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『会員制の粉雪』 # 毎週ショートショートnote

季節がセレブだけのものになって久しい。
それどころか、庶民は暦まで奪われてしまった。
今日が何月何日なのか。
庶民は、何も知らされないままに働いている。
一年などという周期もない。
仕事の大半はロボットで間に合っている。
残るのは、セレブたちの生活の後始末だ。

セレブたちは、豪華な家の中に季節を再現している。
バーチャルな桜を咲かせ、バーチャルな太陽に汗をかく。
バーチャルな紅葉が散ると、バーチャルな北風が吹く。
暖かいダウンにくるまるのだ。

たが、雪だけは降らせてやらない。
俺は、そのシステムを作った人間だ。
あいつらに全てを渡すわけにはいかない。
俺は、この庶民たちにこっそり粉雪を降らせてやる。
それで彼らは、一年が経ったことを知る。
もちろん、会費はいただく。
こいつらの良心だ。

良心がたまれば、俺はやるつもりだ。
セレブたちの上にも雪を降らせてやる。
彼らが埋もれてしまうまで。
彼らにはわからないはずだ。
自分の死がバーチャルなのか本物なのか。

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