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よりぬきしりんさん

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2023年2月の記事一覧

小説/『く旅れた』・番外篇

小説/『く旅れた』・番外篇

今回のコラム『く旅れた』は、ちょっと趣向を変えてみる。

筆者の懲戒解雇のちょっとした休暇を利用して、ヴァカンスの穴場であるプラベント首長国へと足を伸ばすのだ。
あまり聞きなれない地名だが、知る人ぞ知る、まだ知る人に会ったことはないが、私も知らなかった。

まだ雪が舞う当地から、国内便で成田へ、そして国際線の端っこでプラベント・エアに乗り換える。離陸の瞬間は、何度経験しても胸が躍るが、今回は、離陸

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半日記/空想癖

半日記/空想癖

朝おきてから、この歌が、心からはなれない。ひさかたの光のどけき春の日に、しづ心なく花の散るらむ。紀友則さん、いい歌です。枕詞をふくめて、無駄な語がない。どれかを抜けば、たちまち桜の木は折れてしまうだろう。きょうは重たく曇っていて、まだ当地は雪がちらついている。花は散るどころか、ほころぶ気配もみえない。だが、私の目にはみえている。うららかな春の陽ざし、ほのかに冷たい風、花びらは舞い、風のない花びらも

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日記/法悦四八〇

日記/法悦四八〇

神性だの、無に充たされるだの、考え、書いていても、わたしは六万円の電気代におびえる、電気子羊にすぎない。または、わたしは六万円におびえる電気子羊にすぎないが、神性だの、無に充たされるだの考え、また書いている。どのみち、まさか、墓石に「六万円」と彫られることもあるまい。かつて、池田晶子おねいさんは、哲学に救いなどあるもんか、すがるなんて、お門違いだわよ、と喝破なさった。御意。とはいえやはり、繭のよう

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日記/追儺の変

日記/追儺の変

どうにも、虫の居所が悪い日であった。肚のなかに虫が居る、とは頓狂な謂いだが、大脳辺縁系の機能亢進より、体感として、よほど的は射ている。腹には虫など居りませんよ、と断言するのは、腹に虫が居なかった者の特権だ。小五のとき、わたしと信ちゃんだけ、別室に呼ばれた。虫がおったとよ、と保健の先生に言われ、赤いのみ薬をもらった。蟯虫だ。おしりぺったんフィルムを、朝いちばん、肛門に押しつける検査に引っかかった。当

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エセイ/戒語 '23

エセイ/戒語 '23

以下、歯に衣着せぬ自省。

*

構想が湧いた、よしいっちょ小説でもと思えばそこで既に負け戦なのである。エセイと随筆の隙間でちょちょいと筆を動かすから、愚にもつかぬポエムが出来上がるのである。棺桶の型に嵌める覚悟が失せて、細かな行替えと聯立てでどうも分からぬ事を書けば詩、な訳がないのである。存在、事象、言語、認識、認知、社会、文化、鏡像、形式――以上の語をすべて用いて文学の本義を述べよ(二十点)。

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