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『ドローンの課長』 # 毎週ショートショートnote

「課長、遅いですね」
高橋さんが窓際の課長席を見ながら言った。
「煙草でも吸ってるんじゃない」
係長の井口さんも課長席に目をやる。
「でも、課長は煙草吸わなかったよね」
主任の樋口さんが、キーボードを叩きながら言う。
「課長は何をしてるんだ」
部屋の奥から、石山部長が怒鳴り始める。
そのやり取りを、僕は書類に顔を落としたまま聞いている。

始業時間から30分が経っている。
「そういえば」
高橋さんが話し始めた。
「この間、ランチをご一緒した時に、『俺はもうドロンしたいよ』とおっしゃってました」
「ドロンだと、あのヤロウ」
また、石山部長が怒鳴る。
「最近、疲れてたからねえ、課長」
と井口係長。
樋口主任も
「顔色もね、そういえば」

ドロンじゃない。
机の下で僕は拳を固めた。
そっと窓の外に目をやる。
あの時、課長は僕にこう頼んだのだ。
「俺をドローンにしてくれないか」
窓の外に現れたドローン。
小さな円を描くと、高層ビルの向こうに消えて行った。
課長、お元気で。

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