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2024年1月の記事一覧
『布団座からの帰還』 # シロクマ文芸部
布団から出ると、そこには見覚えのある顔。
見覚えがあるどころか、間違いない、その女性。
記憶よりも少し年老いてはいるが、間違えるはずもない。
そして、その隣には、高校生くらいだろうか、やんちゃそうな男。
そうだ、学校に行かなくちゃ。
立ちあがろうとする。
その時、女性が僕の名前を呼んだ。
「カン君」
「お母さん」
思わず声が出る。
そうだ、この人は僕の母親だ。
「え、兄ちゃんなのか」
男が僕を見つ
『雪の下に』 # シロクマ文芸部
雪化粧と聞くと、死化粧を思い浮かべるのは私だけだろうか。
秋が深まり、紅葉した葉がひと通り散り果てたある日。
窓を開けると、いちめんの白。
普段は、緑や黄や茶や青や、それぞれの色を持つものが、すべて白一色になる。
それなのに、不思議に、見渡せるものの輪郭が前よりもくっきりと現れる。
今まで気がつかなかったものの存在を知る。
秋の収穫がひと通り終わると、人々は家に閉じこもる。
窓には板を打ちつけ
『ドローンの課長』 # 毎週ショートショートnote
「課長、遅いですね」
高橋さんが窓際の課長席を見ながら言った。
「煙草でも吸ってるんじゃない」
係長の井口さんも課長席に目をやる。
「でも、課長は煙草吸わなかったよね」
主任の樋口さんが、キーボードを叩きながら言う。
「課長は何をしてるんだ」
部屋の奥から、石山部長が怒鳴り始める。
そのやり取りを、僕は書類に顔を落としたまま聞いている。
始業時間から30分が経っている。
「そういえば」
高橋さん
『本を書く』 # シロクマ文芸部
本を書く、そう言って先輩は姿を消した。
あれは、今頃の、サークルの飲み会の二次会か三次会のこと。
先輩と2人きりだったから、三次会より、さらに後だったかもしれない。
俺は本を書く、その夜、実際にはもう朝だったけれども、そう言って先輩は僕たちの前から姿を消した。
姿を消したと言っても、学生運動華やかなりし頃の地下に潜るようなことではない。
文字通り、姿を消した。
誰かが下宿を訪ねたが、もぬけの殻だっ
『会員制の粉雪』 # 毎週ショートショートnote
季節がセレブだけのものになって久しい。
それどころか、庶民は暦まで奪われてしまった。
今日が何月何日なのか。
庶民は、何も知らされないままに働いている。
一年などという周期もない。
仕事の大半はロボットで間に合っている。
残るのは、セレブたちの生活の後始末だ。
セレブたちは、豪華な家の中に季節を再現している。
バーチャルな桜を咲かせ、バーチャルな太陽に汗をかく。
バーチャルな紅葉が散ると、バーチ
『船中問答』 # シロクマ文芸部
「新しい水夫が動かせるのは、古い船だけなのさ」
「お前、まだ酔ってる?」
「いや、酔っちゃいないさ」
「まあいいさ、昨日は結構飲んだからね。酔い覚ましにコーヒーでも飲もうよ。僕が淹れるから。コーヒーあるよね?」
「ない。でも、古い船はあるんだ」
「それは、あれだろ。吉田拓郎が歌った『イメージの詩』」
「ああ、でも、あの歌は、この古い船をこれから動かすのは君たち若者だ、さあ頑張れ、なんて、そんな意味
『夜光おみくじ』 # 毎週ショートnote
仕事始めの1日を終えての帰り道。
毎年この日は、終わってからの新年会がある。
酔いを覚まそうと、少し遠回りする。
近くの神社の境内にさしかかった。
高台にあり景色がいいので、時々訪れる。
夜景を眺めていると、人の気配を感じた。
振り向くと、老人が立っている。
その周りには、蛍のような光。
こんな時期に蛍なんてありえない,
そばまで行くと、その老人は言った。
「綺麗でしょ」
「これは?」
「おみ