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(43)我に返るクレアーーchinko to america by mano

 クレアとオレの関係を真っ先に不審に思い始めたのは、彼女のシェアメイトではなかった。
    シェアメイトの1人にエイミーという名前の女の子がいる。彼女のボーイフレンドのジョシュアが、オレたちの関係を怪しむようになった。
 確かに、クレアの家でジョシュアと顔を合わすたびに、「こちらを睨むような厳しい表情を向けてくるな」とは気づいていた。事実、挨拶をしても、軽くあごを突き出すようにして反応するだけで、言葉にして挨拶を返すことはない。感じは良くなかったが、大学でも接点はないし、友だちでもないので、オレは特に気に留めていなかった。
 しかしクレアは、オレに対するジョシュアの無礼な態度にやたらと腹を立てていた。
「気にする必要はないよ。あの手のやつはどこにもいるからさ」
 そうクレアに伝えても、彼女は納得しない。その理由を聞くと、ジョシュアがオレのいないところで人種差別的な言動をしばしば口にするからだという。

「マノが帰ったあととかに、ジョシュアは私に聞こえるように、『オレはアメリカ人だから、〈グック〉がいるとベトナム戦争を思い出して気持ちが悪くなるんだよ』なんて、エイミーに言ってるのよ」
 なるほどそういうことか……。これでジョシュアのオレへの態度の謎が解ける。
「グック」という言葉は、日本人、中国人、朝鮮人、ベトナム人などの東洋人を侮蔑的に指すときに使われる。ジョシュアはオレをそう呼んで、クレアの家に来ることに不満をぶちまけているのだろう。
「でも、それっておかしいよなあ。あいつ、若いんだかから、ベトナム戦争に行ったこともないじゃん。それなのに『ベトナム戦争を思い出して』だなんて。どう考えてもハリウッド映画の見過ぎだろ。しかも、それをオレに直接言うこともできないんだから、『自分は無知で、弱虫です』って自ら表明しているようなもんじゃない? オレ、こういう人に差別的なことを言われても、何とも思わないんだよ。だから心配しないでいいから」
 
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 近々、電子書籍化して全文公開します。ぜひお読みください。

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