(27) アパートのプールーーchinko to america by mano
翌日の日曜日。特に差し迫った課題もなく、オレは昼前までベッドに入っていた。
9月になったとはいえ、残暑はきつく、日中は気温が30度を超える日もある。こんなとき、オレはよくアパートのプールに泳ぎに行く。
日曜の昼下がりのプールには誰もいなかった。縦10メートル、横5メートルほどの小ぶりなプールだが、それでも貸し切りの状態で泳げるのは気分がいい。
奇跡が起きたのは、このすぐあとだった。
プールサイドに上がり、デッキチェアに横になっていると、ビキニ姿のダニエラがここのアパートに住んでいるコロンビア人のモニカと一緒にプールにやって来たのだ。
「Oh my god!」
そうつぶやかずにはいられなかった。
驚いたのはオレだけではない。ダニエラも相当驚いている。
「ワオ! マノ? ハウ・アー・ユー? 驚いた! あなた、ここに住んでるの?」
「そうだよ」と答えると、ダニエラは納得したような顔をする。
それにしても、ダニエラのビキニ姿はあまりにも眩しすぎた。花柄模様のビキニは、ダニエラにすごくよく似合っている。
美しいものを見ると、人はこんなにも幸せな気分になれるのか……。そう思わずにはいられない。
誘惑に耐え切れず、彼女の体に目をやると、豊満なバストが視界に飛び込んでくる。ダニエラが発する女性の体の魅力に圧倒され、息が詰まりそうだ。
バストなんかよりも、オレがさらに強く惹かれたのは、ダニエラの長い脚だった。太ももが腰の位置まですらりと伸びていて、下腹部がきれいなトライアングルを描いている。日本人とはかけ離れたスタイルの良さに、オレは完全に魅了されてしまう。しかし、そんな素振りは一切見せず、「彼女を好きになっては絶対にダメだ」と自分に言い聞かせた。
30分ほど経っただろうか、モニカが「もうすぐアルバイトの時間だから、行かなきゃ」と言い出した。
(ダニエラも行っちゃうのか……)
もう少しの間、彼女のビキニ姿を見ていたかった。
「ダニエラ、もう少しプールで遊びたかったら、オレが残るからこのままいたら?」
口からとっさに出た言葉だった。
しばらく悩んでいたダニエラだったが、彼女からは「イエス」という答えが返ってくる。こんな展開ってあるのだろうか。心の中でオレは歓喜の雄叫びを上げる。
「モニカのアパートに荷物と着替えを置いてきちゃったから、取ってくる」
そういうと、ダニエラとモニカはプールから出て行った。
結局この日、オレとダニエラは一緒に過ごした。プールで泳ぐのに飽きてからは、デッキチェアに体を横たえてじっくりと話をした。
「ダニエラ、オレさ、実はブルガリアに行ったことあるんだ」
3年前に旅行した際、ブルガリアの首都ソフィアや黒海沿岸のリゾート地ヴァルナなどを訪ねていた。
「えー、ホントに⁉ 日本人がブルガリアを旅行するなんて、珍しいんじゃない? で、どうだった?」
「とても良かった。人がとにかく親切で、いい旅行ができたんだ」
当時のブルガリアは共産政権が倒れてから数年しか経っておらず、決して安定しているとは言えなかった。街はどこに行っても薄暗い印象で、人々もどこかうつむきがちだった。そんな大変な状況にあっても、外国人のオレに対する接し方は常に誠実で、買い物をするにもお金を両替するにも面倒な思いをすることは一度もなかった。
この時の旅でオレは、東欧を呼ばれていた国々をほぼ訪れている。ブルガリアを筆頭に、ソビエト連邦、ルーマニア、ユーゴスラビア、チェコスロバキア、ハンガリー、ポーランドの7カ国だ。ソ連やユーゴスラビア、チェコスロバキアは、すでに国家自体が解体してしまい、今はもう存在しない。
これらの国々を訪ねてわかったのは、スラブ系女性の美しさだった。いかにも〝白人〟といった印象の北欧系やゲルマン系の人たちと違い、黒や茶色の髪をした人たちも多く、彼女たちにはどことなくアジア的な雰囲気がある。過去におけるトルコ人やモンゴル人との緊密な接触が影響しているのかどうかは自分にはわからないが、彼女たちには親しみを感じさせてくれる何かがあった。そしてオレは、その親しみをダニエラからも感じていた。
ブルガリアのこと、コロンビアでの生活のこと、ウクライナでの学生時代のことなど、オレにはいくらでも聞きたいことがあった。それもあって長々と話をしていると、太陽が傾き始めた。気が付くとすでに4時近くになっている。
「少し肌寒くなってきたね。ダニエラ、大丈夫? 寒くない?」
「大丈夫。でももうそろそろ帰ろうかな……」
彼女とたっぷり話ができたので、すでにオレは幸せな気分で満たされている。
「良ければ、オレのアパートで着替えたら? すぐそこだから」
純粋な親切心から、オレは彼女にそう伝えた。
「えっ、いいの? 迷惑じゃなければ、そうしようかな……」
迷惑なわけないじゃないか。
ビキニにタオルを巻いただけのダニエラが、オレと肩を並べて歩いている。たった2日の間にオレたちの距離は急接近していた。
芝生の合間のコンクリートの通路を進み、階段を上ってアパートのドアの前までたどり着く。カギを取り出してドアを開けると、部屋の中に招き入れた。
(どこで着替えてもらえばいいのかな……)
しばし考えたあと、ベッドルームを使ってもらうことにする。先に自分の着替えだけ取り出すと、オレはすぐにベッドルームを出た。
「ごゆっくりどうぞ」
そう伝えると、ダニエラはすごくいい笑顔を浮かべながら「ありがとう」と言った。
彼女が着替えている間、オレはキッチンに行って飲み物の用意をする。ちょうど冷やしておいたアイスティーがあったので、それをグラスに入れてリビングに運ぶ。
先ほどから気持ちを落ち着かせようと努力をしていたが、やはりそれは無理だった。
すぐ隣の部屋でダニエラがビキニを脱ぎ捨て、裸になっている姿を想像した途端、性懲りもなくオレのちんこが熱くなり出した。
(ダメだ、ダメだ)
そう自戒したところで、ちっとも効果がない。
(世の中にはこういう責め苦もあるのだな……)
今すぐ頭から冷や水を浴びたい気分だった。
5分ほどして、水色のワンピース姿のダニエラがベッドルームから出てくる。
これでようやく妄想から解放される……。そう思えたのも束の間、それから先もスリルは続く。
「マノ、ごめんね。後ろのホック、とめてほしいんだけど……」
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