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アーネル・ピネダの "JOURNEY" (ルビは旅路)

先日、音楽業界大重鎮オバサンがこんな投稿をして物議を醸した。

「まぁ、私のような古いファンは、フレディが亡くなっな後、フリーやバッド・カンパニーのヴォーカリストだったポール・ロジャースのクイーンを見ていますからね。
ポール・ロジャースはひたすらロックの人だったし、華が無いし、フレディが残した作品としての色も匂いも色香も無く、ひたすら殺風景でしたから、落胆と失望感だけがどんよりと灰色に残ったことを覚えています。
だからアダムがいてくれて、今のクィーンを迎える事が出来ているのだと、古いファンには解るはずです」

なまら失礼じゃね?気がつくと、僕の心の中の道産子ギャルが、BLACKQUEENで着飾りながらそう噛み付いていた。見ていますからねピエンじゃないんよ。何マウント?パラマウント?!英国史上最高のボーカリストに対して、なんたる不遜。なんたる無礼。思い上がりもはなただしい。そもそもこれ、アーティストに対する愛情が感じられないし、批評じゃなく偏見たっぷりな個人の感想だよね。

まずね、大前提として、あの時 QUEEN は気の置けない親友であるポールだからまた動き出せたんだよ。ビッグベンの時計の針を動かしたのはポールなんだ。

それにね、フレディが亡くなって10年ちょっとで、はい代わりのフレディですって、フレディ・タイプのシンガーとやれるわけないでしょ?

そもそも、あのライブ作品の "I Want it All" を聴いていれば、"色香がなくひたすら殺風景" なんて冷酷な言葉が出てくるわけがない。ポールのソロ曲 "All I Want ls You" とか、FREE の大名曲 "Come Together in the Morning" を聴いていれば、"ひたすらロックな人" などという酔狂な形容も出てくるわけがない。

つまりね、単純に教養と学びと敬意がぜんぜん足りていないんだ。批評は個人の感想なんて時代はとうの昔に終わっている。昔は、適当に思ったことをそれらしく書き連ねたらお金になったんだろう。いや今もそうか。だけど、しっかり学んで、聴いて、読んで、発見している僕らからすれば、こんな "偏見思いつき" オジサン、オバサンがのさばっている業界自体が不幸だし、砂を噛むような気持ちになるんだよね。誰かを褒めるとき、誰かを下げる必要なんてある?

それにしても FREE や BAD COMPANY の美味しささえわからないなんて…僕はね、あのとき QUEEN がやる FREE や BAD COMPANY が聴けて純粋にうれしかったんだ。こんな幸せな奇跡はそう起こらないよね。

奇跡といえば、JOURNEY が来るね。ご承知のとおり、今の JOURNEY はバンドの顔であったスティーブ・ペリーではなく、アーネル・ピネダがボーカルを務めている。僕はね、JOURNEY でもまた同じことが起こりそうな嫌な予感がしているんだよね。

アーネルの場合は、もともとフィリピンでスティーブの完コピをしていた人だから、"JOURNEY の世界観を壊した" なんて批判はないだろうけど、"本物じゃない"、"やっぱりスティーブじゃなきゃ" みたいなことは言われるんだろうな…

あのね、JOURNEY の人間関係めちゃくちゃなの。ドロドロのドロなの。訴訟合戦しながら平然と一緒にライブしているサイコパス集団なの。スティーブはそのあたりが無理寄りの無理すぎてもう近づかないんだと思うんだよね。だからね、今の JOURNEY も、温和なアーネルがいるからこそ続いているんだよ。

そもそも、偉大な人物の後を継ぐことほど難しいことはない。会社でもスポーツでもなんでもそうだと思う。大きなプレッシャーと周囲からの比較。特に、JOURNEY のような世界でも10指に入るビッグ・バンドならなおさらだよね。アーネルは、フィリピンというロック第三世界から出てきて、これまで本当によくやっていると思う。

というか、ここだけの話、僕が JOURNEY で一番好きなアルバムはアーネルが歌っている "Eclipse" なんだ。なんか後ろめたいけど、あまりにも過小評価されている"Eclipse" は、1977年の "Next" のように知的で濃密な作品でありながら、非常にエッジーで、かつ80年代に見せたメインストリームのポップ・センスを些かも失ってはいない。アーネルの感情的に成熟しながら高揚感のある歌唱も見事。"Chain of Love" や "Anything is Possible", "Resonate" の歌メロの素晴らしさよ。哀愁も強めだしね。

ニール・ショーンの100%が聴けるのも大きい。ニールのソロ・アルバム、特に僕の聖典 "Late Nite" を聴けば、彼が80年代の JOURNEY で見せた美技でさえ、その才能のほんの一部分であることに気づくだろう。だけど、"Eclipse" にはニールの全力、プログレ魂、ギター魂、ハードロック魂が余すことなく注入されている。"City of Love" や "Edge of the Moment" の複雑怪奇なリフワークなんて、ホント神がかっているよね。BAD ENGLISH のファーストをもっとプログレッシブにしたというかね。

というか、アーネル時代の作品、全部良いんだよね。"Revelation" はもっとラジオ向けだけど、実にカラフルで色鮮やか。最新作 "Freedom" は、前半こそ安牌を置きに行った感があるけど、後半は充実したさすがの仕上がりだ。

だからね、偏見を捨て去って、もう一度アーネル時代の作品にも向き合ってほしいんだ。ある意味、JOURNEY という大看板を取り除いて聴いてみるのも面白いかもしれないね。信念と偏見はちがう。スティーブ・ペリーとスティーブン・セガールくらいちがう。偏見に曇った目では、新たに広がる世界を見通すことはできないだろう。君たちの "JOURNEY" は、もっと自由であってほしいんだ。


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