたとしたら、それが何かのタイミングで噴出することがあるということです。つまり、革命や大きな反乱というかたちで、その時の支配層を転覆させて、新しい社会を作っていく原動力になるのです。例えば、フランス革命などもそれにあたります。

私がなぜ、「抑圧されたものの回帰」を興味深いと思ったかというと、今の現代社会を見ても、何か抑圧されているものを取り戻そうとする動きが蠢いているのではないかと感じているからです。『世界史の構造』では、そこまでは言及されていないのですが、私はそう考えながら興味深く読んでおりました。

どんなところに「抑圧された遊動性への回帰」が起きているか。

私たちの世代にとっては、当たり前のように、大学に入って新卒で企業に入るという、ある意味制限されたキャリアを築く生き方が主流でした。その生き方は、何かを抑圧してしまっているのではないかと感じます。そして、まさに今、自由を取り戻すために、「大企業にずっと長く勤めるのはちょっと違うよね」という生き方が、社会を動かしています。若い人でも早くから働き方の自由を求めていたり、(私もそうなのですが)フリーランスのような生き方を選ぶ人が増えていたり、自由を志向する人がどんどん増えていっており、今何かがじわじわと噴出しているかのような印象を受けております。

これは一種の「抑圧されたものの回帰」として見ることができるのではないでしょうか。革命のような暴力的な歴史が生まれるような世相ではないと思いますが、緩やかにおのずと起きてきている現象と感じます。

私たちが、遊動性=自由を手に入れようとする動きは、おそらく歯止めの効かないものになってくると思います。とはいえ、私たちがこの自由をずっと維持できるかというと、資本主義に飲み込まれている現代社会ではそうもいかないというのが現状です。お金が支配している世の中に対して、私たちが認識を変えて、遊動性=自由を維持し続けられるように社会を築いていけるかがポイントになってくるでしょう。

その「遊動性」が最も持続していたのは、文明が生まれる前の未開社会においてであり、その時代に採用されていた「交換様式」が、互酬性や贈与の考え方でした。自由を保ちながら社会を維持してきたその歴史に、何かヒントが隠されているでしょうし、私たち自身が現代においてどのように分かち合いの精神を持つことができるか、また宗教の力も弱くなってきている中で、何を精神の拠り所としていくのか、しっかりと考えていかなくてはなりません。お金ではない何かを信じて社会を築き、精神的にも物質的にも抑圧から解放されていく仕組みを私たちが作っていく必要があります。

個人的には贈与や利他なども読書のテーマとして持っていますので、その分野で学びの深い書籍も追々ご紹介していきたいと思っています。

2回に渡って、柄谷行人さんの『世界史の構造』をご紹介させていただきました。また次回は違うテーマで投稿したいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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