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マンデルブロボット
2020年4月30日 17:55
「気をつけろよシオ。そいつには時間の観念がない」忠告するならもっと早くするべきだった。外はすでに白んでいた。「何が“私が世界を壊したの”、だ。自分が破壊のヒロインか何かだと勘違いしてるんじゃないか?昔から自意識過剰なんだ、おま、いや、キミは」「うふふ。だってそうじゃない?」サタさんはそう言いながらテーブルの上を片付け、カップとティーポットを奥へさげた。「たとえサタの言う通りでも
2020年4月28日 19:23
「そろそろ帰るか」話しきって満足したのか、それとも疲れたのか、カショウはそう切り出した。さすがに子連れのグループは帰ったらしく、“シロ”はすっかり落ち着いた空気に包まれていた。相変わらず雲のない夜空と大粒の星たちは、さらにコントラストを強め、夕暮れとはまた違った美しさを見せていた。「お前、オレばっかりにしゃべらせて。今度はお前がしゃべれよ?」“お前”なんて乱暴な言葉、自分の世代でも
2020年4月26日 20:16
COVID-19は、最初は肺炎を引き起こすという触れ込みで始まった。しかし次第に、他の症例も報告されるようになった。嗅覚の異常のほかに、血管内への侵入や、それと関連して肺以外の臓器もダメージを受けることがわかってきた。一口にCOVID-19と言っても、その症状の出方は千差万別だとの現場の証言もある。もうひとつ、サイトカインストームというワードも目にするようになった。サイトカインストームとは
2020年4月25日 19:33
カショウは僕を連れ出した。晴れた美しい夕暮れだった。雲ひとつない空は、オレンジから濃紺へグラデーションをなし、ところどころに大粒の星をレイアウトしていた。この世界では、どの街も自然と人工物が調和した美しい光景が見られるが、このカショウの住むMIRAH-0041も例外ではなかった。僕たちは“シロ”に向かって歩いた。カショウによると、シロとは、古い城の周りにある盛り場のことらしい。砂や雨の
2020年4月24日 21:57
その青年が私を訪ねてきたのは一昨日のことだ。彼はシオと名乗り、頭脳都市(PHENO-00)へ向かうと言った。この世界では、他の土地から人がやってくることはあまり多くない。たいていのことがオンラインで事足りてしまうということもあるが、危険が街と街との交流を阻んでいるのが最大の理由だ。母に会うため。青年はそう言った。母に会うため、MIRAH-0017(MIRAH-XXXXとは行政区画ナンバーだ
2020年4月24日 09:42
頭脳都市。すべてにおいて例外的な場所。この社会のすべてを管理している中枢都市。そこに僕の母がいる。そこは地方とはまったく勝手が違う。そこにいる人たちは、この社会システムのために働いている。この世界に民間企業はほとんどない。だからここにいる人たちは、たいていが(あなたたちの世界の)官僚のような仕事をしている。各地のステーションから拾い上げたデータや、オンライン上の情報を元に、
2020年4月21日 20:10
ある老人は、かつて駐車場と呼ばれた遺跡の車止めの上にしゃがみ、じっとしている。きっとあなたたちの目には、暇そうに見えるだろう。しかし彼は、自分の中の無限の内宇宙を旅し、その感覚に耽っている。老人に限らず、この世界ではみな同じようなことをやっている。瞑想のようなものと言えばイメージしやすいかもしれない。その内宇宙から持ち帰ったものを、絵にするもの、文章にするもの、数式にするもの、楽譜
2020年4月20日 21:53
あの災禍のあと、僕たちの社会は随分変わった。そう、今あなたたちが渦中にある災いだ。あれから鉄道は人を運ばなくなった。そのかわり、モノを運ぶようになった。資源も限られているので、生活物資は基本的に配給制だ。レールに乗って各ハブ拠点に到着した物資は、さらに各地の配給所に配られる。住民は、役所から配られたクーポンと交換して、生活物資を得る。一部の地域では、ドローンを使ったり、各家庭に直通の