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【気まぐれ映画連載】3/8は国際女性デー!ミスコンから変革に挑んだ『彼女たちの革命前夜』 | 文:アーヤ藍 | 映画でまーる vol.7|2024年3月号

3月8日、何の日かご存知でしょうか?1975年から国連によって定められている「国際女性デー」です。「女性に対する差別をなくし、女性の経済的、政治的、社会的地位を向上するために連帯して行動していこう」という日です。

でも、「女性に対する差別」と言われても、もしかしたらあまりピンと来ないかもしれません。自分が生きている日常は慣れ親しんだもので、そこに違和感を見つけることの方が難しいものです。多少違和感を覚えることがあったとしても、「そういうものだよね、それが普通だよね」と流してしまっているかもしれません。

そういう時は映画を通じて「一昔前」を見るのが個人的にオススメです。今よりも差別の現れ方が色濃かった時代を、映画を通して客観的に見てみると、「あれ?こういうこと、今もあるかも」と気づくヒントになるからです。

そんな観点から今回は1作品をご紹介。『彼女たちの革命前夜』です。
昨今、日本でも大学のミスコン/ミスターコンの是非について議論が起きたり、中止・廃止する大学も出てきていますが、本作は1970年に、世界三大ミスコンテストの一つ「ミス・ワールド」に抗議して、イギリスの女性たちが起こした前代未聞の大騒動を基にした作品です。

当時のミスコンはというと、評価基準を聞かれた運営関係者がメディアに対して「未婚」「”手付かず”であること」「3サイズ」と堂々と答えたり、後ろ向きで一列に並んだ水着姿の女性たちのお尻を、審査員や観客の男性たちが吟味するなど、女性が男性の「見せ物」のように扱われる状態が公然と存在していました。

そして主人公の母親もミスコンのテレビ放送を楽しんで見ていたり、幼い娘もテレビに映る出場者たちの振る舞いを真似するなど、女性たちの多くもその状況に疑問を抱いていなかったのです。

そんな中、どう「革命」を起こすのか。ぜひ本編でご覧いただければと思います。

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彼女たちの行動はイギリスにおける女性解放運動を世界的に知らしめ、そのムーブメントの勢いを強めることになります。

彼女たちのように、過去に闘ってくれた人たちがいたおかげで、今「違う未来」が生まれていることに気づかせてくれるのが、この作品の魅力の一つ。そしてもう一つ本作がユニークなのは、マイノリティとマジョリティ、社会的に力をもつ人ともたない人の構造が複雑に交差している点です。

主人公のサリーは、見るからに裕福で、いい教育を受けてきた”育ちのいい”女性です。一方、彼女を抗議運動へ巻き込んでいく女性のジョーは、体制に反対するいわゆるヒッピーです。二人のバックグラウンドの違いが軋轢を生むこともあれば、相互補完的に活動の力を強めることもあります。
また、当時は人種差別に対する社会の関心も高まっていた時代。出場者の属性を多様にするためにアジア、アフリカ、カリブの国々からも女性たちが招かれます。その女性たちの中には、ミスコンで自分が優勝することが、母国の女の子たちにとって希望になるのだと考えている人もいます。その感覚はイギリスで白人として生まれ育ってきたサリーたちには想像もつかないことです。

「ひとりの人」も実は多様な要素で構成されていて、ある面ではマジョリティであっても、違う面ではマイノリティであったり、権利を求める立場になることもあれば、権利を搾取する側に立っている可能性もあります。また自分より「恵まれている」ように見える存在でも、こちらからは見えない悩みや苦しみを抱えている場合もあります(たとえば最近は、男性の生きづらさについてもメディアで多く取り上げられています)。

どちらのほうがより辛いかとか、どちらの方がより正しいといった勝敗の議論にするのではなく、一人一人が声を上げることと声を聞くことの両輪で、縦横に対話を育んでいくことが大切なのではないでしょうか。

とある別の映画で、差別を受けてきた黒人女性が「1つ差別を受けると、他の差別にも敏感になる」と話すシーンがありました。そんなふうに、自分の辛い経験を、自分自身の権利を守るためだけでなく、周りの人にまで広げて想像する力に変えることができたら、社会はもっと温かい場所になるのではないかと思います。

だから今回の国際女性デーも、女性だけにかぎらずに、みんなが知り、考える時間にしませんか?まずは一本の映画からでも。

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映画『彼女たちの革命前夜』
2019年 / 107分 / イギリス


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この記事を書いた人

ai ayah
ユナイテッドピープル(株)で環境問題や人権問題など、社会的メッセージ性の強い映画の配給・宣伝を約3年手掛ける。2018年春よりフリーで、ライター、イベント企画・運営、映画PR等を行う。


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