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EDGE OF SANITYはなぜメロデスでありながらメロデスではなかったのか: 傑作"Purgatory Afterglow"の30周年再発によせて

「NIRVANA はビッグになる前から好きだった。ENTOMBED の Uffe Cederlund が "Bleach" のテープを送ってくれたんだけど、僕にとってあれはロックとデスメタルの究極の融合だった。僕と Andreas "Dread" Axelsson は、Kurt Cobain が亡くなった当時、グランジの大ファンだったんだ。つまり、"Purgatory Afterglow" は Kurt に捧げたアルバムだったんだ」

EDGE OF SANITY は "馴染めなかった" バンドです。スウェディッシュ・デスメタル、メロディック・デスメタルの勃興期を過ごしたにもかかわらず、彼らは典型的なデスメタル作品をリリースすることはありませんでしたし、あの北欧デスメタルの殿堂サンライト・スタジオでレコーディングするという当たり前のこともやりませんでした。

EDGE OF SANITY がシーンやその常識に決して馴染めなかったのは、Dan Swano をはじめとする5人のメンバーが、そこに決して馴染もうとしなかったから。彼らは決して普通であることに満足ず、 "Unorthodox" "型破りな" というタイトルのアルバムをリリースし、やがてポップなフックやゴス・ロック、そしてプログの大作まで侵食し、デスメタルのステレオタイプを続々と破壊していったのです。それは、メタルの多様化、つまりモダン・メタルの誕生と完璧にリンクした動きでした。

彼らのキャリアは2003年の復活をのぞけば、1989年から1997年までと非常に短かく、しかしデビュー作から "Crimson" までわずか5年の間に彼らが見せた幅広さと進化は、より有名な同胞たちの追随を決して許しませんでした。そのため長くは続かず、Dan Swano 自身は他の多くのバンドやプロジェクトを通じて、さまざまなアイデアを探求することに向かって行ったのです。それもそのはず、Dan Swano の音楽的DNAはあまりにも幅広いものです。

「ヘヴィ・メタルはあまり聴いていないんだ。メタルは仕事で十分だ!僕の主な耳の保養はA.O.R.とポンプ・ロックで、ポップ・プログレも少し混ぜている。 Simon Phillips, Les Binks, Ian Mosley, Steve Rothery, Dann Huff, John Wetton, Didge Digital, Geoff Downes, Jonathan Cain, Geddy Lee, Neil Peart, Fish, Steve Hogarth, Wayne Hussey, Kevin Shields, Chuck Schuldiner, Nicke Andersson, Patrick Mameli, Hank Shermann, Glen Tipton/KK Downing, John Tardy ...もっともっといるけど、彼らが僕の複雑な音楽的DNAの構築に一役買っているんだ」

メタル界で最高のサウンドのレコードをプロデュースし、Witherscape, Pan.Thy.Monium, Nightingale, Moontower, などおそらく百を超える他のプロジェクトを手がけるワーカホリックな鬼才は、もしドリーム・バンドを作れるならという質問にもブレることはありません。

「世界最高のサッカー選手たちを1つのチームにまとめるようなものだね。ドラマーは Simon Philips, ギタリストは Dann Huff が1番で John Petrucci が2番かな。ベーシストに関しては、よくわからない。Geddy Lee がいい仕事をするかもしれない。僕はたぶん自分を入れず、カウベルかトライアングルみたいなものをたたいて、2人目のドラマーとして Terry Bozzio を連れてきて、Simon と一緒にプレイするのが見たいな。かなり大規模なドラムになると思う。シンガーとしては、本当に好きな人はたくさんいる。Lou Gramm が全盛期だったころの初期の FOREIGNER や、Joe Lynn Turner の RAINBOWのような歌声は、まさに好みの歌声だ。90年代前半の MARILLION の Steve Hogarth あるし、本当にたくさんのシンガーがいる......たくさんの人と一緒に AYREON みたいなものを作って、ドラマーやあれやこれやを交互にやってみようかな(笑)」

Dan Swano には当時、そうした多様なメタルの志を分け合える仲間がいました。

「その昔、Jon Nödtveidt と Mikael Åkerfeldt の活躍を見るのは素晴らしかった。2人と共に戦えたこともね。あの2人は、今でも人々がプログレッシブなエクストリーム・ミュージックに足を踏み入れる扉を開いてくれているね」

氷のようなトレモロ・リフ、グルーヴ、アコースティックなパッセージ、ニューウェーブやゴスのシンセやメロディ、遊び心のあるネオ・クラシカルなリード。そこに Swano のキャッチーでしかしニヒルな歌唱も加わった "Purgatory Afterglow"。EDGE OF SANITY のキャリアで最も親しみやすいレコード。そこにはまるで、ストックホルムの同業者をついに受け入れつつ、それでも彼らの慣習を拒絶したような振れ幅の広い音がありました。メロデスを許容した彼らはしかし、自らの特異な性質を際立たせることを決してやめなかったのです。では、Dan 自身は当時の北欧メタル・シーンをどう俯瞰していたのでしょう。

「僕たちは、物事を別の場所に持っていった開拓者だったと思う。DISSECTION は素晴らしいメロディーをたくさん持っていたし、IN FLAMESも最初の頃は素晴らしいものを作っていた。7歳の頃からメロディック・ミュージックをプレイしていたから、メロディックなメタルをプレイする準備はできていた」

それでもアルバムは、決して支離滅裂には感じられません。オープニングの "Twilight" は、1994年、いやおそらく史上最高のデスメタルの1曲でしょう。8分近くに及ぶこの曲は、プログレッシブなパートごとに新しいフック、メロディー、リフが満載されています。この曲と "Black Tears" には、冒険への恐怖心、キャッチーさへの恐怖心が微塵もなく、当時メタル世界の中にあったポップや他ジャンルを包容する際の迎合感を鼻で笑い飛ばしています。日本でいえば、BUCK-TICK を想起させるような自由。そうして "Purgatory Afterglow" は、キャッチーでバラエティに富み、クレイジーでヘヴィーで、時には実に爽快な作品として長く記憶に残ることになったのです。

それから彼らは、バンドの崩壊と引き換えに2枚連続の傑作 "Crimson" を産み落とすことになります。

「セカンド・アルバムの後、僕たちはオルタナティヴ・メタルのようなものだと言っていた。DREAM THEATER のようなバンドのファンが、CANNIBAL CORPSE を陳腐すぎると思うようなリスナーが対処できる最も過激なものだと思うのを見たいんだ。僕たちは、そういった人たちにとっては最もブルータルなバンドなんだ。それが僕の目標だ。僕自身は、デスメタルは全く聴かない。ソフトなものを聴く方が好きなんだ」

そう、"Crimson" はデスメタルのファン以上に、プログレッシブ・ミュージックのリスナーが夢中になるような全1曲40分の壮大な組曲でした。例えば、これも Dan が手がけた INSOMNIUM の "Winter's Gate" が1曲のアルバム全体で8つのセクションに分かれていたのに対し、"Crimson" はまさに1曲。ヴァース、コーラス、ブリッジの概念を巧みに利用し、いくつかのメロディーに何度か戻ることで親しみやすさを与えつつ、色とりどりの様々なパッセージを活用することで長尺を感じさせません。

悪魔との戦い、魂を閉じ込めるカプセル室、儀式的な集団自殺…堕落した地球の物語でハイライトはアルバムに点在しており、ストーリーと重なりながら両者を不可分に結びつけ、盛り上がりとクライマックスを生み出します。救世主の王妃を悼む王の嘆きは、黒々とした激流に変貌し、デスメタルから脱却しながらも見事に死と破滅の影を生み出します。

「もっと多くのバンドが正直に言うべきだ!STRYPER のレコードを聴いていることを隠すべきではない。僕の心はデスメタルにはない。僕らの音楽はデスメタルじゃない。初期のころは、デスメタルのアルバムを1枚半くらい出していた。僕がデスメタルを好きじゃないからって、僕らを弱虫だと思う人がいたら、他のメンバーを見てほしい。彼らはラップしか聴かない。彼らはデスメタルにはまったく興味がない。彼らは髪を切り、ローズとピンクに染めた。僕らに共通しているのは、今まさにそれでもデスメタルをやっているということだ。デスメタルを書くのは好きだけど、聴くのは好きじゃない」

初期の OPETH を Dan Swano の Unisound が手がけたことは有名ですが、OPETH から "盗んだ" ことも彼は認めています。

「OPETH の1stアルバムは僕の心を大きく揺さぶった。ミキシングが終わった後、僕は EDGE OF SANITY のみんなに OPETH のことを説教したし、彼らのヴァイヴの多くを盗んで "Crimson" アルバムを作り上げた。もちろん、Mikael にボーカルとギターでも参加してもらったけど。OPETH がアルバムのリリースを1年遅らせたのは、より良い印税率などを得るために弁護士などを通して交渉したからだ」

そうして実際、EDGE OF SANITY は "Crimson" でデスメタルを "破壊“ しました。

「この作品は曲の一部分だけを聴くことはできない。それは不可能だ。もちろん、聴くことはできるけど、そういう問題じゃない。"Crimson" をレコードとして見るより、映画として見た方がいいと思う。イントロからアウトロまで僕たちについてきてほしい。ソファに座って音楽を聴きながら、スピーカーから流れてくる音以外のことは考えないでほしいんだ。それが目的なんだ。全体を聴いてもらうか、聴かないか。
デスメタルを破壊し、拡大するのはこれ以上は無理だ。ゴス・ロックをやって、何度かその一線を越えたこともある。とにかくみんな受け入れてくれる。偏狭なクソ野郎のことなら、知ったこっちゃないからな」

最後に、Dan Swano 自身が選んだ彼の最高傑作5枚を挙げておきましょう。

「難しいけど、いつも少しずつ入れ替わるけど、トップ5くらいに入るのは、もちろん Moontower、Edge Of Sanityの "Unorthodox"、Witherscapeの "The Northern Sanctuary"、Nightingaleの "Retribution " だね。お気に入りのベイビーたちだ!」

参考文献:


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