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(16)レイチェルの恥じらいーーchinko to america by mano

 女にはまったく縁がないオレだったが、学業について言えば、まずまずうまくいっていた。言葉のハードルを痛感しつつも落ちこぼれることはなく、4段階評価の中で平均3・2という成績を維持できていた。卒業までの道のりはまだ長い。だが、この調子ならどうにか2年目も乗り切れだろう。
 
 5月中旬、ようやく後期の授業が終わり、約3カ月間の夏休みに突入した。この休みを利用して日本に帰ろうかとも思ったが、オレは結局、アーカンソーに残ることにする。
 特に何もすることがなく、毎日、ジェイやカシムとアパートのプールで遊んだり、ユージのアパートでビールを飲むだけの日々が続く。ほとんどの学生が自分たちの地元に戻ってしまったため、週末のパーティーもない状態だ。
 
 6月に入ると、思わぬゲストがオレたちのアパートにやって来た。ジェイの妹のレイチェルだ。
 彼女は前年に高校を卒業し、テキサス州のヒューストンで働いていた。だが、その仕事を5月いっぱいで辞めたため、次の仕事が決まるまで居候させてほしいと兄であるジェイに頼んできた。もちろん、オレたちに異存はなく、大歓迎だった。
 アパートにはベッドルームが2つしかない。そこで、しばしの間、カシムがオレの部屋に移動し、兄妹であるジェイとレイチェルが部屋をシェアすることが決まる。
 レイチェルは髪を紫に染めた女の子で、荒んだ雰囲気を漂わせていた。そんな彼女の魅力といえば、なんといっても抜群のスタイルの良さだった。
 シャワーを浴びたあと、ノーブラで裾の長いTシャツだけを着た姿でリビングルームを歩かれると、オレの心はいつも高鳴り、もうずっとここにいてほしいという気持ちになる。
 
 レイチェルがここに転がり込む前、オレとカシムはヒューストンでレイチェルがどんな仕事をしていたのか尋ねていた。しかし、ジェイはその質問にはなぜか答えず、「よくわからないんだよ」と言うだけだった。
 ところが、ある日の昼下がり、オレはレイチェルがヒューストンで何をしていたかをあっけなく知る。
 
 その日はジェイもカシムもアルバイトで朝から外出しており、アパートにはオレとレイチェルしかいなかった。昼近くにレイチェルが起き出してくると、オレはすぐにそわそわし始めた。
 レイチェルは、いつものようにシャワーを浴びると、Tシャツ1枚の姿でリビングルールにやって来て、朝食を食べ始める。その間、オレはずっとテレビを見ていた。
 食事を終え、レイチェルは自分の部屋に戻っていく。ほっとした気分でいると、今度は30センチ四方の大きさのバッグを抱えて部屋から出てくるのが見えた。彼女はそのままオレの目の前に座り込むと、こちらを見上げる感じで「ねえマノ、ヒューストンで私が何やってたか、ジェイから聞いてるよね?」と問い掛けてきた。
 レイチェルのほうを見ると、Tシャルの裾が少し乱れていて、白いパンティーがちらちらと見える。
(こりゃ、大変だ……)
 一気に緊張度が高まっていく。
「えっ、レイチェルが何やっていたか? 知らないよ。ジェイも『よく知らない』って言ってた」
 一体どんな展開になっていくのか。オレはドキドキし始めている。
「そうか、あいつ、言ってないんだな。じゃあ、教えてあげるよ。私、ストリッパーやってたんだ」
(はい、出ました! これぞアメリカ!)
 オレは訳もなくハイテンションになって、いかにもアメリカらしい話だなと妙に感動していた。レイチェルが漂わせる荒んだ雰囲気は、ストリッパーという前職が影響しているのかもしれない。それにしても、部屋から持ち出してきたバッグは何なのか。不思議に思っていると、レイチェルはバッグのチャックを開け始める。興味津々で中身を見ると、そこには拘束ベルトと手錠、ムチが入っていた。
(うわー、何だこれは!)
 驚いているオレを見ながら、レイチェルが言う。
「マノ、SMプレーって聞いたことある?」
 そんなの、もちろん知っている。
「ああ」
 オレはそう答えた。
「私さ、実はサディストなのよ。マノ、あとでいいことしてあげるからさ、裸になって手錠をはめて、それからベルトも着けて、四つん這いになってよ。それで、その状態のあなたをムチで叩かせてくれないかな?」
 平日の昼下がり、何ともぶっ飛んだお願いだった。レイチェルはすっかりその気になっていて、ソファーに座るオレを押さえつけ、手錠をはめようとしている。そのせいで、彼女の体がオレに当たり、Tシャツがはだけてパンティーが丸見えだ。
 目下の状況に反応したオレの下半身は、激しく反応している。
(「あとでいいことしてくれる」って言ったよな。それって本当に「いいこと」なんだろうなあ。どうしようかな……。あとでご褒美がもらえるなら、少しくらい叩かれてもいいかな……)
 自分の心がグラグラと揺れている。だが、オレにはマゾの気は一切ないようだった。見返りがあったとしても、ムチで叩かれるという行為に性的興奮を感じなかった。
 しかも、仮にここで拘束されてムチで叩かれたことがジェイやカシムにバレてしまったら、相当恥ずかしい思いをするはずだ。その恥ずかしさと言ったら、カシムが男娼にちんこを舐められたのと同等レベルか、それ以上だ。となれば、レイチェルの要望に応えるわけにはいかない。
「ごめん、レイチェル。オレにはそういう趣味はないんだよ」
 そう告げたが、レイチェルはなかなかあきらめない。
「ちょっとだけだから、いいじゃない。マノには絶対にその気があると思うのよ」
 なんてこった。アメリカ人の女からすると、オレはMに見えるのか……。レイチェルの言葉にかなりのショックを受ける。
 力でオレを押さえつけようするレイチェルを払いのけ、逃れるようにアパートを出た。オレたちは、しばらくの間、すごい女とアパートをシェアすることになったようだ。

 7月末、ユージのいとこの現役高校2年生のシンジが夏休みの間の1カ月だけ遊びにやって来ることになった。
 到着の日、最寄りのメンフィスの空港まで迎えに行くと、辺りをキョロキョロとしながらシンジがゲートから出てきた。
 シンジはとても痩せていて、いかにもか弱そうな感じだ。だが、顔立ちはなかなか整っている。とはいえ、全体的にあどけなさが残っていて、「絶対に童貞だろうな」とオレに確信させるものがあった。
 
 ユージとシンジは幼いころからの顔なじみて、祖父母の家でよく遊んでいたという。ユージはシンジの兄貴のような存在だった。特に英語学校に通うというわけでもなく、いとこのいるアメリカで過ごすためにやって来たらしい。
 日本で夏休みと言えば、7月末に始まって8月末に終わるという実に短いものだ。一方、アメリカの夏休みは5月下旬から早々に始まる。そのせいもあり、7月末ともなると、オレたちは少々、休み疲れをしていた。シンジがユージのところに遊びに来たのは、ちょうどそんなタイミングだった。
 
 特に予定もないシンジは、しばしばオレのアパートにも遊びに来る。すぐにジェイとカシムにも挨拶をするようになり、そしてレイチェルとも片言の英語で話し始めた。高2のシンジにとって、実践英会話を身に着けるにはこれ以上ない絶好の環境だ。
 しばらくすると、今度はレイチェルがユージの一軒家に遊びに行き、「今日さ、シンジに英語を教えてきたよ」と言うようになった。17歳のシンジと19歳のレイチェルは、歳も近いし気が合うのだろう。

真夜中のプール

 実は、レイチェルに「ムチで叩かせてほしい」と頼まれてからというもの、オレは彼女に対して妙な親近感を覚えていた。さすがに彼女のお願いは断ったものの、何というか「2人だけの秘密」を共有しているような気分になり、すごく仲のいい友だちのようにふるまっていた。正直なところ、アパートに誰もいなくなると、オレはレイチェルのことを考えながら、ちんこをしごいて何度も果てていた。その快楽の習慣は、先週からさらに数を増している。

 前の週のある晩、ジェイとカシムが寝てしまったあと、リビングルームにやって来たレイチェルから「マノ、ちょっと外に散歩に行かない?」と誘われたことがあった。彼女の申し出はいつも唐突で、しかも何かと淫靡だった。
 彼女に恋愛感情は抱いてないが、きれいなアメリカ人女性と一緒にいられるとなれば、断る理由はどこにもない。時計を見ると、あと少しで午前1時になるところだ。ジェイたちを起こさないように、オレたちはこっそりとアパートを抜け出した。外に出ると、深夜だというのに熱帯夜のように暑かった。
 
 しばらくアパートの周りの芝生の上を歩いていると、レイチェルが「ちょっとプールのほうへ行ってみない?」と言う。特にあてもないので、オレたちはプールのほうへと歩いていき、プールサイドのリクライニングチェアに並んで寝そべった。会話が途切れたので、オレは夜空を見上げる。すると、レイチェルがかなりドキりとすることを言ってきた。
「マノ、skinny dippingって知ってる?」
 聞いたこともない言葉だ。
「知らないの。じゃあ、やってみる? 服を全部脱いで素っ裸で泳ぐのよ」
(何だそりゃ! SMの誘いのあとは、裸での水泳かよ⁉)
 最初に頭によぎったのは、「人が来るかもしれないし、そんなことできるわけないだろ」という考えだった。躊躇していると、レイチェルがその考えを見透かしたようにオレを皮肉る。
「マノはさ、いつもつまんないのよ。なんか型にはまっているって感じでさ。裸で泳ぐぐらい何でもないじゃない。せっかく誘っているのに、私と泳ぎたくないの⁉」
 レイチェルはいつも以上に挑発的になっている。一方のオレは、レイチェルの発した「マノはつまらない」「型にはまっている」という言葉にハッとさせられ、少し傷ついた。
(つまらなくて、型にはまっているような人間だったら、わざわざアメリカにまで来てないよ……)
 そんな負け惜しみめいたことをつぶやいて反論しようと思ったが、それをした途端、さらにみじめな気分になりそうだったので、オレは口をつぐんだ。
 隣にいるレイチェルは、さっきからオレの反応を待っている。
「わかったよ。服を脱いで一緒に泳ぐよ」
 その返事を聞き、レイチェルは「オーマイガー! マーノがまっぱで泳ぐって!」と言うと、オレをからかうかのようにはしゃぎ始める。
 それにしても、レイチェルの前でパンツを脱ぐのはすごく恥ずかしかった。「裸で泳ぐ」という話を聞いたせいで、オレのちんこはさっきから半勃ちの状態になっていた。
(でももしかしたら、そのぐらいのサイズ感を見せつけたほうが、かえっていいのかもしれないな……)
 オレの頭の中では様々な考えが巡っている。
 もじもじするオレとは対照的に、あたかも前職を彷彿させるかのごとく、レイチェルはいい脱ぎっぷりで、真っ裸になるとすぐにプールに入っていく。
 薄暗い電灯の中に浮かび上がるレイチェルの裸は、表現するのが難しいほど美しかった。プールに入る瞬間、彼女の乳房は大きく揺れ、すらりと伸びた足とかたちのいい尻が水に吸い込まれていく。オレは完全に夢心地になっていた。

 遅れを取らないようにすぐにプールに入ると、興奮を冷ますように体を水中に潜り込ませる。このあとはどうすればいいのだろう。そんなことを考えながら、水面に浮かび上がった。
 先ほどの挑発的なレイチェルに反抗するかように、オレは少し大胆になり、少しずつ彼女に近づいていく。だが、それを見たレイチェルの反応が、これまた悩ましいものだった。
「マノ、あんまりこっちに近寄り過ぎないで。私だってちょっと恥ずかしいんだから……」
(あっ、そうなのか。さっきまであんなに挑発的だったのに、うぶなところもあるんだな)
「型にはまっていてはいけない」というプレッシャーを感じていたが、思わぬ形でそのプレッシャーから逃れられてオレはホッとする。だがその半面、いきなり梯子をはずされたような複雑な気持ちにもなった。
 
 その晩、オレたちは距離を置きながら夜のプールを楽しんだ。
 そして結局、2人の間には何も起きなかった。
 だが、「レイチェルとの関係がさらに親密になった」という確かな感触だけは、翌朝になってもオレの中に強烈に残り続けた。

※英語の上達を望むなら、やっぱり現地で生活してみることが近道ですかね。


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