見出し画像

【読書】北欧における民主主義~『北欧の幸せな社会のつくり方 10代からの政治と選挙』(あぶみあさき)~

授業準備のために読んだ本です。


デンマークを除き、北欧各国では選挙に際して各所に選挙スタンド(著者が呼ぶところの「選挙小屋」)が置かれます。

日本にあるような選挙カーや、駅前で大音量で演説する候補者はいない。候補者やボランティアは、ニコニコと笑顔で選挙スタンド周辺に立っている。市民が話しかけやすくなるように、立ち入りやすい空間と立ち寄るきっかけ(コーヒーやおやつ、無料配布のグッズなど)を準備することが重要になる。

pp.10-12

選挙カーや街頭演説がないのは、良いですね。コーヒーやおやつ、ニンジン(フィンランド、ノルウェー)にとどまらず、文房具などの選挙グッズも無料で配布できます。「『コーヒーさえも用意できない政党は、選挙で勝つ気がない』といえるほど」だそうです。魔法瓶や日焼け止めなど、結構コストのかかりそうな選挙グッズもあり、それはどうかと思いますが、選挙がお祭り感覚で楽しそうです。

なおコーヒーに添えるミルクの説明として、「ラクトースフリーの牛乳」というのが出てきたのですが、お腹がゴロゴロする原因であるラクトース(乳糖)をカットした牛乳のことだそうです。日本でもあるようですね。


相手が外国からの観光客でも、すでにほかの政党に事前投票した人でも、未成年でも、投票権がない外国人でも、気にしない。相手が誰であろうと真面目にわかりやすく、一生懸命に政治の説明をしてくれる。

p.14

生徒(高校生)が「候補者がチラシを配っていて、内容に興味があったから受け取ろうと思ったのに、私にはくれなかった」と怒っていたことがあります。未来の有権者にそんな態度をとる日本の候補者とは、大違いです。


なおデンマークの場合は選挙スタンドはなく、代わりに選挙ポスターを街じゅうに貼りまくるそうです。緑のある公園はいけないのに、「道路に単独で生えている木には貼っていい」(p.24)とか。選挙ポスターだらけときくと、醜悪な街並みを想像しますが、写真で見た限りでは、街並みに溶け込んでいる感じで、あまり気になりませんでした。


ノルウェーの地方自治省に問い合わせたところ、「子どもや若者が選挙運動に関わることは制限していない」そうだ。成人か未成年か、選挙権があるかないかは、関係ない。国の未来を決める政治は、みんなで一緒に考える。なぜなら、それこそが彼らが大事にする民主主義だからだ。日本でも子どもの頃から政治について考える機会がもっとされば、国のかたちは変わるのかもしれない。

pp.29-30

子どもも外国人も国を構成している一員なのだから、それぞれの方法で国のあり方を考える。それで良い気がします。


民主主義には「わかりやすさ」も含まれており、一部のエリートや専門家だけにわかる言葉で政策や資料を作るのではなく、「誰もがわかりやすい」ような表現やデザインが、民主的なのだ。

p.34

最近読んだばかりの「ビッグイシュー日本版」にも、誰にもわかりやすいデザインの問題が出てきました。


デンマークには「パント」というリサイクルシステムがあり、パントマークがある容器を店に持っていくと、代金の一部を返金してくれる。金銭的に余裕がない人は、パントでおこづかいを貯めていることもある。そういう人が、誰かの使用済み容器をゴミ箱をあさらずに集められるように、専用の置き場所を作っているのだ。リサイクルにもなるし、市民の心遣いが現れる。

p.37

ゴミ箱にある張り出し部分についての説明です。パントの仕組みも、張り出しを設ける心遣いも良いです。同じページに載っていた「無人の交換ボックス」も良いなぁ。別にお金はいらないから、誰かに使ってほしいものってあるので。


民主主義とは、市民一人ひとりが「積極的に」社会活動や政治の決定に携われることを意味する。

p.56

文字どおり民主主義について考えているのが、以下の本です。


驚いたのは、そんな若者の政治への関心が高い北欧において、フィンランドの2014年のEU議会選において、18~24歳の投票率が10%(p.60)という数字が挙げられていたこと。国政選挙や自治体選挙では投票率が高くても、EUだと自分の1票の重さを感じられないなどの理由から、投票率が下がってしまうようです。


北欧で選挙前になると全国各地の高校で行われる、「学校選挙」「模擬投票」の制度も良いですね。選挙権を持つ高校生も持たない高校生も参加可能だそうです。

この学校選挙の結果は、本来の投票日の直前に発表されるのだが、政治家やマスコミは、この結果に非常に注目している。正式な選挙の結果には反映されないが、学校選挙は「未来の国の行方」を暗示しているともいえ、長期的な選挙分析に役立つからだ。

p.66

私は以前から、15歳の時に1度「お試し投票」ができれば良いのにと思っています。中学3年生の公民の授業で選挙について学んだ後なら関心もあるので、投票に行く可能性も高いし、1度投票を体験すれば、いざ選挙権を本当に得た後も、行くのではないかと思うので。


自分に政治は関係ないと思う人もいるけれど、僕たちの生活すべてに政治は関わっている。

p.73

ノルウェーの大学生の言葉です。本当にそうですよね。


北欧では若者による気候対策の抗議運動をきっかけに、未成年という理由で若者が決定のプロセス(選挙)に関われないことは不公平だという認識も強まっている。

p.78

ノルウェーでは成年年齢である18歳から投票が可能な上、「選挙の年に18歳であればいいので、事実上は17歳でも投票で来る」(p.78)ますが、さらに選挙権を16歳に引き下げようという議論があるそうです。


また「セーブ・ザ・チルドレン」ノルウェー支部は10~15歳の小学生と中学生をターゲットに「子ども選挙」を行っています。

子どもが民主主義と政治を学び、政党へ投票する練習をするための催しだ。子ども選挙によって、大人たちに子どもが何を考えて投票をするのか、意識させる狙いもある。(中略)
投票する子どもが政党の政策を理解できるように、団体側は政党に、子どもでもわかるような政策プログラムを提出するようにお願いした。

p.87

これ、面白いです。


北欧では「パーソナルにとらえないように」(人格と議論は別のもの)という前置きやアドバイスを、議論のなかや教育現場などでよく耳にする。批判を個人攻撃や人格の否定だと感情的にとらえずに、距離をおいて受け止めよう、ということだ。(中略)個人と、テーマとなっている現象・背景・社会システムを切り離す。これは民主的な話し合いを潤滑にするスキルやテクニックで、むやみに傷つかないように自分を守るための手段にもなる。

p.98

大事なことですね。私もつい、パーソナルにとらえがちなので。

「考え」と「人格」は別物であると分かっている人と、ゴチャゴチャになっている人とでは、議論のときに感じるストレスの違いが大きい。2つを分離する訓練が足りずに、「私の考え」=「自分の一部」と思い「私自身が攻撃されている」と思いこむと、ふりまわされ、傷つきやすくなるだろう。

p.99

気を付けます。


批判する相手はあなたを個人攻撃しているわけではない。その後ろにある現象や社会システムを見通す力をつけよう。意見が異なる人の存在に感謝しよう。いろいろな考えの人がいるおかげで、民主的な社会ができる。そのことを、教育現場や社会の交流の場で、北欧の若者は教わっている。

p.100


2011年7月22日にオスロとウトヤ島で起きたテロの背景はよく理解していませんでした。

ブレイビクは、イスラム教や移民を嫌悪しているとネットで表明している。在住する移民を狙うのではなく、難民や移民の受け入れに寛容な政党である中道左派の労働党を敵意の対象とした。

p.104

ブレイビクは、移民の受け入れに寛容なイメージが強い中道左派で、最大規模の政党の「未来の政治家の卵」である青年部を狙ったのだ。

p.105


以下の指摘には考えさせられました。

ネットで嫌がらせコメントなどをする人は、「ネットに住むトロール」に例えられている。日本語では「荒らし」とも言われている。ネットトロールの誹謗中傷や攻撃が増えると、どうなるか? インターネット上で議論がなりたたずに、「嫌だなぁ」とその場を離れる人が増える。日本は匿名性が強い文化なので、ネットトロールが特に強い印象だ。攻撃されやすい移民、女性、若者などのマイノリティは、特にネットでの議論を避けるようになり、ネット上では荒らしをする人ばかりになる。それは民主主義の崩壊につながる、とも懸念されている。

p.119

ネット上でも現実の場でも、私は「『嫌だなぁ』とその場を離れる」タイプですが、良い態度ではないのですね。でも特にネット上では、議論に参戦する気にはなれませんけれど。


「政治家が市民のいる場所に足を運び、何が起きているのかを把握することは大切なこと」

p.122

オスロ市長(当時)であるボルゲン氏(左派社会党)の言葉です。日本の政治家にも聞かせたい言葉ですね。なおボルゲン氏は女性です。写真で見ると、きさくなおばちゃん、という感じ。


ノルウェーやデンマークには「キュウリの時期」というものがある。そう、野菜のキュウリのことだ。子どもだけではなく大人も夏休みをとる北欧では、人々は6~8月に3週間ほど、一切の仕事をせずに、脳と体を休ませる。(中略)
この時期は議会なども開かれず、国会はシーンとなる。新しい政策も発表されず、討論番組にも出演しない。政治家が休んでいると、この国ではニュースがほとんどなくなる。ジャーナリストやフォトグラファーたちも休みをとり、その間にフリーランスなどが、ちょっとニュースを作るだけだ。これを「キュウリの時期」と呼び、この時期に増えるのは「恋人の見つけ方」(中略)などの、いつもよりどうでもいいニュースばかり。(中略)夏休みに元気をチャージして小麦色に日焼けした政治家たちが笑顔で職場に戻ってくると、またニュースは盛り上がり始めるのだ。

pp.134-135

これ、面白いです。私は教員なので夏休みはありますが、「3週間ほど、一切の仕事をせずに、脳と体を休ませる」というわけにもいきません。政治家も含め、しっかり休みをとる北欧がうらやましいです。


写真集のような感覚でページをめくりつつ、しっかりお勉強ができてしまう本でした。


見出し画像は運河から見たデンマークの街並みです。



この記事が参加している募集

#読書感想文

191,135件

#最近の学び

182,021件

記事の内容が、お役に立てれば幸いです。頂いたサポートは、記事を書くための書籍の購入代や映画のチケット代などの軍資金として、ありがたく使わせていただきます。