『人生の選択』
あなたは、生きていて楽しいですか。
いやいや、わかりますよ。
生きていりゃ、楽しいことも悲しいこともあります。
じゃあ、質問を変えましょうか。
そうした、楽しいこと、悲しいことも含めて、この先も生きていきたいですか。
そうですよね。
生きていきたいですよね。
明日、辛いことがあるとわかっていても、それは明後日には良くなっていくんじゃないか。
起きるのが嫌な朝もありますが、でも、なんとか起き出して会社に行く。
予想通りに、嫌なことが起こる。
上司に叱られる。
でも、思いもしない誰かが励ましてくれるかもしれない。
いや、もしかすると、全てを失い、ひとり路頭に迷うことになるかもしれない。
いっそ、死んでしまいたい。
でも死なないのは、そんなことをしなくてもいつか死ぬとわかっているから。
それは、明日なのか、明後日なのか、いや何十年も後かもしれないけれども。
ただひとつ言えるのは、どんな人生でも、明日はわからない。
ましてや、一年先、何十年先のことなんてわかりはしない。
はっきり言いましょう。
あなたが、それがどんな人生であれ、生きていられるのは、わからないからです、先のことが。
何を偉そうなことを、ですって。
逆にあなたになんか、わかるものですか。
私のことなんか、知りもしないくせに。
よく推理小説にあるでしょう。
最後の方に、「読者に挑戦」と。
つまり、ここからがネタバラシですよと。
中には、ご丁寧に袋とじになっているものもある。
それですよ。
あなたの人生は。
毎日が袋とじだ。
でも、翻って私の人生はというと。
袋とじをペーパーナイフで切り開いて、最後のどんでん返しまで十分味わった本を、もう一度最初から読まされているようなものです。
失敗です。
私の人生は、全てがわかっているのです。
朝起きて、今日は何があるか。
誰が何を言うのか。
明日は、どこに行くのか。
なんなら、何年の何月何日にどこの国がどこの国に攻め入るか、そんなことまでわかっています。
なんですって。
予知能力ですか。
はいはい、それならどんなに良かったでしょうね。
これは、能力なんてものではないんです。
ただ、知っているのです、私は、私の、あなたの、世界の未来を。
永遠にじゃありませんよ。
私がまた死ぬまでの間のことだけです、私にわかるのは。
ええ、「また死ぬ」って言いましたよ。
「また死ぬ」と。
だから、言ったじゃないですか、失敗だと。
そうなんです。
次の人生を選ぶときに、もう少し慎重になるべきだったのです。
ついつい、早くしてよと後ろの女に急かされて。
それで、なんとなく表紙が綺麗で良さそうな人生を選んでしまったら、この始末です。
それ、前回の私の人生だったんですよ。
あなたにも経験があるでしょう。
ほら、面白そうだと思って買った本が、途中でこれ読んだことあるなってわかること。
映画を見始めて、これ前に見たやつだと気がつくこと。
それを、私は人生でやってしまったのです。
だからね、わかるんですよ。
私が死ぬまでに、何が起こるのか。
最初は、わかりませんでした。
似たようなこともあるだろうと。
でも、この既視感、デジャブの連続。
生き始めて、少ししてから、あれ、この人生、知ってるぞって思い始めたのです。
いや、それどころか、明日自分に何が起こるか、誰と出会うか、毎日が思い浮かんだその通りに過ぎていく。
わかっていただけましたか。
本や映画なら途中でやめられます。
でも、こればっかりは。
とりあえず、この人生を終えてしまわないと、次にいけない。
たがら、あなたも気をつけなさい。
あまり自分の表紙を飾ってしまうと、うっかりまた手を伸ばしてしまいますからね。
それと、もし自分の人生になんとなく見覚えがあるなと思ったら、私と同じ失敗を疑った方がいい。
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