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擬態は解かれたか?: HELLOWEENの"Chameleon" 30周年によせて。

「"Chameleon" は、当時の HELLOWEEN が必要としていたものだと思う。最初の頃は多くの人がこのアルバムを嫌ったけど、今では誰もがが30年という月日を重ねて、これが優れたロック・アルバムだということに気づいているんだ」
ローランド・グラポウスキーの言葉だ。

HELLOWEEN の "Chameleon" が発売されてから30年の月日が経った。ハッキリ言って、賞賛より非難の声が多かったアルバムだ。というか、ジェロム・レ・バンナにボコボコにされたマット・スケルトンくらい一方的に叩かれ続けたアルバムだろう。
だけどね、音楽はカメレオンだ。ある人には黄色に見えてもある人には青に見える。ある年齢では赤に見えたものが、歳を重ねて緑に見えることもある。発売から30年経って、そろそろ正当に評価されるべきだろう。HELLOWEEN の "Chameleon" は決して悪くない。むしろ良い。

おそらく、批判や非難の多くは、"メタル" じゃないとか、"散漫" "ポップ" すぎるというものだったと思う。だけどね、あのメタルを歌うために生まれてきたマイケル・キスクが歌っている時点でもう、それは何であろうとヘヴィ・メタルなんだよね。

「"Chameleon" は別のアプローチでもっと良くなっていたかもしれないけれど、それは当時の状況と意図の結果だった。200万ドイツマルクの借金を背負わされ、どうにかしてその借金を返さなきゃならなかった。アルバムを商業的なものにすればうまくいくと思ったんだ」

ヴァイキーの言葉だ。僕はこの言葉を聞いて "いや、むしろぜんぜんあなたたち "擬態" できてませんよ" と思ったね。乱暴かもしれないけど、ホーンやストリングスをちょっと使っただけで、あんたらポップスやブルース舐めすぎでしょと。最高のメタル・シンガーと最高のメタル・バンドが、そうそう他のジャンルに鞍替えできるわけがない。結局、騒がれたわりに、このアルバムはどこもかしこも金輪際全然メタル、パワー・メタルだ。少なくとも完璧で究極のロックだ。でもね、挑戦しようという意図は、明らかにプラスに働いている。

「僕にとっては、まったく自然なことだった。僕はメロディックなものから入ったから、僕の曲 "Music" や "When The Sinner" のギター・パートを聴くと、70年代のものもたくさん入っているよね。当時はスティーヴィー・レイ・ヴォーンをよく聴いていたんだ。マイケル・キスクと僕は彼に夢中だったからね。その頃、彼は亡くなったんだ。"Pink Bubbles Go Ape" のレコーディング・セッションの時にね。僕たちはデンマークでスタジオにいたんだけど、彼が亡くなって、とてもショックを受けたんだ。マイケル・キスクもそうだった。僕たちは本当に大ファンだった。
アルバム "Chameleon" では、ブライアン・メイや QUEEN のようなパートなど、いろいろな影響を聴くことができる。自分のギター・ヒーローたちを、ロック・ソングの中で自分のギター・プレイに取り入れたんだ。今でも気に入っているアルバムだ。大のメタル・ファンにはあまり向かないけど、本当に奥深いアルバムだ。このアルバムを聴けば、時代を超越していると思うよ」

再度、ローランド・グラポウスキーの言葉だ。
何気にこの人、"The Chance" とか "Someone's Crying" とか通好みの良い曲を書くし (地味だけど)、ギターも個性があるわけじゃないけど (そこそこ) 達者だ。だけどやっぱり地味だからか、HELLOWEEN のお祭り再結成パンプキンズ・ユナイテッドに呼ばれることはなかった。在籍年数などを考慮すれば十分に資格はあるような気もするのだけど…
まあ、逆にいえばお祭りに呼ばれないくらいの絶妙な仲だからこそ、バンドを客観的に見ることができるのかもしれない。カイ・ハンセンの後任として "Pink Bubbles" から加入したギタリストは、当時をこう振り返っている。

「最初の2枚のアルバムは難しかった。というのも、僕は完全に壊れたバンドに入ったから。彼らは曲作りや音楽の方向性をめぐって常に互いに争っていた。僕は恥ずかしがり屋で、議論に加わることもなく、ただ聞いているだけだった」

イヤすぎるでしょ…新しい会社に中途で入ったら借金だらけで初日から先輩同士がギスギスしまくりとか、僕なら翌日から絶対行かんし、なんならGoogle Mapに"ギスギスモーター"と書き込むくらいはするだろう。なんなら、会社の前の街路樹にせっせと肥料をやり続けて生い茂らせる。これね、グラポウスキー、毎日スタジオに行ってるだけでもう偉いんですよ。

「正直に言うと、とてもクレイジーな時期だった。このアルバムのタイトルは、僕らがそう感じたからつけたんだ。カイがバンドを離れたとき、全体のバランスが崩れた。バンドとして、本当に機能しなくなっていたんだ。"Chameleon" でもいい曲はあったし、悪い曲を書いたとは言わないけど、以前のように一緒に仕事をするバンドではなくなっていたんだ。"Pink Bubbles" ではまだバンドだったけど、"Chameleon" ではもうそうじゃなかった。HELLOWEEN という名前で3人がソロ・レコードを作っているようなものだった。
それでも、"I Believe" と "Longing" は、このアルバムの中で僕のお気に入りだ。悪いアルバムではないし、とてもクールなレコーディングだった。NDR(エルプフィルハーモニー管弦楽団)にも参加してもらって、ではストリングスを25人で演奏したし、ホーンもあった」

マイケル・キスクの言葉だ。バンドはキスク、ヴァイキー、マーカスという船頭を3人も抱えてしまっていた。ゆえに、楽曲の約60%はバンドのトレードマークである強烈なパワー・メタルで、残りの40%は "カイ、お前がいなくても俺たちはこれまで以上にビッグになれるんだ!" という反抗的/妄信的な実験性と挑戦心が支配することとなった。

うん、だからこそ、あまりに奇妙すぎて、病的な好奇心から聴き続けてしまうパワー・メタルの万華鏡が生まれたんだ。そう、カイ・ハンセンという巨人の離脱は、バンドに混沌と闘争と反骨心をもたらし、ゆえに、パワー・メタルにおける実験、初の "モダン (多様)・パワー・メタル" アルバムが誕生することとなったんだ。メロハーの感動的な実験、TNT の "Firefly" と対をなすような名品だよねえ。

クラシック/メタルのクロスオーバー、ブルース的なスタジアム・ロック、ブリット・ポップ、シンセ・ウェーブ、フォーク、ビッグ・バンド、ロカビリーにQUEEN、そうそう、ビートルズも。おもちゃ箱から飛び出した反骨の玩具たちは、パワー・メタルの上で自在に踊り、躍動する。自由を支えるのは極上の演奏とプロダクション、そして旋律の妙。特に、アルバム前半のメロディは飛び抜けて良い。

"Windmill" は、このアルバムの決定的な瞬間のひとつだ。風車のように緩やかな時間の流れが、僕たちの人生を導き、愛と自由を見つけるチャンスを与えてくれるようにという祈りの曲。落ち込み続ける必要はない。いずれ、僕たちを暗闇から救ってくれる時が来るのだから。

"I Don't Wanna Cry No More"は、ローランド・グラポウの亡き弟ライナーに捧げられた曲。家族がこの世を去るとき、僕たちはもう会えないことを遂に知る。人生は花のようにはかないものだと歌っている。この曲のキスクの歌声には情熱と力と慈悲がある。まるで、インゴがじきにこの地上を去ることを知っていたかのように…。

"First Time" は、生涯一度の恋に落ちた男の話だ。彼は彼女に心の扉を開いてくれるように頼み、願わくば一生を通じて二人で楽しい時間を過ごしたいと望む。少なくともチャンスを与えて欲しいと懇願する。30年、"Chameleon" を放置してきた忠実な HELLOWEEN のファンも、もしかしたらこのアルバムに扉を開けて、ほんの少しの "チャンス" くらいは与えてあげてもいいのかもしれない。


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