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ショートショート(掌編)集

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短いお話たちです。
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#短編

バットを振る【掌編】

バットを振る【掌編】

野球はやめた。
何年前だ?
かれこれ10年近く前になるな。

それでも夜の8時になると、自然とバットを持って近くの公園にでかける。
なにかの力に引き寄せられるように、無意味だと知っていながら私はバットを振りに行く。
立つべきバッターボックスも、対戦するピッチャーもいないのに、その前段階の準備作業を何度も何度も繰り返す。

バットを振る。
体重移動を確認する。
腰の動きを繰り返して、体全体を連動させ

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あなたは私の構成物質【掌編】

あなたは私の構成物質【掌編】

「あなたは私の構成物質」
突然、彼女のフウコが語りかけてきた。

「こうせいぶっしつ?あの、細菌の繁殖を抑えたりできる万能薬のこと?」

「細菌?あ、それは抗生物質ね。同音異義よ。私が言ってるのは、構成物質!あなたが私を構成している一部だってこと」

「僕がフウコの構成物質?それはそれで、どういうことなのさ?」
僕は少し嫌な予感がした。フウコがこういった突拍子のないことを言い出すときは、決まって何

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そよ風が頬をなでた。【掌編】

そよ風が頬をなでた。【掌編】

「カンヅメ」その一言がとてもふさわしい。

朝起きて夜寝るまで、自宅の一室でほとんどすべてが完結している。

午前は論文作成、午後も論文作成、夕食後も論文作成。
そんな日々に、Bは満足しつつも、退屈していた。

研究の繰り返しの繰り返し。
たとえ好きなことであっても、習慣化されていくと「自分の意志とは違うところ」で日々の行動が行わていくように感じられる。

人はいう、「好きなことでも仕事にしたとた

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かつおぶしの旅①【掌編】

かつおぶしの旅①【掌編】

「当然のことだが、わたしを削っていくと、段々とすり減りへっていくのだよ」
そうかつおぶしが言った。
「芳しい香りと共に、わたしはだんだんと細くなっていくんだ」

「かつおぶしさん、どうかしたんですか?」
彼の隣に座っていた猫が尋ねた。
「なんだか、声が弱気になっているようだけど?」

「猫のあんたも、わたしみたいに細くなっていけばわかるさね。わたしみたいに寿命を可視化できるようになったら、猫でも犬

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